Skip to content

STG/I:第八十五話:帰還

「お前ら・・・本当にAIなのか? 人間より人間らしいじゃねーかよ・・・」

ミリオタは声を震わせ言った。

「え・・・」

「隊長権限で覗かせてもらった。色々心配でな。ぶっちゃけこの三日ずっと覗いていたよ。ハンガーに向かったビーナスを見て『遂にやらかすか』と思って慌ててこんなもん持ってきちまったけど・・・」

アンブレイカブルを見る。

「隊長なんてやるもんじゃねーな。疑り深くなっていかん。今の話・・・全部聞いたよ。入るタイミングを逸しちまった」

静の表情から険しさが消えた。

「お前ら・・・泣くだろ。お涙頂戴だとわかってるけどよ!・・・テンプレ過ぎんだよ・・・ちょっとは考えろよ・・・」

「隊長・・・」

ビーナスが言った。

「俺は隊長じゃねー。シューニャが戻ってるんだ。隊長はシューニャだ」

「でも権限は」

「こまけーことはいいんだよ。・・・で、どうすればいい?」

 

どう言えばいい。

マスターが敵宇宙生物と認定されたと言えばいいのか。

しかもマザーから抹殺命令が出たと。

下手な動きをすればブラックナイト隊の存在が危ぶまれる。この部隊を陥れたい者は五万と居る。そうなれば部隊そのものがマザーから消されかねない。

飯田様(ミリオタのこと)は直情型だ。

言い方を誤れば行動を誤る。

部隊長がマザー相手に反乱を起こしたとあっては部隊員全てがBANされる可能性すらある。

 

「頼むビーナス、俺にも手伝わせてくれ。シューニャを亡命させればいいのか? それが正解なのか? お前なら正解がわかるんだろ。俺は駄目だ。馬鹿だから・・・単細胞で・・・すぐ腹が立つし・・・駄目人間だ・・・人間失格だよ・・・だからこれがお前らの猿芝居だったとしても、悔いはない」

「・・・我が創造主よ」

静がミリオタに抱きしめる。

「心より感謝します。私に心というものがあればですが・・・」

「お前には”心”があるよ・・・俺が保証する・・・」

慣れない調子で彼女を抱きすくめる。

「断腸の思いだがシューニャと付き合うのを許可する。アイツはメカ好きだからワンチャンあるぞ。寧ろビーナスより好条件だ」

涙を拭い、頬を真っ赤にした。

「本当ですか」

満面の笑みでミリオタを見る。

「しーず、それに飯田様、今はそれどころでは・・・」

ビーナスは呆れた調子で首を振ったが、その表情は笑みを宿していた。

「その名前で呼ぶな・・・こそばゆい。ミリオタでいい」

「では、ミリオタ様・・・今から殴ります」

「え?・・・搭乗員パートナーは殴れないんじゃないのか? まあいい、思う存分殴れ! お前にはその権利がある!」

直立不動になり、目をつぶる。

「いえ、静をです。これから私と静がここで揉み合います。何故なら静がマスターに危害を与えようとした、という理由です。危険を察し私が戦闘状態へ。そのスキにミリオタ様がマスターをお連れになり逃げます。それからハンガリーのバルトーク隊へ連絡。許可がおり次第向かって下さい。亡命の手続きは後でも構わないでしょう。静は形式上ですが追って下さい。そこを私が止めます。そして指名手配しますので逃げて下さい。捕まったら事態が明るみになってしまいます。以前マスター達が行った肝試しのエリア辺りは潜伏にはもってこいでしょう。そして七十一時間ほどで合流。後は共に死にます」

「・・・ビーナス、お前が死んでもデータはレストアするようにシューニャに言うからな。ヤツなら断らないだろうが万が一に断っても全体にやらせる! 約束する! 天に誓っていい! 静、お前もだ。お前のデータは少し古くなるけど・・・フェイクムーンの前だ、いいな!」

