Skip to content

STG/I:第七十二話:クソゲー

自殺。

言われて気付いた。

自分の命の落とし所を考えてのヒロイズム行為と問われれば「違う」とは言い返せない。

心の奥底に潜む「終わりにしたい」という無意識の塊。

地球を守るという体の自殺。

シューニャは頭を抱え項垂れると頭に爪を立てた。

頭を握りつぶさんばかりに十指を食い込ませる。

「でも・・・隕石型宇宙人に食われるか、ブラック・ナイトに食われるかの差でしかないんじゃないですか。どっちがいいというわけでもない・・・。仰るように私がアレに乗ることは破滅のBプランでしかないような気がしないでもない・・・だとしても、時間は稼げる。時間は何よりも代えがたい。タイム・イズ・マネー。時は金なりと言いますが、実際、金以上です。時は代替がきかない。その時を稼ぐことに意味が無いってサイキさんは言うんですか?」

「そうは言ってない」

「先の大戦だって貴方達が、タッチャンが時間を稼げたからサイトウさんが来れたんじゃないですか? 今でも思うんですが、あれは必要な時間だったんじゃないですか? 全ての努力が結集した結果なんじゃないですか? サイキさんがサイトウさんを嫌いなのは知ってます。でも、私はあの時言ったように皆が居たからこそ、皆が結集したからこそ、努力の結果であってサイトウさんだけでは出来なかったと思います。皆さんは否定されましたが。確かに最後の一撃みたいなものは脚光を浴びますよ。その人が倒したように見える。でも、それまでの積み上げがあったこそですよ。仕事でもそうじゃないですか。全てを滅茶苦茶にして美味しいところだけとって成果を得て昇進するクソがいる。馬鹿で見る目の無い上司はそいつだけ評価し昇進させるが、そいつが抜けた後は戦場のように荒れ果てている。回復させるのにどれだけ大変か。そりゃそうですよ。全部使ってしまったんだから。そうしない方法だって幾らでもあったのに。残された社員の気持ちがわかりますか? それまで多くの社員が下準備をしギリギリの中で蓄えたもの全てを無駄に使い切って。得意先に『なんなんだアイツは!』と代わりに罵倒され。今後の関係も破壊されて。なのに馬鹿上司ときたら言いやがる。『アイツみたいに上手くやれ』と。馬鹿か? お前の脳みそは飾りか?と言いたい。貴方もそういうタイプなんですか?」

「違う。俺は言いたいのは」

「そういう会社や部署はろくな末路を辿らない。当たり前だ。留めを刺すヒーローは必要ですよ。偶像や象徴としての意味もある。でも、一番大切なのは下地ですよ。なんでも下地。長期的視野に立つなら何よりも下地です! 今の日本人や日本の会社が安易なのは楽して稼ぐことしか考えていないからですよ。下地を無視している。ヒーローだけいればいいなんて浅薄も甚だしい! だから大戦の後で言ったんです。『皆がいたからこそだ!』って。本心ですよ! アレは誰が欠けても出来なかった。皆はデス・ロードを使ったタッチャンを嫌悪してましたよね。結果的にアレも必要だったんです! 褒められたものでは無かったかもしれない。でも、文句を言うのは筋違いだ!」

「だから」

「フェイクムーンの時は下地も時間も無かった。スーパーヒーローだって駆けつけるにも時間がいる。緊急車両だって、警察だって、助けに行くにも時間がいるんです。もし、あれほど粘れなかったらサイトウさんは来れなかったんじゃ無いですか? チャンスがあるとしたら時間稼ぎ以外無い。奇跡に期待するようじゃ終わりなのもわかってます。事実終わりなんですよ! 私達に出来ることは彼が来るまでの時間稼ぎ。彼にすがるしか無い。そもそも今回ばかりは彼がなんとか出来るはずも無いんです。でも万に一つの可能性があるとしたら彼以外いない!」

 

カッコつけて自殺したいだけかのか。

助けたい気持ちも嘘じゃない。

助かりたいという欲求もこみ上げて来る。

わからない。

自分がわからない。

否定も出来ない。肯定も出来ない。

「とにかく駄目だ!・・・その黒いのは止めておけ!」

「しかし!・・・他に何か手があるとは思えません。大真面目にSTG28の兵器で迎え撃てると思うほど馬鹿にもなれないし、自分を騙せない! 百万歩譲っても、映画やゲームみたいに母星やマザーシップのコアに都合よくぶっ込めば勝てるという筋書きが無い限り不可能なんですよ! 相手は宇宙なんですから。私達は彼らについて何も知らない。何一つ知らない。・・・異物は寧ろ、マザーも含めて私達なんです。そもそも無理なんだ・・・端から無理ゲーなんですよコイツわ、ナイトメアレベルですよ・・・無理なんだ、無理ゲーだ・・・無駄なんだ・・・遅かれ早かれ・・・死ぬんです・・・。ゼロコンマ一でも可能性があるとしたら、それはマザー達にしかない。私達からしたら余裕に見えた彼女らも必死なんですよ。そこに嘘は無い。この局地での戦闘は他人事であっても、真剣なんです・・・同時にそのレベルなんです今この戦いは。STGは・・・端から捨て駒なんです! 滅亡しか選択肢は無い!」

