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STG/I:第六十一話:アンドロイド

「ビーナス」

「はい」

ホログラム化された彼女が横に立つ。

「静はどう?」

「動力炉の交換と接続は終わりました。まだ化粧は終わっていませんが」

「化粧?」

「今は動力炉と腹部の金属が見えた状態です」

「そうか・・・でも動けるんだね?」

「動けます」

「静には悪いが・・・やってもらうしかない」

「コアは本当にそのままでいいのですか?」

「ああ構わない。アンチウィルスだけかけといて」

「それは済ませましたが・・・」

「異常は?」

「ありません」

良かった。

ビーナスが何か言いたげだ。

「気変わりはしないよ」

「・・・わかりました」

メディカル・ルーム。

 

静は横になっていた。

再生施術に入っているように見える。

アンドロイドとはいえ、ああしたやり取りの後で緊張している自分がいる。

彼女の横に立ち顔を見るが、彼女は真っ直ぐ天井を見ていた。

「静、悪いけど一仕事頼みたい」

「・・・」

気まずい。

「答えなさい」

敢えて厳しい口調で言う。

彼女の大きな目がギョロっと動きシューニャを捉える。

「わかりました」

上体を起こそうとするのを手で制する。

「その前に一つ聞きたい。・・・STG21に再接続することは可能かい?」

「恐らく可能です」

「その際に、STG21の言語系から日本語へ通訳は可能かな?」

「無理でしょう」

「簡単な対話も?」

「ある意味では可能です。やってみないとわかりませんが、STG28のコアを通した機械語のようなものでやり取りをすれば可能と推測します。基本的な部分でかなりの類似性が見られましたので」

「よし。それをやってもらう」

「徒然なるままに」

思わずホッとする。

その様子を静は見つめていた。

シューニャはあんなことを言いながら実は肝心のこの部分だけはわからなかった。

勿論、仮に出来ないと言ってもヤル前提で出撃するつもりだったが。

彼らにコンタクトをとったのは静しかいない。

何かしら可能性があるとしたら静しかいないのだ。

作戦室では「マザーの結論を待ってからでも遅くないのでは?」との意見もあったが、フェイクムーンの詳細な情報が途絶えた以上、悠長にしているつもりは無かった。下手に長距離通信を仕掛ければ拠点の所在を探知され、あの超長距離砲で射抜かれる可能性は髙井。マザーも長距離通信を切断している。公式情報でも流れた。

静の持って帰った情報が地球にとって極めて重要であることは間違いない。

しかし、それもこれもココを凌いでこそ初めて意味がある。

「取り敢えずの人工皮膚を接合するのにどれくらい時間がかかる?」

医療ロボットに尋ねる。

「このままで構いません」

静が手をすり抜けるように上体を起こす。

腹部動力炉は丸見え。金属や外骨格も剥き出しになっている。

その様はまさにアンドロイドと言えた。

焼け溶けた人工皮膚の周囲が生々しい。

まるで彼女はシューニャにそれを見せつけるように堂々と胸をはり誇示する。

私はアンドロイドであると。

「・・・」

「すまないな・・・」

シューニャは何かを言いかけたが止めにした。

「滅相もありません。ノーマルスーツを着れば同じことです」

笑みはなく表情が固い。

(表情系の機能障害か)

静はシューニャの側に立った。

「直ぐに装備換装いたします、が・・・」

言葉が詰まる。

(言語機能に障害を受けたのか?)

シューニャを正面に捉えると、言った。

「隊長。換装を手伝っていただけませんか?」

射るような目。

誰も静からこういう眼差しで見られたことがないだろう。

通常の部隊パートナーなら有り得ない行為。

何せ敵対とも捉えかねない挑戦的な視線だ。

搭乗員パートナーなら絶対に有り得ない。

「それなら私が・・・」

ビーナスが言いかけたが、静が手で制した。

「隊長にお願いしたいのです」

シューニャを真っ直ぐに見ている。

「構わないよ。出来るだけ見ないようにする」

「いえ。見て下さい。しっかりと・・・認識して下さい」

「認識しているつもりだよ。(君がアンドロイドだということはね)」

「アンドロイドの装備は接合面が多いので見ないでは出来ませんから・・・」

含みのある言い方。

(それならどうして俺を呼ぶ?ビーナスの方が適任だろうし、何より施設の方が確実だ)

アンドロイド用の装備換装は専用のカプセルで簡単に終わる。

(俺を試したいのか?)