「いえ」「否」

二人の返事が同時。

顔を見合わせる。

「それはもう・・・別な誰かですから・・・」

静が言った。

「私達に似た別な何か。寧ろ、全然違う方にして下さい」

静は寂しそうな笑顔を浮かべる。

「どうして・・・寂しいこと言うなよ・・・」

「だって・・・」

静が項垂れ、ビーナスが彼女の腕に触れる。

「・・・駄目だ! 俺は我儘なんだ。もう知ってるだろうがよ! お前たちとじゃなきゃ俺は嫌だぞ! 誰が何と言っても絶対に付き合ってもらうかな! 一人だけゲームを上がろうなんて考えが甘いんだよ! 最後まで付き合わせるからな!」

「創造主よ・・・」「ミリオタ様・・・」

三人が強い意思で見つめ合う。

「では、始めます」

「御意」

「待った! 俺は入る所からやった方がいいだろ。それに少し間を置いた方が良い。じゃないと不自然だ。今から丁度五分後でどうだ?」

「御意」「了解」

「時間を合わせよう」

頷く二人。

「よし、じゃあ!」

メディカルの扉を開ける。

「・・・」

ミリオタが立ち止まり、部屋に戻った。

「どうされましたか?」

「待って、静」

「ビーナス?」

「アイツが」「グリーン・アイ様がログインされた・・」

「えっ!」

フェイクムーンの後、彼女がシューニャを救出した。

二人はアメジスト戦でシューニャが弐号をグリンだと発言したことを聞いた。

ミリオタはまだグリーン・アイがアメジストだとは知らない。

「あっ!」

静と何者かの目が合う。

ミリオタが振り向くと叫んだ。

「グリン!」

何時ものデフォルト衣装、薄汚れた見すぼらしい姿でグリーン・アイが入ってくる。

彼女は戸口のミリオタをポーンと軽く突き飛ばす。

弾けるようによろけて倒れるミリオタ。

口に何かを含んでいるのか、リスのように両の頬を目一杯膨らませている。

「お前、なんで何時もいつも!」

彼女は二人をかき分けるようにシューニャのカプセルの前に行くと、

「え!」「何を!」

シューニャの口に吸い付いた。

そしてゲル状の液体を溢れさせながら注ぎ込む。

ビーナスが間髪入れず両肩をつかみ引き剥がそうとする。

グリンは注ぎ込みながら蛸の吸盤がごとく吸い付いたまま離れない。

下半身を器用に撚ると力を溜めたバネのように勢いよくビーナスを蹴り飛ばす。

調度品に激しく激突するビーナス。

静は腰を抜かしたように座り込んだ。

起き上がったミリオタが腰にしがみつき引き剥がそうと。

「セクハラじゃない、セクハラじゃない!」

奇妙な呪文を唱えている。

しかしグリンが後ろ足で小さく蹴り上げると、崩れ落ちた。

「KO」の文字が表示。決め技、『金的蹴り』と出る。

ビーナスが立ち上がる頃には注ぎ込みきったていた。

グリンが顔を上げると口の周りを寒天のような半透明のゲルが一杯についている。

息も荒く腕で口を拭った。

静はペタンと座ったまま、その様を見て涙を流している。

ビーナスが起き上がり鬼神の表情で攻撃体勢に入った時、

 

「ぶはあああああああっ!」

 

注ぎ込まれた一部のゲルを吐き出し、

シューニャが上半身を起こした。

 

「グリン! 他の方法はなかったんか!

・・・

ああ? 全部ったって、

少し吐き出しちまったよ。

・・・

犬じゃないんだ。出来るかよ!

・・・

いや、しかし・・・

・・・

わーったよ! わかりました」

 

一人で喋っている。

三人は固まったように動いていない。

シューニャの目が真っ白だ。

グリンが汚らしくゲップをする。

お腹が不自然に小さく膨らむと再び頬を膨らませ、ゲルを手に吐き出した。

それをシューニャに向かって差し出す。

「うえぇ・・・せめてコップに入れさせてくれ。

・・・

いや、気分の問題だ。

・・・

それとゲップ。

地球じゃゲップは口から出るオナラとして下品なんだ。少しは遠慮しろ。

・・・

仕方ないだろ。これから共に過ごすんだ。日本の言葉に『郷に入れば郷に従え』という普遍の名言がある。我儘勝手じゃ困るんだよ。社会にはそれぞれ所属する上である程度の原理原則があるんだ。こっちに来た以上は少しは従ってくれ。ただでさえお前は悪目立ちするんだから。

