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STG/I:第四十三話:無知と未知

永遠とも思える静寂。

何時からか、どこからか、地鳴りのような音がしていることに気づいた。

意識を飛ばし、それとなく探る。

どうやら巨星の奥からのようだ。

振動は次第に大きくなる。

加速度的に。

日本人の性か、あの大きな地震の経験からか、サイトウは思わず僅かに目を開け身構えた。

(地震・・・じゃないよな・・・なんだこの振動は?)

 

振動は益々激しくなる。

ジェラスがうつ向きで、尚且つココにない為に外の様子が伺えない。

意識を通す媒介が無いと身勝手に自由に見ることは出来なかった。

このSTGIには外部モニターというものが無い。ジェラスを通し感覚を飛ばすことで、まるで幽体離脱のように意識を拡散させたり飛ばすことが出来る。長い対話の中で彼自身が学んだこと。まだコツを充分に掴んだとは言い難い。

(頭を空に・・・)

地震は直下型とでも言える凄まじい振動になった。

それでもジェラスは動かない。

サイトウは全ての意識を蜘蛛の網のように張り巡らせる。

ある瞬間、この振動の発生源がジェラスであることが浮かんだ。

彼はジェラスに感覚を寄せ、視線をジャンプ。

出来るだけ意識をジェラスの背後に飛ばし俯瞰して見る。

(よし出来た)

何度も練習した。気が遠くなるほど。暇に任せて。

巨星に突っ伏した黒いSTGIが見える。

更に引いていく。

引いてみて初めて見えた。

そこには驚くべき光景があった。

 

(巨星が・・・変形している?)

 

完全なる球形だった巨星が電球のような形になっている。

細い方の先端にいるのがジェラスだと彼は理解した。

 

(吸い出している?まさか、あの巨星を中から吸い出している!)

 

彼女が張り付いた瞬間から、ジェラスの言う「食べる」という行為は始まっていた。

まるで搾り取られるように巨星の球形部分は次第に小さくなっていく。

更に引くとこの星は電球ではなく金平糖状態であることが判った。

同じように細くなっている先端が幾つか見える。

(駄目だこれ以上は引けない)

金平糖の先端の数を数える。

見える範囲では彼女を入れて四つ。裏側には回れそうにない。

(仲間は既にいたんだ)

視線拡大は出来そうにない。

外形が掴めない。

(いつの間に?いつ申し合わせた?)

一気に彼の中では津波のような意識が溢れかえった。

(マズい。繋がりが途絶える)

途端、激しい頭痛と肉体が雑巾のように絞られるような痛みが襲う。

瞬時に意識がコックピットに戻った。

全身が筋肉痛を起こしているように痛い。

(バラバラになりそうだ)

痛みは突如として強く拡散する。

息せき切ったように全身の至るところから痛覚の奪い合いが始まった。

サイトウの肉体をバラバラになるような感覚が覆う。

彼はまるで壊れないようにするかのように膝を抱え自らを抱きしめる。

強く!強く!

(心臓が痛い・・・腕が・・・足が・・・いたたたたたたたたたたたたた)

痛みの余り呼吸が出来ない。

脂汗が流れる。

意識が飛びそうだ。

顔を伏せたまま苦悶の表情を浮かべる。

 

いよいよと思った瞬間、急に楽になる。

 

側に誰かいる。

顔を上げると、人型の影が彼の正面に立っている。

「・・・ジェラス?」

影は笑顔で頷いた。

もっとも顔は見えない。暗黒だ。

近づくと彼を覆う。

痛みが和らぎ、心臓が正常な鼓動をしだす、バラバラになりそうな感覚は癒えていき、次第に何かが満たされていく。注がれるエネルギー。

「ああ・・・ありがとう。ジェラス」

足を下ろし、影を抱きしめるよう手を広げる。

手応えは無い。

でも、サイトウは確かにジェラスを抱きしめている実感があった。

腕を下ろすと、ジェラスの影が横へ移動する。

顔を上げ船外を見ると、あれほどの巨星がまるで”きしめん”のように平たく長くなっていた。

 

「食べ終えたのか・・・もう」

 

しなだれかかった横の影が頷く。

そして最後の麺を啜るようにズルズルとジェラスの体内に吸い込まれる。

長く、長く、長く。それも一気に。留めることなく。

(吸いきった・・・)

一体全体あれほどの質量と容積を伴った巨星がどこへ行ったのか。

これが彼女らの食事なんだろうか。

物理法則に反する。

あれは食事と言うより。

 

「吸い込んだ」

 

横の影が頷く。

どうやって?