 

今度はシューニャが項垂れる番だった。

 

「・・・ナイトメアだろうが攻略する変態はいるだろ・・・」

 

地を這うような声。

 

「諦めるな・・・シューニャ。まだこうして生きているんだから・・・」

「例えですから・・・ゲームじゃありませんからコレ。現実です。ゲームだとしたらナイトメア以上ですよ・・・開発者自身がどうクリア出来るかわからないレベル。言うなれば、ゲームならコレこそまさに、正真正銘のクソゲーです。開発者出てこい・・・クソったれが・・・ふざけんな・・・」

 

力なく頭を垂れているシューニャをサイキは見つめる。

 

「お前・・・ドームってFPSしってるか?」

「・・・知ってるも何もMSDOS版で狂ったように遊びました。思い出の一作です」

「あの鬼畜さ・・・異常だと思わなかったか?」

「思いました。開発者は頭がおかしいと思いましたね。どう考えても弾も足りなければ火力も足りない。こっちは一人でアッチは無尽蔵、無理ゲーもいいところです。ふざけるな。でも・・・面白かったなぁ。アドレナリンがドバドバで。あのゲームときたらバランスもへったくれもない・・・」

シューニャは顔を上げると笑っていた。

「お前・・・クリアした顔だな・・・」

「はい。余りにもムカつきましたからね。初めてですよ。あそこまでクソだと普通は捨てるんですけど。ゲームは楽しめなきゃ嘘ですから。でも、当時はファーストパーソン・シューティングってのはあれが先駆けであれぐらいしかありませんでしかたら。他の作品に逃げたくても逃げられない。夢に出てきてムカつくんですよ。あの牛!あのマリモ!今思うとトラウマだったんでしょうね。寝ても覚めてもでしたから。だから思い出す度に手を出した。しかもあのクソゲーときたらコンニティニューも無いんです。死んだら各ステージの頭からやり直し。デフォ装備ですよ! 信じられますか? どんなに先まで進んでも。たった一つの計算違いで全部パーですよ。途中で気付かされるんです。『あれ?これ弾が足りなくねーか?』とか。序盤も序盤のステージで気付いた日には最悪。それでも最後までやって案の定ですよ。『ふざけんな!こんなの無理だろ!』の繰り返し。酷いんだ!」

シューニャは手をたたき笑った。

それを見てサイキも笑みを浮かべる。

「それで」

「だから最初からやり直しですよ!」

「どうやってクリアしたんだ」

「そうですね・・・最初は不可能だと思ったんですが、何回もやっているうちに色々考えが浮かんでくる」

「どんな?」

「ココは無視でもいけるかな? とか。ていうか基本無視ですよ」

「それで」

「だから無視出来る敵は徹底して無視する。じゃないと絶対足りないんだ。拳銃の弾一発無駄にしないように努力する。ヘッドショットは可能な範囲内で必達。ダメージが大違いですから。死なないようにするのは大前提。基本ダメージは喰らわない。くらったらマッハだから。主人公なんてステージ一とかピストルなんですが、胴体とか撃つと相手は一発で死なないんですよ。何発も出ないのに。『はあっ?』って感じでしょ。でも、後々その『はあっ?』の間で死ぬことを知る。だからそれすら無くなる。泣き言を言っていると死ぬから。一秒も無駄に出来ない。たまさか見つけた安全地帯のオアシスときたから天国! あの開放感。あるステージでは、一服しようとトイレ行って、帰ってきたら死んでたんです。絶句しましたね。リアルに力が抜けて膝をつきましたよ。立ち位置を微調整しないといけないと後で知った。でもホッとするんだ。どっこい安置は逆に危ない。一度でもホッとすると動けなくなる。安全地帯から出られなくなる」

「なんで?」

「恐怖ですよ! リアルに足がすくむんです。出る決意が鈍るんです。これまで積み重ねてきた弾や武器。命の駆け引き。それが溢れてきて。怖くなるんです。失うのが。途絶えるのが。でもその間もマリモが延々とこっち撃ってますから。大量に!これが怖いんだ。あの終わることのない、ペシ、ペシって 音が恐怖ですよ。笑みを浮かべてツバみたいに弾を吐くんだ。知ってますよね!」

