Skip to content

STG/I:第七十四話:時間稼ぎ

「参加者が仮に誰も居なくとも、部隊員の動き自体もシミュレート出来るでしょう。百回でも千回でも糸口を探しましょう。一秒でも時間を稼ぐ方法を。でも、何の足がかりもなく皆は出来ないでしょう。私も正直キツイですよ。あのドームだって明確な目的があった。あの扉の先に倒すべき相手がいる。ステージはいつか終わる。だからこそやれた。今のSTG28にそれがあるでしょうか? 距離もわからないマラソンを出来るでしょうか? ペース配分が出来ないというのは致命的だと思うんです。どこのコアを破壊すれば勝ちなんでしょうか? どの将軍を討ち取ったら終わりなんでしょうか? どの基地を、星を破壊したら勝ちなのか。探す糸口すら私達には無い。だからこれまでは敵を迎撃することに終始していた。それが目的だと勘違いしていた。いつか終わるものと勝手に思い込んでいた。恐らくマザーは目的を言っていないはずです。ゲームの招待メールにも『地球を守る戦いに参加して下さい』的な内容だったと思います。マザーは警報を出し、我々が迎撃する。破滅するまで終わりの無い戦い・・・」

一気に喋り、勢いが一瞬だけ止まると、彼は首を捻った。

 

「いや・・・過去のプレイヤーがその先を挑戦したと思います。誰もいないとは考え難い。サイトウさんなんかその一人だったと思ってます。私はずっとロビーを歩き回りながら、話を聞くとはなしに聞き、そうしたことを言っている人がいないか探していました。言うなれば同士を。ずっと疑問だったんです。『ゴールが何か? 何をしたらクリアなのか?』私はオンラインゲームにもシナリオや一定のゴールを求めるタイプなんですが、『このゲームのゴールは何か?』そうした視点をもった人は一人も居ませんでした。サイキさんには相談しませんでしたが、失礼ながら、そうした視点は無さそうでしたので」

 

サイキはシューニャを見た。

 

「皆が皆、自分のことだけで頭が一杯なんだと思います。そりゃそうですよ。リアルが忙しすぎる。私も勤め人だったのでわかります。今の日本は考える間すら無い。息すら抜けない。本当は無理にでも余裕をもつ努力をするべきなんですが、そういう発想を湧く間すらない。タッチャンやプリン、ケシャみたいに自分の興味に集中しているのはまだいい。最近は自分が何を成したいのかもわからない搭乗員が多いです。手段と目的を履き違えている。それだけ息が抜けない時代なんだと思います。いや・・・国と言うべきでしょうか。他の国は違いますからね。私の友人が何人か海外に住んでいるのですが、実に活きいきとしてますよ。私は畳で死にたい人なんで興味は無いですが。息が抜けないから自分のことを振り返れない。だから他人のことにばかり口を出す。楽だし。目につくし。自分は見えてないから」

 

こーヒーを一口飲んだが、水に手をつける。

 

「時々思うんです・・・サイトウさんの孤独さたるや幾ばくかだったんだろうかと。誰にも理解されず。誰も理解しようとせず。誰も行動を起こさず、誰も助けようとせず。彼だってずっと黙っていたわけは無いと思うんですよ。恐らく発信した。その結果、無駄だと知った。他人に頼るのは出来ない。自分でやったほうが早いと。やりながら有志を集めるしかない。でも彼はある意味で凄すぎた。戦績を見ましたがあの船体スペックであれは飛び抜けている。天才プレイヤー、私からしたらミュータントですよ。それでいてタッチャンの話からすると気さく。するとどうなるか、嫉妬の的になる。いっそカリスマ性でもって支配された方が周囲は楽だったでしょうね。『俺についてこい!』と、名乗りを上げてもらったほうが。でも、彼は恐らく違った。対等でありつづけようとした。タッチャンから少し聞きましたが、彼も当初かなり衝突したようですね」

 

サイキは瞬きもせず床の一点を見つめていた。

 

「バルトークの隊員みたいにトップに着いちゃえば良かった。仮にでも、形だけでもいいから。偶像として。同時に『能ある鷹は爪を隠す』が必要だった。プリンの紹介で色々なサイトウさんのファンと話をしましたが、彼は自由人なんでしょうね。説得する側も説得の仕方を誤った。だからあれほど嫌われる事になったんでしょう。でも真っ直ぐな人間はそうしたことに陥りやすい。そりゃ~やりたくないよ。私だって嫌だ。私もサイキさんからリーダーを譲る話をされた時、断るつもりでした。そしてSTG28を去るつもりだった。直前まで・・・」