どこへ?

全てが理解の範疇を越えている。

ジェラスの大きさは変わっていない。

まるで何事も無かったように星が瞬いている。

巨星によって遮られた星々が再び戻ったかのようだ。

大きなため息が出た。

 

(終わったんだ・・・本当に)

 

影が自分の正面に回り視界を塞いだ。

もうジェラスの意識はサイトウに向かっている。

透けていない影。

実態を伴った影になっている。

影は彼の胸に顔らしき部位を埋めると手を伸ばし抱きしめる。

まるで食事に満足した子供のように。

父に甘える娘のように安堵しているのが感じられる。

サイトウは影を抱きしめ、頭の後ろを撫ぜた。

「おやすみ」

 

彼は思った。

 

ジェラスとその仲間をどう形容しようか。

意識のあるブラックホールはどうだろう。

誰が言いだしたかブラック・ナイトとはよく言ったもの。

恐らく彼女の体内にあの巨星は無いのだろう。

あっても極一部分だろう。

何処かへ吸い出したと考えると合点がいく。

彼らの種族がいる星か?

それとも別次元か?

別宇宙か?

パラレルワールドはあると聞く。

STGを作っているアダンソンらが恐怖するのもわかる気がする。

こいつはどうしようもない。

挙句にどこへ現れるかもわからない。

何が効果的かもわからない。

何が目的かも。

何もかもがわからない。

それは知的生命体にとって恐怖そのものだ。

俺はなんで恐れていないんだ?

不思議と恐怖は感じない。

わからなさ過ぎるからかもしれない。

恐怖がぶっとんでいるんだろう。

恐れを抱けるほど近くは無い存在。

天文学的な乖離だろう。

思考も感性も停止しているんだろうか。

プランクトンが恐れを抱いてもしゃーないか。

 

「在るが儘だな・・・」

 

彼女を見る。

寝息をたてずに眠っている影のジェラス。

ずっしりと重い。

まるで石像を抱いているよう。

寝ている姪を初めて抱かされた時、こんなにも重いのかと思った。

あの小さな体にこれほどの重さがあるとは。

ただ彼女はあんなものではない。

「ジェラス・・・」

今一度、彼女の後頭部を撫ぜる。

無限とも言えるほどの星々を眺める。

(宇宙は広い)

サイトウも意識を失った。

宙域には黒いSTGIだけが漂っていた。

 

*

 

あれからどれほどの時が流れただろう。

隕石型宇宙人はまるでその活動を止めたかに思える。これほど長期間に渡って彼らが姿を現さなかったことは無かった。最もこの状況がそう長く続くとは思えない。

宇宙人との対話から、いずれコロニーの連中が嗅ぎ付け無いという保証は何もない。蟻だってコロニーを壊滅させな限りホルモンをたどってまたやって来る。我々がやったのは所詮は一時期凌ぎ。

半壊した日本の本拠点は未だ改修中。それでも幸いな方だろう。世界中からどうやって隕石群を、巨星を、退けたかの問い合わせがひっきりなし。俺のメールはいつもパンク状態だ。

 

七機あったSTGIが既に一機になってしまったことは世界に衝撃を与えた。

 

同時に五カ国の本拠点を消失してしまったこともそうだ。俺にとっての最大のインパクトは、あれほどの緊急事態だったにも係らず宇宙人達が横の連携を一切行っていなかったことだが。多くの国が終わった後で腰が抜けるような思いをする。宇宙人曰くこうだ。

 

「それは貴方がたの領分です」

 

馬鹿なのか利口なのか全く理解に苦しむ。

今までも多少なりともわかっているSTG所有国同士でG7の真似事をしてはいたが、我々は可及的速やかに具体的なルール作りが必要であることを思い知らされる。最も、リアルの国家間の連携すらうまくいっていないように到底いくとは思えない。ミリオタあたらりは「無理だろ」と吠えていた。問い合わせからも伺える。作戦参加者全てにヘッドハンティングが行われている。情報合戦が始まっている。彼らは一致団結して困難を乗り越えようとか「今日が宇宙人からの独立記念日だ!」とか言う気はないのだ。欲に毒されている。手遅れなほどに。何とかなると思っているんだ。あの恐怖を、あの状況を彼らは知らないから。

 