「でも、出ないと終わらんだろ」

「そう! だからエイヤで出る。勇気を絞って! 埒が明かないから。でもね・・・何分と持たない。そこで気付いた。緊張の糸が切れているし、戦闘の体感が失われているから、さっき余裕で避けていたのが避けられなくなっているんですね。不思議なもので。それも学んで、以後は安全地帯を見つけても休むのは五秒から長くても十秒ぐらいでしょうか。ソレ以上はリズムが狂うから。そこまでやっても途中で一つでも間違うと詰むんですわ~。なんなんですかねアレ。誰が考えたって話ですよ。何度夜中に叫び声を上げたか。『ココまで来てソレかぁ~!その仕打ちか!』みたいな。んで、隣室から壁ドンです。そりゃそうだ深夜何時だよって話。だから口抑えてビンタで堪える。柱にヘッドバンギング。その繰り返し。下手な癖にね・・・。私、下手なんですよFPSやTPS。上手い人の見るとわかる。もちものが違う・・・。いや、見るまでもない。わかってた。プレイするとわかる。コイツ上手いって。俺、下手だわって・・・」

「なんで下手なのにそんなゲームやってんだ?」

「好きなんですね。下手でも。好きか上手かは無関係なんですわ。下手の横好きってヤツです。・・・子供の頃うっかり人を殺しそうになったことがあるんです」

「お前が?」

「ええ。いや、偶然ですよ。故意じゃない。友達と喧嘩して、癇癪を起こしたんですね。んでエイヤで石を投げた。少し大きめの石。それが不運にも友達の頭に当たって、倒れた。まるで下手な映画みたいに綺麗に・・・そして静かになった」

「死んだのか?」

「いえ、生きてた。起き上がったんです。良かったと思うと以上に・・・ゾッとしました。今でも思い出すと胃が痛くなる。石を投げなければ良かった。もし少し当たりどころが悪かったら。いや、ひょっとしたらあの後で血栓が出来てそれが原因で・・・とか、考えた出したら眠れなくなる。今、彼は生きているのだろうか?って。健康だろうか?とか。気付いたら自制心の塊みたいな人間って言われるようになっていた。でも実感したんです。人間って気をつけないとうっかりで死ぬんだって。大切にしなきゃって・・・。思うとストレスが凄かったんでしょうね。撃ったりするゲームだと結構解消出来るんですよ。ストレスがね。そこに上手下手は関係ない。STG28にしても下手の横好きで始めただけで、才能ないですから」

「・・・んで、ドームはどうしたんだ?」

「どこで温存し、どこで放出するか、三ミリにも満たないワイヤーの上を綱渡りするような心境で最後までやったんでしょうね。もう出来ないですよ。少しづつ少しずつ経験が積み重なって。『ああ、あそこは逃げた方がいい』とか次第に攻略法が自らの血肉になっていく。当時は攻略サイトとかありませんでしからね。そもそも攻略サイト嫌いですし。今でも見ないですよ。能率を考える時だけかな。開発系があるゲームとか。あとは完全に自助努力で詰んだ時。開発系だとクソルートが多いから。んで、寝ても覚めても知らず頭の中でシミュレートしている。仕事がごまんとあるのに、頭の中でいつも連中と戦っている」

「それでクリアした」

「ええ! 最終ステージなんて興奮で発狂しそうでしたね。多分。覚えてないんです。クリはしたのは間違いないんですが。不思議と途中を全く覚えていない。気付いたら日常になっていた。・・・でもな~一番ムカついたのがエンディングですよ。アレでしょ・・・覚えてます?『はあああああああっ!?報われねええええええ!』って結局は叫ぶんです。日本のゲームみたいなカタルシスがない。挙げ句に英語で高速スクロールでしょ。ふざけんなって。余韻もへったくれもない。頭をフル回転させ、目を皿のようにしてメッセージ読みましたよ。なんとなくしかわかりませんでしたけど。アレは無い! なんの為に主人公はたった一人で戦ったんだって、まーふざけろよって話」

「でもクリアした」

見つめている。

「・・・でも、あれはゲームでしたから。結局はクリア出来るように出来ているんです。絶妙な難易度だったんですよ。クソゲーかと思いましたが違った。寧ろ神ゲーですよ。あのバランスは。オススメはしませんけどね。今までもあのゲームを誰かに勧めたことは無いです。あの面白さがわかるのは相当やりこんだ先ですからね。普通、そこまでやりませんよ。やりこんでわかりました」

「でも、不可能だと思った」

「ん・・・まあ」

「クリアした」

「ええ・・・」

「あるんだよ! 絶対に! 何か方法が! 無理だ、駄目だと思った瞬間に全ての道は途絶える! たとえ目の前に救いの手があったとしても、それを自ら拒絶してしまう! 今のお前はそういう状況だ。そう思わないか?感じないか?」

「だからアレはゲームですから・・・」

「でも不可能だと思ったんだろ? お前、今さっき言ったよな?」

「まぁ・・・言いましたよ・・・」

「現実だろうと同じだ!」

「・・・」

 

シューニャは黙り込んだ。

Published inSTG/I

Be First to Comment

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。