STG/I:第六十七話:STGI – ジュゲの小説 Skip to content

STG/I:第六十七話:STGI

ログインするとハンガーにそれはあった。

 

シューニャはポカンと口を開け、目をひん剥いたまま呆然とソレを見た。

ミリオタが見ていたらスクリーンショットをとられ映像素材にされていただろう。

 

声が出なかった。

 

「・・・ハンガーを間違えたか」

誰に言うとでもなく呟いた。

 

(誰のSTGだろうか・・・今まで見たことがない。戦闘機みたいだ・・・)

 

STGは基本形状が円錐であり、装備を付加して外形が変わることはあるが、基本形状を変えることは出来ない。

慌ててハンガーを退出するが、頭には今しがたの白い戦闘機が脳裏に焼きつている。

メニューを閲覧。

「マイ・ハンガー・・・マイってことは自分ってことだよな」

隊長はその権限により隊員のハンガーに入ることが可能。

特別な許可はいらない。

フレンド同士で許可を設定していれば他人のハンガーに入ることも出来る。

自分のSTGを自慢したい者や、単に横着から、ハンガーフリーにしている場合もある。普通はハンガーを外部に公開することは稀だ。トラブルの元である。自分のSTGを自慢したい場合はギャラリーに登録すればいい。大会も毎月開催されている。

 

「マイ・ハンガー・・・」

 

やはりそれはあった。

 

「俺のハンガーなんだ・・・」

 

メニューを見ると現在地点がマイ・ハンガーとなっている。

震える手でコンソールに触れる。

 

「STGI・・・ホムスビ・・・えすてぃーじーあい・・・え?」

 

それはSTGIだった。

 

「嘘だ・・・嘘だ・・・嘘だ嘘だ!」

 

コンソールに映る機影の全体図を見て何かに気づいた。

 

「・・・まさか・・・夢じゃないよな」

 

モニターの前で自分の横面を全力で叩く。

 

「痛いけど・・・痛くない・・・」

 

もう一度、叩いた。

更に二度、三度。

 

「痛い・・・かな」

 

今度は反対側を一度。

頬は真っ赤になった。

 

「痛いね。うん、痛いよ」

 

涙が流れた。

それは痛みからではない。

身体が震えていることに本人も気づいていない。

STGIの外形が高校生の時に彼がデザインしたものに酷似していたからだ。

コンソールで全体像を見た瞬間に思い出した。たった今まで忘れていたのに。

 

当時、彼はあるゲームに心酔し、絵が下手なのを構わずその戦闘機を夢中で模写した。

そこから自分なりに装備を考え、デザインを変え描いた。

本格ハードSFの表紙を眺めながら、どうにか理想に近づけようと飽きもせず描き続けた。相変わらず絵は下手だったが。

兄からは「遂に狂ったか」と言われたが、この時ばかりは腹もたたなかった。

夢中だったのだ。

転職先に一時ゲーム会社を選んだのも、あのゲームの現代版が作りたいが為。

心残りだった。

(もう一度遊びたい。今のクオリティで)

しかし夢は叶わなかった。

もう時代は戦闘機ゲームを求めていないという理由だった。売上が見込めない。

 

ハンガーにあった戦闘機は”STG28”よりも大分小さく見えた。

にも関わらずハンガーは巨大で、これまでのハンガーの比ではない。まるで戦艦のドックのようである。

ミリタリー好きの友人に連れられ一度航空ショーを見に行ったことがあるが、その時に見たブルーインパルスよりも”STG28”は遥かに巨大である。今のホムスビは、ブルーインパルスの倍程度に見える。

 

彼は涙を拭うと見渡す。

 

「どうして・・・」

 

真っ白な戦闘機。

真っ白なハンガー。

ハンガーの色もこれまでのものと違う。

綺麗な形。

肉厚な本体は地上のような空気抵抗のある場所では向かないだろう。

上下で分離出来るように考えた。

中央に主砲。

 

これが自分のもの。

 

胸の奥から何かが溢れてきて、意に反して声を上げて泣いてしまった。

膝が落ち顔を伏せた。

 

不意に思い出した。

昨夜、妙な夢を見たことを。

その夢の中で手足が八本ある宇宙人が言っていた。

 

「おめでとうございます。七つの理にたどり着きました。サイトウさまに次いで二番目に早い記録ですよ」

 

それと関係があるのだろうか。

それとも都市伝説通り大量の戦果を上げたからか。

 

念の為にマザーに問い合わせてみたが、「STGIは我々の管轄外であり、お答えできません」と言われる。

巷の噂では”STG28”のレベルを最大の十に上げ、尚且特定の戦果数を取得すると得られるというものが最も信憑性が高い。それは間違いだということだ。

彼の”STG28”はレベル八で止めらていた。勿論、十にするのは容易だ。それだけの戦果を先日のフェイクムーンの一件で得られたのだから。

シューニャが得た戦果は日本・本拠点全ての搭乗員分を足したものより大きいものだ。日本、アメリカ、ロシアの全搭乗員分を足した戦果相当と言えば規模の大きさが想像出来るだろう。

