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STG/I:第九十一話:レフトウィング

「目が、目が!」

「落ち着いて、時期に慣れる筈だから」

「慣れなったからどうするんだよ! 誰が責任とるんだ!」

「見えない! 見えないよ!」

「あれ、声が聞こえないぞ、耳、耳が」

「あー! あーっ! あれ? 誰か、聞こえる? 誰でもいい喋って!」

「自分の声が聞こえない! 助けて・・・怖い!」

「責任とれよ! このクソが!」

フォーメーションを最も早く完成させていたSTG28の群体 レフトウィング は、爆発時セントラルコアに最も遠い位置にいた。レフトウィングでは部隊による抵抗がほとん無く安定した状態で、唯一、当初の作戦開始ポジションにいた。

遅々として進まない ライトウィング のフォーメーション完成に業を煮やした司令部は、作戦開始時間を優先し、セントラルコアの射撃を実施。

 

セントラルコアは爆発する。

 

衝撃と閃光は宇宙距離で離れていたレフトウィングにも即座に到達。

瞬間、司令船との接続は途絶する。

作戦開始と同時にブレインを失うことに。

最も遠い位置にいた彼らは一層の恐怖を味合わった。

世界を切り裂くようなセントラルコアの閃光。

歓声後の静寂。

本部委員会の絶叫に気づいたものは、光を発するセントラルコアを見た。

爆発の閃光と衝撃に全員が目を眩ませ、恐怖に竦み、絶望に喘ぐ中、司令系統はマニュアル通り、権利上位順に自動的に委譲されることになる。しかし、それに気づいた者はほとんど居なかった。彼らは混乱の渦の中、ただ混迷を深める言動を繰り返す。

 

そんな中、幸運にも一人の隊員が自らのパートナーへ向かって絶叫していた。

 

「噴射停止! 姿勢制御! 衝撃を受け流して!」

ショックの余りドッキングしていることを失念していた。

「対エネルギー・フィールド最大! センサー保護!」

自分の船を操舵しているつもりだった。

彼の名前は エイジ と言った。

最初に声を発したのが彼だったし、具体的な指示を出したのも彼だけだった。

「レフトウィング外縁部ダメージ増大」

自らのパートナー”シャドウ”の骨伝導音声。

難聴の彼は骨伝導イヤフォンを普段から使用している。

微かにパートナーの声が聞こえていた。

「回転して! 一箇所にダメージが集中しないように分散! 角度を変えてダメージが直に伝わらないように!」

彼は目が開かない中、外の音が聞こえない中、三分間、指示を出していた。

道しるべは彼のパートナーから発せられる骨伝導音声。

 

閃光と衝撃の際、彼は自らの体験をリフレインしていた。

いじめられていた小学生時代。

丸く、

とにかく丸くなり、

ダメージを出来るだけ貯めず、

出来るだけ急所への直撃を避け、

転げ回る。

 

それでも家に帰れば天下だった。

母が太陽であり、彼を常に暖かく包んだから。

だから生きていられた。

 

ある日、いじめっ子の一人が母に手を上げる。

気づけば馬乗りになってその子を殴っていた。

夢中だった。

顔を血まみれにし泣いていた少年が目に映る。

母を殴った子だ。

次の瞬間、エイジは彼の頭に噛み付いた。

全力で。

力の限り。

メキメキと音をたてると彼は絶叫する。

直後エイジもまた気絶。

バットで頭を殴られたことを後日知る。

その時、耳を悪くした。

 

過剰防衛。

 

噛まれた彼の父は警察官。

バットで殴った少年の親は母の上司。

母は職を失う。

未成年の為、前科はつかなかったが、噂は津々浦々まで広がる。

噂を流したのは勿論彼らだ。

 

二人は引っ越した。

 