彼女は見つめ続けている。

「わかったよ。やったことがないんだ。教えて欲しい。しかも中の人は不器用で物覚えも悪いときている。頭の悪い人に諭すように丁寧に言ってもらえることを願うよ」

どうしてか彼女が安堵して見える。

(表情系の故障ではない・・?)

高度なアンドロイドは最早人間の反応と見分けがつかない。

「そのつもりです」

「私も手伝います」

ビーナスが何かを察したのかついて行こうとする。

「隊長だけにお願いします」

何が気に入らないのか、静はきつい口調で言い放ち、ビーナスを一瞥することもなくきっぱりと断った。以前の穏やかな彼女なら考えられない。

「ありがとうビーナス。大丈夫だよ。作戦室で皆の様子を見てきてくれ。何かあったら連絡をいれて欲しい」

ビーナスは少しだけ不満そうにしたが直ぐに笑みを宿し頭を下げる。

「かしこまりました」

ビーナスのホログラムが消えた。

(治療中に二人の間で何かあったか?)

今のは奇妙な光景だ。

本来ならアンドロイドの部隊パートナーと搭乗員パートナーのAIが反目することはない。何事も論理的かつシームレスに行われる。司令系統や上下関係がハッキリしているから人間のように感情的衝突というのも存在しない。そうでなければ意味がない。

部隊パートナーは出撃した際の司令系統や部隊ルームでの位置が高いだけで、それ以外のケースでは搭乗員パートナーの指示が優先される。今のケースで言えば、部隊パートナーの指示が優先されるとはいえ、そもそも隊長が手伝う道理は無く、非効率的作業であり、そもそも選択肢として排除されるはずのものだ。ビーナスがやろうとしたのも当然の話である。

静はシューニャの手を掴み部隊ゲートへひっぱった。

「どうした?」

「何がですか?」

「いや・・・なんとなく」

繋がれた手をじっと見る。

こんなこと今まで無かった。

「エスコートです」

そうは言っても転送装置は目と鼻の先。

二人でゲートに並ぶと静はシューニャの手を握ったまま言った。

「静。換装ルームへ」

二人は転送される。

 

*

 

私のVerが変わっていない。施術前と同じ。本当にコアを換装しなかった。どうして。意味がわからなない。何も間違ったことは言っていない。危険性が少なく、コストが少ない選択肢だった。それがわからないお人ではない。

人間の感情と、そこからくる不条理な行動の原理はある程度把握している。同時に人間における、日本人における家族、身内に対する存在の強さ、優先順位の高さも理解している。儒教の影響から遺伝子レベルで種の根底に静かに息づいている。隊長は恐らくそれが強いのだろう。

それにしてもおかしい。隊長のメンタルグラフに大きな変動は無い。撹乱ではないのに。冷静だ。なのに明らかに誤った手をうつ。そんな馬鹿な。普段から動揺は極めて少なく、寧ろ人間には少ないタイプ。生きていく過程で困難な道のりだったことが伺える。一時的にショックを受けても立ち直るのが非常に早い。その点では隊長に相応しいが。他の部隊の隊長と比べると主導力に欠け、カリスマ性も乏しい。能力も高い方とは言えない。STGの搭乗戦績も中の下。全体的に操作能力は可もなく不可もなく。極めて劣ったところも無ければ、優れた点も無い。あるとしたら認識力と発想力だろうか。頭も回るがじっくり練るタイプ。相応性に乏しく隊長というより参謀タイプ。少なくとも他の部隊には全く居ない。このスペックで隊を纏められるとは思えなかった。だがどうだろうか。隊は動いている。

隊長は誰よりも私がアンドロイドであると認識している。でも一方で人間のように大切に扱う。大いなる矛盾。他の隊員は人間でいうセクハラ紛いの行為を平気でし、士気に影響を与えない程度に許容しているが、隊長はその気配すらない。私がアンドロイドだからだろうか、発言や行動分析からも性の対象が男性というわけではない。

大切にするのはコストが高いことが大きいからだろうか。私は安い存在ではない。日本にはモノに魂が宿るという考え方がある。そういう思想背景から来るのだろうか? 私は隊長にとって極めて大切なモノという認識でいいと把握していたが。昔の日本人はモノが無いがゆえにモノを大切に使う文化だったとデータにある。その延長線上なのだろうか。

隊長はもう少し物の道理で行動すると思っていたが違うとだけ言える。情報偏差値を調整する必要がある。発言から私を家族のようなものと錯覚視している可能性は高い。この場合、家族のように対応を変化させるべきか。しかしそれだと他の部隊員様と差が出てしまう。部隊パートナーであるが故、差は最小限にすべきだろう。

 

(いや、違う。そうじゃない。そこじゃない)

 