本部委員会は事あるごとに「その戦果を何に使うんだ?」とか「当然、本部へ寄付するんだろうな」とか「それだけあるんだ、一戦果も寄付しないとか許されんぞ!」と、次第に恫喝じみた要請をする委員会メンバーもいたが彼は一切を無視した。もっとも委員会によらず世界中から寄付の要請を受けたが。フィルタリング機能を使い「寄付」の文言を含むメールは全てゴミ箱直通に設定してある。誹謗中傷記事は乱立し、「さすがブラックナイト、汚い」とか「卑怯者エゴイスト集団それがブラックナイト」等、散々叩かれたが、元からヒール役だったことが幸いした。世間の印象は「さもありなん」そういった程度だった。逆に賛美してくれる部隊も少なくなかった。「彼らがしてきた功績を思えばけして多過ぎることはない」や「きっと彼らなら有意義にポイントに使うだろう」と受け入れられた。海外からも「持つべきところが持つというこの上なく幸運がもたらされた」と報じられた。

シューニャは実戦で主力として配備されているSTGの性能を知りたいが為に、レベル八で止めた。ほとんどまだ動かしていない。

 

(やはり莫大な戦果を得たからだろうか?)

 

STGIには謎が多い。

というより謎だらけと言っていい。

わかっていることと言えば、世界で所有者が七人だったこと。

そのうち六機が既に失われており、ハンガリーのバルトークが現存を確認されるのみ。

その戦闘能力は”STG28”の比ではない。ただし先の大戦から圧倒的数でまさる隕石型宇宙人には焼け石に水といった印象だった。

二機は先の対戦で謎の宇宙人(恐らくブラックナイトと考えられる)に食われ消失。

残りは既に亡きものになっていたとゲーム運営会社のサーバーを覗いた時に知る。

各国にとってSTGIは戦力の要であるが故に生存の有無も時として秘密になる。

サイトウの繰る人型もSTGIと思われていたが彼のハンガーには無かったと聞く。またサーバー上のデータではロストと記録されいた。

STGIがハンガーに配備されるという事実も初めて知った。

 

STGIの容姿は全て違うと聞く。

搭乗員のある種の造形意識が具現化されるとも言われている。

でもバルトークは違った。”STG28”をそっくり巨大化しような外形だった。

アメリカのSTGIは超巨大爆撃機のようだった。

日本にあったSTGIは巨大な人型ロボットだったと聞く。

 

「どうして俺のSTGIは小さいんだ・・・」

 

ドラゴンリーダーことサイキが嘗て宇宙人に尋ねたことがあると言っていた。

「STGIを全機配備すれば隕石型宇宙人なんて物の数じゃ無いだろ。なぜそれをしない?」

答えは先程のものと同じ。

「STGIは管轄外です」

コンソールの情報を読みながらあることに気づく。

「維持費がかからないんだ・・・」

そればかりじゃなかった。

武装の強化は基本的に出来ない。

”STG28”と同じでコスト概念があり、その範囲内での武装選択になるようだ。

「ちょ、待って!これファランクスじゃないか?」

それは彼が心酔したゲームにあった選択武装だった。

近接の的に超火力を誇るが射程がほとんど無く、癖も強い武器。扱うのには慣れを必要とした。

シューニャの口が何かを求め魚のようにパクパクと動く。

「プラネット・バスター・・・え、まさか、惑星破壊兵器の?」

これは彼が当時考えた武装だ。

サンドイッチされた機体中央部に装着されている主砲からチャージして発射される。

宇宙戦艦アニメの全盛期を経たが故の必須武装。

「チャージすることで惑星をも吹き飛ばす火力をもつ。内核に干渉し自壊させる武装」

完全に忘れていたつもりだったが、スラスラと口をついた。

「当時ノートに書いた説明のまま・・・あ、でも少し違う」

惑星の規模によりチャージ時間が異なると書いてある。

 

「・・・」

 

STGIホムスビを見上げる。

つばを飲み込む。

ウィンドウを開き公式のトップを見るがシューニャがSTGIを取得したといったニュースは流れていない。

「自己申告制なのか・・・」

一瞬躊躇ったが、

「ビーナス」

パートナーを呼んだ。

「はい、なんでしょうか」

彼女は何時も通り美しかった。

「コレ・・・知ってた?」

STGIを指さす。

彼女はSTGIを一瞥すると、コンソールにアクセス。

「STGIが配備されたんですね!おめでとうございます!」

芝居なんだろうか。

本拠点でマスターに起きる出来事は全て把握しているはずだ。

「今、知った?」

「はい」

「これは・・・何?」

「STGIと思われます」

「思われますってことは・・・君らもよくわからない?」

「はい。コンソールにはそうありますが、客観的に認識する術はありません」

「何も?」

「はい、マザーには情報がありませんから」

「メンテナンスとかどうするの?」

ビーナスはコンソールを無駄なく操作すると言った。

「STGと同様に自動で行われるようです」

「武装の補充や修理は?」

またコンソールを操作した。

本当に知らないのか。

「自動のようです。若干の制限はあるようですが」

何も知らないんだ。

マザーとは隔絶した兵装。

「ちょっと待った。じゃあ、ビーナスの本体は今どこにいるの?」

「コアの中です」

「STGIの?」

「いえ。こちらです」

コンソールを操作すると彼女とシューニャは転送される。

 