それでも母は彼を責めなかった。

そして何時ものように彼を強く抱きしめ言った。

「丁度、辞めようと思っていたところ」

母が過労で倒れ、母方の祖母に預けられると、彼は引き篭もるようになる。

どうすればいいかわからなかった。

何が正解だったのか。

今、どうすればいいのか。

ただ、世の中が酷く醜いものに思えた。

ニュースで繰り返し流させる凶行を見て、明日は我が身と思う。

同時に、母が生きている間は何があってもヤラないと決めていた。

「母だけは悪者にしてはいけない。二度と」

一方で、母に何かあったら彼らと同じようなことをするのではないかと危惧していた。

 

ゲームぐらい全くの別人にと思っていたが気づけば、どこか現実の自分と似ているキャラになっていた。彼は気の弱い美少年だった。パートナーは同じ造形で真っ黒な人間。名前を”シャドウ”とつける。適当だった。性別は女性。知らず、声は母に似せていた。

 

ゲームでも彼は役立たずとして位置ずけられた。

 

ソロでは船体を維持出来るかどうかのギリギリの戦績。

主に内政で稼ぐ。

部隊に誘われては孤立。

突然の除隊勧告。

三つの部隊を除隊させれた後、ブラックナイト隊へ。

シューニャのスカウトである。

憧れの部隊だった。

彼は二度と誰とも関わらないつもりだったが、これを最後と入隊する。

 

嫌われても、嫌われても、躍り出る存在、ブラックナイト隊。

大戦の真の英雄と知る人ぞ知る。

黒姫の隊長、シューニャ・アサンガ。

実は宇宙人、ブラック・ナイトに違いないと噂されている。

エイジは寧ろそうであって欲しいと願っていた。

 

「地球を滅ぼして!」

 

しかし部隊も彼女も、実態は彼の想像とは全く違っていた。

何時も不安定なシーソーの上にあるような部隊。

柔和で温厚なシューニャ隊長。

隊長なのに部隊員に弄られている。

変わらないのはシューニャの笑顔。

(あれだけ本部委員会で叩かれて、口汚く罵られて、どうして笑えるの?)

その姿に母を見ていた。

どうしてそんなに強くなれる。

シューニャがどの部隊員よりも多くを抱えているのは見てわかった。

彼女が行方不明になった時は昼夜を惜しんで必死に探した。

彼女の、もとい彼の力になりたい。

(中の人が彼と知った時はショックだった)

でも、結局は無能な自分は何も出来なかった。

役に立たなかった。

ジレンマに歯ぎしりをする日々。

「どうすればいいかわからない」

シミュレーターも必死にやった。

最下位記録を更新することはあれど誰かの上になることは無かった。

それでもシューニャは言った。

「ここまで出来ないのは逆に凄い才能があるね。間違いないよ!」と。

彼女の瞳は輝き、声は真を語っているように感じられた。

「私は何にも出来ない人だけど、唯一、他人の才能を見極めるのは得意なんだ」

彼女はそう言った。

(何にも出来ない? 嘘だ!・・・こんな凄い部隊の隊長なのに)

ある日「思うんだけど。エイジは参謀に向いているんじゃないの?」と声をかけた。

嘘を言っていると思った。

本当は無能だと思っている。

でも、シューニャは彼を本部メンバーに入れる。

同情しているんだ。

心の底では僕をバカにしているんだ。

でも・・・。

 

「エイジ、代理を頼む。何もしなくてもいいからさ」

 

耳を疑った。

バカなんじゃないかと思った。

でも嬉しかった。

 

「前にも言ったと思うけど。参謀向きだと思う。作戦を考えるのを手伝って欲しい」

「でも・・・」

「力を貸してよ~」

「・・・僕で良ければ・・・」

「君がいいんだよ」

 

レフトウィングはセントラルコアの爆発によって大きく流されていたが、フォーメーションの崩れは無く、船体外縁部は三十%程度のダメージで済んでいる。それは一にも二にもエイジの判断が功を奏した。