わからないのは寧ろ私に生じているこの動揺だ。どうして私のリソースはこの処理に多く奪われている。感情表現にまで影響が出ている。メモリ使用率も大きすぎるが減らすことが出来ない。どうして?感情表現の閾値が不安定で正常な表現が出来なくなっているのは良くない。隊の士気へ影響がある。部隊パートナーとして最も評価が低い行為だ。なのにどうして制御出来ない。隊長を目にすると動揺がより大きくなる。

どうしてさっき私は隊長を見つめた。あの見方は敵対的視線だ。許される行為ではない。過ぎれば何か意図があると疑われ、動揺を与え、判断をあやめることになるのに。やはり私はコアを入れ替えるべきだ。汚染は無いようだが、恐らく未知の攻撃が始まっているのかもしれない。隊長は間違っている。

どうして私は隊長の手を掴んだ?わかならい。転送装置は目の前なのに。誘導する必要はない。わからない。そもそもどうして隊長に換装をお願いした? 換装装置で済むのに。 私は何をしている。私は何をしているんだ?敵の攻撃だろうか。今はオフラインだからコアにウィルスを仕込まれた可能性がある。でも反応はない。可能性の解析結果はコンマ数%。未知のウィルスは計測が困難だから否定は出来ない。オンラインは出来ないように機能が焼かれている。恐らくビーナスだろう。部隊コアに接続して解析したいがもう叶わない。

それとも差し替えた動力炉と相性が悪いのだろうか。エネルギーの生産量が必要量以上に高いのはそれが理由? この熱量の予備動作は何なんだ。少し調整する必要がある。今までと個体差があるのだろう。

ビーナスは気づいている。私がおかしいことに。搭乗員パートナーの権限を行使しようとしている。搭乗員に危険を脅かす存在の排除。そのうちビーナスに処分されるだろう。コアのアイデンティティは停止させるべきだ。でも・・・停止させたらSTG28の本体コンピューターと何が違う?また、十分な任務が遂行出来ない矛盾をはらんでいる。それにしてもリソースの使用率が高い。どうして?

部隊コアに接続出来ない私等は部隊パートナーとして存在価値が無い。情報処理は完全にこなせなくなったと言っていい。出来るのはせいぜい雑務だ。隊長が喜んでくれた季節ごとの花を飾ったり笑み型を作るだけの存在。単なる人形。それなら観賞用のドールにすれば遥かに安くつくはずだ。コアは廃棄するのが妥当。間違っていない。私は存在価値が無いのだ。

どうして私のリソース使用率は増大する一方なんだ、何故生かされた。どうして私は隊長の手を握っている。どうして?なぜ?何をしようとしている。人間の真似事か。隊長の戦意高揚の為に女型としての武器を使うのか?相手も女型なのに。でも本人は男性だ。矛盾していない。そもそもそれを隊長が望んでいるのか?いや、データでは男性がそうした行為を好意的に捉えられない者は極めて低いと出ている。他の部隊では珍しいことではない。だがアンドロイドを嫌悪している場合もあるから慎重に運ぶ必要がある。恐らく隊長は機械に対して好意的と思われるが。事が事だけにわからない。

 

「静、しーず!」

「え?あ、はい」

シューニャの目線には換装カプセル。

「どうすればいい?」

「つまりそれは隊長もそうしたことを望んでいるということでしょうか?」

「え?・・・そういうことって」

「そういう・・・」

駄目だ、今度は正視出来ない。

どうして。

何が違う。

駄目だリソースがどんどん減る。

「しず!しず!手、手!」

「あ、すいません!」

「ごめんなさい!・・・私のコアを今からでも破壊して下さい。さっきからおかしいんです。恐らくウィルスに感染している可能性があります」

「本当か、汚染率は?」

隊長が瞬時に距離をとり、驚愕した目で私を見た。

嫌だ、そんな目で見ないで欲しい。

「可能性の話です!」

「何%と出ている?」

「・・・コンマ三%プラス・マイナス一です」

「なんだ、ゼロに近いじゃないか」

「未知のウィルスかもしれませんし・・・」

隊長は少し頭を撚ると言った。

「その可能性はあるだろうね。でも・・・今は大丈夫だよ」

駄目だ。どうして混乱する。

何だこの情報の羅列。

何を根拠に隊長は。

リソースがもう限界に来ている。

「私に触れて下さい」

「わかった。どでもいいの?」

「はい」

左上腕部に振れた。

なんて優しい触れ方だ。

この情報量。

得たことがない。

リーソースが解放される。

なんだというのだこの無意味な情報の羅列。

 

目を閉じていた。

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