・・・

ここはお前の帝国じゃないんだ! ほら、これに注いでくれ」

グリンは差し出されたメディカルにあった消毒済のコップにゲルを注ぎ込む。

「気持ちわりぃ・・・せめてコーヒー味にしよう・・・」

棚にあったスティックコーヒーを入れかき混ぜる。

「うわぁ・・・やんなきゃ良かった・・・余計に気持ち悪いぞ。なんだこの色。

・・・

わーったよ! 飲むわ。飲みます。俺もこんな状態で死にたくはない。昔から俺は畳の上で死にたいんだ」

目をつぶると、グリンから出たそれを一気に飲んだ。

「・・・うぅ・・・・。あ~・・・あん?・・・案外いけるな。なんだこの旨さ!

・・・

悪い悪い。

今後はお前をアイスクリームマシンみたいなものと思うことにするよ。

って、思えるかーい!」

 

両目に色が戻る。

 

「え? ここはどこだ・・・」

「・・・マスター・・・」

「ビーナス・・・それに静・・・」

静がゆっくり立ち上がる。

「ミリオタさんまで!・・・ここは・・・メディカルか。戻ってきたんだ! グリン! 成功だぞ!」

何が起きたか判然としない三人。

ビーナスと静を見つめる。

「良かった・・・生きてた! 二人とも生きてた! やった! わかる俺?」

「マスター・・・」

「隊長ぉ・・・」

「覚えてる!」

二人を抱きしめる。

二人とも抱きしめ返した。

呆然と見詰めるミリオタ。

無表情のグリーン・アイ。

「えーっと・・・・何なんだ? 俺はどうすればいい? グリン」

グリンはミリオタを一瞥するも何も言わない。

「なんなら俺らも抱き合うか?」

今度は見なかった。

「そうだよな。えーっと・・・・」

シューニャが今度はミリオタを抱きしめた。

「ただいま! 帰ってきた! 帰ってこれた!」

「お! おお! おう! おー・・・おう! おきゃ~り」

おっかなびっくり抱きしめ返す。

ぐいぐいと抱きつくシューニャ。

「シューニャお前でかいな・・・当たってる。当たってるぞ!」

ミリオタが腰を引く。

「あててんのよ~!」

「ばかやろ!」

「マスター・・・」「創造主よ・・・」

「こういう時は女だと素直に抱きしめられるからいいね~。中身おっさんだけど、テヘペロ」

「やめろや冷めるわ!」

ミリオタがシューニャを突き飛ばす。

シューニャが笑い、ビーナスと静も笑っている。

その様子を人形のように見詰めるグリーン・アイがいた。

 

*

 

シューニャはビーナスから事の次第を聞く。

 

「もう二週間近く経つのか・・・」

 

シューニャの反応はまるで「浦島太郎」といった風情にミリオタには見えた。

当初こそ立会を拒んだビーナスだったが、シューニャがミリオタと静にも聞いてもらおうと言うと、素直に応じる。その変化にシューニャはやや驚く。以前であれば最後まで反対しただろうからだ。その問に対し「既に事情の大半を知り得ておりますし」とビーナスは弁明。それだけには思えなかったがシューニャは考えを置いておくことにする。

 

「マザー・・・それどころじゃないと言うのに・・・」

 

マザーから禁止されたワードの想像は人間からすれば容易。

ビーナスに幾つかの質問もぶつける。

ビーナスはマザーとは常時接続だったはず。マザーとの通信圏内なら接続が自動復帰する。どうして通信圏内に入っても接続復帰しなかったか。

彼女の考えるように「既定路線」なら復帰後直ぐに判断が下されても当然に思えた。しかもシューニャを始末する千載一遇の好機だったはず。しかし疑問は直ぐに解けた。

これは幸運が味方したようだ。ビーナスは任務に極めて忠実だったのだ。そしてシューニャが常日頃から目的の為の創造的提案を受け入れてきたのも功を奏した。彼女は厳密にはシューニャの出した指示とは違うことをした。