準備が早かった理由に、ブラックナイト隊の存在が大きいことを誰も知らない。普段はとかく批判の的にされた彼らだったが、フェイクムーン戦の際に戦果を認められたのは明らかであり、その額の異常さからも有能さを本心から否定する者は現実には多くは無かった。その彼らがレフトウィングにいるだけで大多数の部隊は心の何処かで”安心した”のだ。

今回ブラックナイト隊は極めて協力的で大人しかった。それが結果的に彼らに大きな安心と従順を与える。”最後には彼らがどうにかしてくれるのではないか”そんな依頼心が多くの心にあったからかもしれない。そして”彼らと一緒なら自分たちも戦果を得られるのではなかろうか” そうした現実的な欲目も。

多くがログアウトしていく中、それでも六割が残っているのは、そんな理由からだろう。

レフトウィングの各部隊員は光から目が回復し、音が戻ってくると同時にようやく冷静さを取り戻しつつあった。それでも具体的な行動に転じるのは極一部。

 

「オペレーション・ナユタ始動してます!」

「そんなハズないだろ。本船とのリンク切れてんだぞ!」

「待って、この命令はタイムスケジュール始動よ・・・このままだと何処へ撃つか判らない」

「パンパンパン工房、部隊全員ログアウトする。健闘を祈る」

「ちょ、おま!」

「てめーら委員会だろ! 無責任なこと言ってんじゃねーぞ!」

「遅い。もう落ちてる・・・」

「ふざけ! アイツラ本部お目付け役だろうが!」

「今度あったらぜってー許さねー・・・」

「今度は無いかもね・・・日本は終わりだ・・・」

「皆、大声出さないで集中できない!」

「うるせーぞメス!」

「うるさいよオス!」

「だからどうした!」

「私は犬で良かった」

「私も。猫だけど」

「・・・バカばっかりで嫌になるな・・・ログアウトしよっ」

「俺たちも落ちよう、もう駄目だ・・・」

「地球オワター・・・貯金の無い俺っちは勝ち組だったか」

「天罰が下ったんだ・・・」

「黙れカス」

「地球人はクソだ」

「日本人はだろ?」

「ちげーわ、日本人こそ至高だろ」

「この現状でその発言が出来るバカって天然記念物級だな・・・」

「貴様っ!」

「一人でわめーてろ」

「せめて一太刀でも・・・動かない・・・」

「司令船からのリンク切れてんのに動かねー!」

「逃げんな! 敵前逃亡は死刑だ!」

「逃げるか! 戦うんだよ!」

「コントロールが戻らない、どうなってる?」

「今、レフトウィングに指示を出せるのは・・・」

「委員会だろ」

「見ろよ、今ので委員会の奴ら全員ログアウトだぞ!」

「あの時と同じだ・・・捨て駒なんだよ・・・」

「ログアウトする。ゴメンね、私死ぬ前はお腹いっぱいホールケーキを吐くほど食べるのが夢なの」

「うん・・・じゃあね」

「待って・・・」

「どうしたの?」

「今、指示系統のトップにいるのって・・・」

「ブラックナイト隊・・・」

「プリンちゃんがいた部隊!」

「隊長って、シューニャさんだっけ?」

「うん・・・あ、待って違うみたい。隊長代理ってある」

 

レフトウィング船首最前列。

 

「隊長代理、隊長代理・・・エイジ!」

「あ、ハイ!」

「どうするよ。始まった途端全滅っぽいんだが」

「全滅!・・・とは限らないですよ!」

エイジの声は震えている。

事実上の初陣である。

「さっきの爆発はセントラルコアだろ? 記録がまっさらで全くわからないが恐らくそうだ。ナユタの発射直後。恐らく反射の可能性も微レ存。何にせよセントラルコアは壊滅だろう」