 

頭を抱えていたサイキが顔を上げる。

 

「でも、あの状況において断れるほど私は無責任にはなれなかった。あの時のサイキさんを見て、タッチャンを見て、皆の勇気と行動を見て、『私は関係ない』とは言えなかった。私はリーダーに向いてない。豪胆さに欠けますから。一般搭乗員として気楽に遊んでいたかった。ゲームなんですから。腹をたてながらやりたくないですよ。私はね。でも彼は違った。サイトウさんは。自由を選んだ。その結果、我々にとって不幸を招いた。でも彼は諦めなかった・・・孤立したことも受け入れてやり続けた。一人で!・・・全て推測ですが。サイキさん、何か思い当たらないですか?」

 

サイキの脳裏にサイトウの言葉がよぎった。

態度が。

行動が。

次第に変わりゆく彼の表情が。

まるで事故の時に見る走馬灯のようにイメージが流れて溢れてくる来る。

モザイクのようなイメージの断片が脳裏を大量に過った。

忘れていたこと。

気づかなかったこと。

サイキは口を半開きしたまま苦悶に顔を歪めた。

青銅の魔神が音をたてて少しずつ変形するように、彼の身体は不自然にギリギリと力みながら動き、そして動かなくなった。

 

「彼の周りには誰もいなくなった。なんとなくわかりますよ。こうした場合、誇大妄想狂呼ばわりされ、信奉者以外はいなくなるものですから。彼は信奉者を望まなかったでしょうから、当然一人になる。私も多少なりとも経験があります。危険を察知していればいるほど、本気であればあるほど空回りしていく。『あいつは頭がおかしい』と陰口を叩かれる。周囲は思考停止した自分に気づかず、事実にすら、現実すら見えなくなる。でもタッチャンは違った。彼女は・・・サイキさんはタッチャンが女性だってご存知ですよね? 多分ですがサイトウさんはタッチャンには何も言ってないと思うんですよ。そういったことは。目線が違いすぎますからね。でも、どれほど癒やされたでしょうか。彼の孤独を幾ばくかでも理解しようとしたでしょうから。プリンなんかはグルーピーですから。本当の彼を知ろうという発想も無いかもしれない。彼の虚構をみていた気がします。それはそれで仕方がないと思うんですが。彼女の現実が辛いからでしょうし。自分を抱えられない人が他人を抱えることなんて土台無理です。彼女にはヒーローが必要だった。ただ辛いでしょうね彼は。彼女たちが騒ぐほどに一層彼は孤立を深めたでしょう。皆は彼が宇宙人であるかどうかに熱心でしたが、私は彼が何人であろうと構わないんですよ。彼が味方だとわかっていれば。そして彼は味方だと思える。いや、ひょっとしたら違うかもしれない。でも、彼に背中を斬られるなら構わないですね。それだけのことをやってきたから」

 

サイキはようやく動き出すと、天井を見上げ瞼を閉じた。

 

「先の大戦でつくぐく実感しました。現実にこんな言葉があります。戦争をすればするほど社会は劣化する。それもそのはずですよ。有能な人間が少なからず死にますからね。あの大戦後ですらそれは感じられました。毎日、毎日ロビーを散策し、声をかけ実感しました。搭乗員の質が劣化している。使い捨てのように動員される新人たち。誰よりも尽力した者の一人である貴方が凍結され、こともあろうに救世主と言っていいサイトウさんはアカウントを削除された。異常であることは明らかだ。しかし現実にはその声は小さく実行力は伴わなかった。実行力を示そうとした者たちはスパイや反逆者扱いすら受け、辟易したムードに包まれ、ムードが嫌だからという理由で大勢が多数派に流れた。彼を排除する側を養護すらした。功労者だったはずのブラックナイト隊はヒール役となり、尚の事無関心層は恐れおののき思考停止する。何が大切かなんて幼児でもわかるのに。それでも流される。彼をBANさせたのは我々なんですよ。流れは大衆が作りますからね」

 

サイキは口をへの字に曲げ、見上げたまま涙を流している。

 