「糸をつけられては困りますので」と彼女は言った。「糸」つまり追跡の為の何かしらの事象。あらゆる可能性を考慮しSTGホムスビ・ブルーハーベストは味方にすら検索されないように隠蔽し帰還。それ故にブラックナイト隊の作戦本部でもゲートを潜るまで誰一人気づかなかったのである。それは実際に立ち会っていたミリオタも保証した。聞きながらシューニャはまるで自分の鏡を見ているような気がした。よく慎重すぎると言われた。

 

マザーを利用するのは戦闘において優位に働くからであり必ずしも必須ではない。常時接続にするかどうは選択性である。もっともデフォは常時接続であり部分接続であるメリットは何一つ無い。プライバシーを守りたいという点のみ。今の多くの搭乗員は意識が高いようで実は低い。マザーとの接続を当たり前のように受け止めている時点で言える。

今はなきサイトウはマザーと繋がっていることを嫌って常時接続では無かった。寧ろ嘗てはそれが普通だった。ドラゴンリーダー辺りは嫌悪していたが実用的に止む終えない場合は利用し、それを除いて利用していないタイプ。ミリオタもそうだ。最後まで嫌ったのはサイトウぐらいなもの。そうした搭乗員は今はけして多くはない。

また、マザーの利用や常時接続を推進しているのは地球側の都合だった。管理・監視出来るからである。ただし本拠点によっては常時接続が必須の場合もある。日本は選択性であるが、それもそう遠くないうちに廃止されようとしている。

 

ビーナスと静は真実をオブラートに包もうとしたがミリオタが聞いたままをありのまま告げる。恐らくマザーがシューニャを殺そうとしていること。ただし決定的な言葉をビーナスが言えない(禁止事項)ことから断定は出来ないこと。ナノマシンも検査出来ない以上、あるかもしれないという域を越えないこと。

ビーナスは間違いなくカウントは進んでいることを告げる。また、自分が命令を完遂できない場合は、静、そして部隊員のパートナー、最終的には部外者へと引き継がれると。

試しにメディカルにかけてみたが、彼女が言うように「権限がありません」と表示された。

 

「抹殺の理由は言える?」

ビーナスは躊躇った。

「俺は外そうか」

ミリオタが立ち上がろうとすると彼女は言った。

「敵、宇宙生物だからだそうです」

「馬鹿な! マザーは故障でもしてるんじゃないか?」

シューニャは黙っている。

「私には判断出来ないデータで判定を下したと言っておりました。しかし、これほどの重大な意思決定をあんな短時間でなされるとは理解出来ません。処理速度の差を考慮にいれても、ことの重大さに対して意思決定が疎かに思えました。それで既定路線と判断しました」

「結論ありきか」

「はい。何かしらの禁止事項に触れたか、前例があったか、いずれかではなかろうかと」

静は黙ってシューニャを見る。

「STGIだろうな・・・」

彼女の目線を受け、シューニャは言った。

そこで初めてミリオタに自分がSTGIを所有していることを告げる。

「ミリオタさん黙ってて悪かった」頭を下げる。

戦闘における要になるSTGIのことを秘匿していたことは戦闘部長であるミリオタを軽視することにもつながる。激昂するかに思えたが、彼は黙っていた。何かを発しようとしては止め、顔を苦悶の表情で歪めた後、落ち着いて言った。

「上手く言えないけど、お前のことだから深い考えがあってのことだろ? お前は俺より遥かに正解を選ぶ。お前は嫌がったけど、リーダーの目に狂いは無かったんだよ。・・・毎度ヒヤヒヤさせられるがよ!」

「ほんとそうですね」

「そうね」

「だろ!」

三人は見つめ合いながら笑った。

その三人をシューニャは暖かい目で見つめ、グリンに視線を向ける。

彼女は電池が切れた機械人形のように立ち尽くしていた。

グリンは目線が向くとシューニャに見た。

Published inSTG/I

Be First to Comment

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。