ハンガリーのSTGIは遊撃隊ブラックナイトにより無事送り届けることが出来た。かの救出に馳せ参じたのは我ら以外に、ドイツ、イタリア、オーストリアのみ。ミリオタ曰く、奇しくも三国同盟の国だったようだ。因果は終わらないということか。死闘の末、救援に来た三カ国のSTGが来るまで守り通すことが出来た。もし、シューニャの助言通りに我々が救援に行かなかったらと思うとゾッとする。奇蹟は本当に起きた。

 

もし、ドミノ作戦が成功しなかったら。

もし、シューニャが連絡をくれなかったら。

もし、サイトウがあの巨星を始末していなかったら。

もし、もし、もし・・・。

今思い出しても恐ろしくて鳥肌がたつ。

もう二度とあんなことは出来ないだろう。

俺は今でも無神論者だが、皆の必死さが、奇蹟を呼び込んだとしか思えない。

俺たちはその只中にいた。

 

「以上が判決理由となります」

 

我々には英雄の帰還に湧く余力は残されていなかった。

ただ、ただ、お互いの無事を確認すると、抱きしめ合い、手をとり、涙した。

 

「アカウントは凍結処分」

 

用意が必要だ。

難癖をつけて日本陰謀論を展開する国も少なくない。

アメリカの連中と来たら。

今思い出しても笑えてくる。

数少ない生存者であり国の代表としてSTG首脳会談に出席した時。

保障としてサイトウを差し出せと言いやがった。

 

「よろしいですねドラゴンリーダー」

「わかりました」

 

俺は今回の責任を負ってアカウントが凍結されることが決まったようだ。

「異議あんだろ!」

ミリオタが傍聴席から吠える。

「勲章もらえることはあっても処分されるなんて筋が違う!彼がいなかったら、今頃地球は無くなっていたかもしれないんだぞ!」

「それ故の凍結処分です。本来ならアカウント削除、永久停止が妥当なところです」

「黙れよ雑魚!お前ら何もしてない癖にどの口が言うんだ!ヤツは命がけで戦ったんだ。俺たちだって。一億歩譲っても一時停止処分!それが凍結だと・・・」

怒りの余りブルブルと震えている。

「静粛に」

ガベルが鳴り響く。

「世迷い言も大概にせー!サイトウもドラゴンリーダーもいなけりゃ次にあった時に誰が日本を守るんだ!だーれーが!地球を守るんだ!お前ら気でも狂ったか!この能無し共が!」

激しくガベルが唸る。

「静粛に!それ以上は法廷侮辱罪で退廷してもらいますよ!」

「何が法廷侮辱罪だ!かかって来いや!全員ぶちのめしてやる!こんな日本ならいらねー!地球も滅びちまえーっ!」

顔を真っ赤に叫ぶ。

 

「ミリオタ!」

 

リーダーは正面を見据えたまま声を上げる。

 

静かになった。

 

「後を頼む」

 

「以上で閉廷いたします!」

 

傍聴席では入廷を許されたブラックナイト隊員の連中だけが裁判官と同意した連中を睨みつけている。この一瞬を忘れないように。あの顔達を脳裏に焼き付けるように。ミリオタは膝から崩れ落ち号泣。床を叩く。刑務官が手を差し伸べようとするのをシューニャが止めた。そして首を振り静かに言う。

 

「触らないで下さい」

 

戦後処理の目処が経つ頃に開かれた軍法会議。

ドミノ作戦によって敵宇宙生物に巨星化という決定的な変化を与えてしまったこと。

国際会議で凍結された武装「デスロード」を使用したこと。

サイトウという宇宙人を匿っていたこと。(事実無根だが)

その他様々な疑義を問われたものだ。

中でも「デスロード」の使用は弁護不能の決定打となる。

他のことは言ってしまえば証拠がない。

部隊員の証言から「竜頭巾の独走」というのもあったが、どうあれ監督不行き届きは決定的だった。そしてサイトウという宇宙人が部隊に居ながら報告をしなかったこと。彼らにとってサイトウは宇宙人と断定された。

しかも敵宇宙人である。

さぞやマザーもお喜びだろう。

サイトウのアカウントはこの後で削除される。

ドラゴンリーダーはこれら責任をとってアカウントの凍結。

ブラックナイトの部隊も解体の危機に及んだがそれは免れることが出来た。シューニャや皆のお陰と言っていい。新しい隊長としてシューニャ。副隊長として引き続き竜頭巾と新たにミリオタがあたることになる。シューニャはリアルでの体調不良を部隊員に明かし、相応しくないと辞退してたが、リーダーの熱意と、その眼差しから、受けざる負えないことを知る。

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