「総合的に戦績は落ち続け、より身勝手になり、協調性はおろか会話すら通じるか怪しい世界になりつつある。戦いが長期化するほどチャンスが失われる気がする。そんな流れでは永遠にこのゲームはクリア出来ません。ブラック・ナイト単機でどうにか出来ると思っているほど驕ってないつもりです。土台無理なんだ。数が違いすぎる。その上で彼らには質もある。相手に質と数が揃ってどう太刀打ちするんででしょうか。無謀どころの騒ぎじゃない。行きがかり上隊長になってしまいましたが、やる以上は何の希望も無いのに絵に描いた人参をぶら下げたくないです。ましてや誰一人だって道連れにしたくは無い。万に一つでも何か出来るとしたら時間稼ぎです。それは地球人の為というより、マザーに託すのがせいぜいでしょう。そして、ほんの僅かでも時間が稼げるとしたら ブラック・ナイト 以外は考えられない・・・。フェイクムーンクラスのヤツが大量に来たらSTG28は潰されるだけです」

 

サイキは頭を掻きむしり、足を踏み鳴らし、指をガシガシと噛んだ。

 

「私がサイキさんにお約束出来るのは僅かな時間稼ぎです。どれくらいかはわかりません。今のうちに言ってきます。これまでの温情本当に有難うございました。貴方のお陰で寸でのところで私は住まいを得られました。食事にありつけました。着るものを与えられました。命も救われました。そのことを私は軽くは考えていないつもりです。何の因果か貴方と知り合い、こうして本心で話せたことは最後の幸運かもしれません。安っぽくなるから言いたくありませんでしたが、本当に感謝しています。最後の一瞬まで奥さんやお子さんといて上げて下さい。抱きしめてあげて下さい。大丈夫だよと言って上げて下さい。美味しいものを沢山食べて下さい。その時間が一分一秒でも続くよう時間を稼ぎます。私が言えるのはこれが限界です。有難うございました」

 

シューニャは立ち上がると深々と頭を下げる。

 

サイキは手を噛みながら、口を押さえ声を出さずに涙を流している。

そして逆の腕で何度も何度も自分の頬を殴った。

 

(会うべきでは無かったのかもしれない・・・)

 

シューニャは顔を上げるとソファーに身を滑らせる。

周囲の目線など気にする余裕もなかったが、スタッフの注目の的らしい。

頭に浮かんだのは帰宅したらビーナスと共にシミュレーターを構築しようという思い。

サイキの言うようにすくなからずの構えは出来る。何も無いよりいい。

「そうだ、何も無いよりいんだ」と思った。

何かに集中してい間は他のことを忘れることが出来る。

そして「ブラック・ナイトは本当に最後の最後にしようと」心に決めた。

サイキの思いを無為にしたくはない。

全てを考え尽くしたと思っていたが漏れはあった。

 

(両親にもお別れを言うべきか・・・いや、わかるはずもないか・・・狂ったと思われるか)

 

思わず笑みが浮かぶ。

いつ隊員に解散を告げるか。

撤退を告げるか。

 

(部隊を解体するか・・・そうだ、それがいい。サイキさんには悪いが、言っておくか)

 

サイキを見ると、顔を真っ赤にした彼が頭を上げた。

手には歯型がみっしりついている。

「サイキさん」

 

彼の口が何かを追い求めるように動いた。

 

「時間稼ぎ・・・」

 

憑かれたような表情でシューニャを見る。

 

「そうだ・・・はなっから全滅を考えるから無理があったんだ・・・」

「どういうことですか?」

「時間稼ぎでいいんだよ・・・というより、そもそも時間稼ぎしか出来なかった。STG28におけるマザーの目的は時間稼ぎなんだ・・・」

「基本そうでしょうね」

「コロニーだよ・・・」

 

サイキはボソリと言った。

 

「コロニー?」

「宇宙人と接見した時に言っていた。隕石型にはコロニーがあって・・・お前にだけは言うが・・・一兆個以上あるらしい・・・」

「・・・え?聞き間違いかな・・一兆・・・って聞こえたんですが?」

「一兆だ」

「・・・一、十、百、千、万、一億、十億、百億、千億、一兆、十兆・・・の一兆?」

「ああ。その一兆だ」

ソファーにどかりと腰を下ろす。

「嘘だろ・・・コロニーだけで?・・・」

その中にいる奴らがどれほどなのか。

文字通り天文学的数。

知らずシューニャの唇は震えていた。

STG21の民が「宇宙そのもの」と言った意味が初めて理解出来た気がした。

Published inSTG/I

Be First to Comment

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。