ミリオタは落ちついていた。

「でも・・・ライト、ライトウィングが!」

「ライトウィングはフォーメーションが完了していない状態だった。落合によると今しがた高エネルギー反応があったそうだ。エネルギーデータからいってSTG28の超出力版。としたらライトウィングだろう。エネルギー方位から言って何かを狙って撃ったというより制御不能に陥って勝手に発射された可能性が高い。つまり残ったのは俺たちだけ」

「でも・・・でも・・本部船、司令船だっていますから・・」

「モニター見ろ~。司令はとっくに途絶えている。ントラルコアに最も近かったのも司令船だ。爆発に巻き込まれた可能性が高い。ただでは済むまい」

「だからって・・・だからって僕が、なんですか・・・」

「見ろ~モニターをよ。司令系統の筆頭にいる部隊を」

 

ブラックナイトになっている。

 

本部委員会の部隊は全員ログアウトしたとある。

本部委員会裏認定されている ブラックナイト は自ずと筆頭になった。

「え! ほんとだ・・・なんで。あ!・・・無理です! ・・・シューニャさんが、隊長が名前だけだからって言うから僕は受けたんです・・・無理です。出来ない・・・」

ミリオタは落ち着いた声で言った。

「日本・本拠点にあったSTGは一気に1/3だ。今ここで済めばな。・・・お前は知らないだろうが先の大戦の時、この数よりもずっと少なかった。だから、再建は可能だ」

「無理です! 僕は無理です。ミリオタさんやって下さい! ベテランなんだし!」

「ば~か。それこそ俺が隊長になったら『全員凸るぞ!』で終わりだぞ」

「そ、それで、それで良いじゃないですか」

「言いわけあるか。俺でも止めるわ。エイジ、シューニャはなあ、ちゃんと考えてお前にしたんだ」

「・・・嘘だ。僕に同情しているだけだ・・・」

ミリオタは少しムッとした顔をする。

目をつぶり何かを堪えると言った。

「俺は正直ムカついていていた。なんでお前が代理なんだって。でも、あの冷徹女のビーナスや、俺の静が意義を唱えなかったことに現実の評価を見た気がしたよ。言っても、お前がさっきの働きを見せなかったら、ぶっちゃけ有無を言わさず俺が今命令していただろうな。今の対応で俺自身の無能さに腹がたったと同時に、さすがシューにゃんだと思った。俺は正真正銘の脳筋だよ。だから頼む、俺達を導いてくれ!」

 

モニター越しに頭を下げる。

 

「ミリオタさん・・・」

 

レフトウィングの被害が最小限に済んだのはエイジの判断による所が大きい。爆発直後のダメージコントロール。レフトウィングのドッキング・マッピングも彼の意見による。

作戦前に委員会から意見を求められた際、彼は「ガーディアン型を外縁部に位置した方がいいんじゃないですか?」と言った。

急造チーム。ましてや大連帯による超巨大なSTG28だ。本部委員会はとにかく自分たちが安全な位置で合体出来ればいいと安易に考えていた。以前の彼らだったら一笑に付したであろうエイジの意見。しかし彼らは余りにも当たり前である「硬い壁を外にする」という発想に対して異論を唱える考えを持たなかった。

ガーディアン型のSTG拠出を渋る部隊が出ると、エイジは再び意見を求められ「そういう部隊は内側に組み入れて良いんじゃないですか? 内側にも硬い壁はあったほうがいいでしょうし。幾層にもするんです。バームクーヘンみたいに。戦果配分も外側から高い設定にして」と応え、戦果の件以外、本部は実際にそうした。

最も委員会がエイジを信用していたわけでは決してない。何かあった際に彼らの責任にしようというのが本音だった。彼らが船首に設けられたのも明らかに犠牲にする腹である。

本部委員会と通じている一部の部隊はブラックナイト隊が指示を出していると知り、素直に従ったのも大きい。フェイクムーン後、マザーが下した戦果配分の御威光は彼らに絶大な心理的影響を与えていた。

 

「ミリオタさん・・・」

「あんだ?」

「このまま逃げるっていうのはアリですか?」

Published inSTG/I

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