STGホムスビが眼の前にあった。

 

「あれ?どういうこと」

「コンソールの情報では、STGIのハンガーは位置不明と出ております。STGホムスビは元のハンガーにあります。恐らくデフォルトのハンガーの転送先が変わったのでしょう。複数機STGを所有した場合、設定を変更しない限り新規に取得したSTGのハンガーに転送されますので」

「・・・これって人違いってことはない?」

「先程の端末で搭乗員はマスター、シューニャ・アサンガ様と記録されていましたから間違いないと思われます」

「じゃあ、ビーナスは今まで通り・・・」

「はい、このホムスビのコアにおります」

「そうなんだ・・・」

 

ビーナスは本当に何も知らないようだ。

 

簡単な実験から、ビーナスは私が呼ばない限りSTGIのハンガーにも入れないとわかる。彼女の話だとSTGIの操舵はビーナスの補助無しで行うことになりそうだ。STGIが一体なんなのか彼女もわからないと言った。マザーが許容していることは間違いないようだが理由も不明。思うに何らかの外圧から止む無くマザーも受け入れているという可能性もある。

日本にアメリカの軍隊が駐留しているようなものかもしれない。だとしたら、政府が日本にいながらアメリカの特殊権限を制限出来ないのと同じこともあるかもしれない。事故調査すら出来ないニュースを何度か見た。それと似たようなものだとしたらマザーにとっては不愉快な存在だろう。

マザーとはどういう関係なのだろうか。仮に上位機関だとしたら、オーソドックスに連邦組織というのはありえる。サイキさんも言っていた。彼女らにも地球における連邦組織があると。その強制力は恐らく強く、マザーは様々な制限の下、活動している可能性があると。

サイトウのハンガーにSTGIが無かったというのもある意味では間違っていないということか。彼以外入れないのだから。他人が確認する方法がない。

それから様々な角度で質問を変えてみたが、ビーナスもマザーも答えは「管轄外の為わかりません」だった。

 

戦果口座も確認した。先日ログアウトした時から変わっていない。つまり戦果とSTGIは全く無関係ということになる。いや、断言は出来ないか。カード払いみたいに後で引かれるということも考えておいた方がいい。自分では何かした気はなくともうっかりやってしまったという可能性は零ではない。時々、自分でも危ういものを感じる。

コンソールをあれこれ触れてみたが、戦果を何かしらの形で導入することは出来ないこともわかる。ある考えが過った。

 

「こいつは一体どんな代償をもって動くんだろうか」

 

ビーナスはわからないと答えた。そして慎重にあたるべきだと助言する。この存在を部隊員に知らせるべきかとの問に「今は止めておくほうが得策でしょう」と言った。「どうして?」との問に「混乱を招く恐れがあります。STGIの力は強大です。本部委員会との関係はおろか、国際拠点の力学にも影響を与えることは必然です。現在のブラックナイト隊のメンバーは世界中からスカウトされ、既に八人が移籍しました。まだ増えるでしょう。その際に何らかの情報が漏れる可能性もあります」と言った。

それは納得出来るものであると同時に「結局、頭のいい連中というのは愚民政治が基本なんだな」と改めて思った。何を言うべきか黙るべきか慎重に考えないと。単に黙ればいいというはずがない。全員の安全に関わる部分は言うべきだ。

フェイクムーン時に発生した内乱からようやく落ち着きを取り戻しつつある日本・本拠点にとってSTGIが何かの火種になりかねないことは容易に想像が出来る。バルトークにしても本拠点付きの兵装と位置づけられ、STGIを所有している部隊も本部筆頭部隊になっている。でも我々はそう簡単じゃないだろう。何せ嫌われ者部隊だ。今や嫉妬の的。中央の信頼はマイナスに傾くことはあってもプラスに傾くことは無い。ブラックナイト隊への不信感は情報工作と嫉妬と事実無根の妄想で出来ている。それを覆すの不可能だろう。某宗教団体で嫌というほど味わった。先のブラックナイト隊を襲った連中も特権とやらでアカウントはBANされていない。ただ我々も無関係ではない。そうした組織を野放しにしているのは同時に一般の搭乗員でもあるからだ。地上も腐っていれば宇宙も腐っているというわけだ。どうして地球の危機に「皆で奴らを倒そう!」と一致団結出来ないのか。私利私欲の争いは平和になってからにして欲しいものだ。

 

「訓練がいるな・・・」

 

問題は乗った途端にバレるだろう点だ。

Published inSTG/I

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