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STG/I:第八十八話:空腹

寝転がってウトウトしているシューニャ。

大きな陰ができる。

陰に気づき目を開けた。

その正体を見上げる。

「グリンじゃないか、どうした、随分と大きくなって」

身の丈十メートルほどあろうか。

グリンはシューニャを見ると、何時ものように頭の中に語りかけた。

「日本・本拠点を喰った」

言うと、ポンと一つ腹を叩く。

鼓のような軽快な音。

「旨いのか?」

「ああ、噂以上だ。お前も食うか?」

「いいね~。ご相伴にあずかりましょうか」

グリンは膝をおり、ペタンと正座をすると前かがみになる。

口に指を突っ込み、歯の間に挟まった何か、団子状の塊を摘むと差し出しす。

「ほら、喰え」

それは肉塊となったブラックナイト隊のメンバーだった。

「地球人じゃないか。アレは不味い」

「この前は旨い旨い言って喰ったろ」

「そうだっけ?・・・思い出せない。そう言うなら物は試しだ、頂こう」

肉塊がテーブルに置かれる。

乾いた音をたて皿が割れた。

「いただきます」

手を合わせ歩み寄る。

満面の笑みのシューニャ。

手にはお箸。

恐怖と涙が張り付いた幾つもの顔。

口をあんぐりと開けるが、その口は既に血まみれだった。

 

「あがあああああああっ!」

 

自らの絶叫で目が醒める。

額に油汗びっしり。

しかし、直ぐにひいた。

手の甲を猫みたいにベロリと舐める。

 

(酷い夢だ・・・)

体調が悪いわけでも無いのになんなんだ。

 

見回す。

 

どうしてかSTGIの中にいるようだ。

(・・・やってしまった。いつかやるだろうと思ったが・・・)

 

STGIの中で眠ってしまったようだ。

 

外を見るとハンガーの中にキングサイズの畳ベット。

横たわるシューニャが見える。

あのベッドはSTGIから出した。

出た所は見たことがないが。それ以外は考えられない。

STGIに搭乗し、見えるほどに明確なビジョンで強く思い描き願うと、知らず具体的されている。

代償は多少なりとも必要だったが、誤差範囲と体感が告げていた。

何を出したか、そしてどうなったか、どう代償を受けたかメモを残している。

 

シューニャは眠っているようだ。

STGIのシューニャは眉を寄せる。

 

「どうやって出るんだっけ・・・」

 

未だに法則性がわからない。

強く降りると念じようとしても、本心で強く信じきれない自分がいる。

体感が「あれは別人」と告げているからだ。

似て非なるもの。

前回と同じ症状だった。

再度、強く念じてみる。

 

(また降りられない・・・)

 

自分で入っておきながら出られないなんて、どんな間抜けだよ。

グリンに頼んで、またアレをやってもらわないと。

 

思う一方で、彼女がいない感覚が湧く。

念のために呼びかけてみる。

「グリン、すまんがまた戻れなくなった。アレを彼女に食わせてくれ」

通じてない感覚。

寝ている感じとも違う。

 

(近間に居ない・・・)

 

感覚を本拠点の外へ向ける。

いない。

更に拡張。

 

(クソ・・・腹が減ってきた・・・)

 

STGIの能力を使うとエネルギーが消費する。

彼女の分体から貰えている程度ではSTGIは幾らも動かせないことは実験でわかっていた。

 

(寝過ごさ無ければどうにかなった筈なのに・・・間抜けめ)

 

眠っているシューニャを睨んだ。

グリンの言う通り、本体が喰った隕石や小惑星をもらわないと駄目なんだ。

出来るだけコイツは動かしたくないが、負債で乗るしかない。

これじゃ本当に餌付けされる親鳥と雛だ。

ヤツが言うには、今の私では直接隕石を消化吸収することは出来ないらしい。

自分の食いぶちは自分でなんとかしたいが。

リアルで足手まといの上でコッチでもお足手まといかよ。

 

出られない理由がわかった気がした。

 

(そうか・・・)

言うなれば私は借金の肩代わりに囚えられているようなものかもしれない。

人質なのかもしれないな。

システムを理解していないとこういう落とし穴がある。

この程度で降りれなくなるなら不便で仕方がない。

当面はグリンの提案通り定期的に本体と合流して食べさせてもらおう。

 

(グリン! グリン! どこだ!)

 

駄目だ。

何があった?

定例の訓練だとしたら、近間のはずだけど。

 

時を思い描き、今が何日で何時から把握。

 

(ああ・・・馬鹿だ私は・・・)

今日は現場検証の日だ。

本部委員会の要請で超長距離索敵隊の記録が正しいかの検証を実施する。

STGスイカ御神体のロストが原因だった。

 

敵アメジストに融解させられたと報告したが、マザーの圏外である為に確証が無い。

記録はとってあったが、事実かどうかの確認が必要と言われた。

元々が信用されていない部隊である。

揚げ足を取りたくてウズウズしている輩も五万といる。

本音は戦果を欲しくて仕方がないのだろう。

難癖をつけて多大なる戦果を献上せよと迫るのだろう。

ロストした証拠を示せという。

 

ロビーにある所有STG機体数は日本・本拠点だけで四桁を示している。

それでも、いざ鎌倉となったらお世辞にも十分とは言いがたい。

STGが今も貴重であることに代わりはないのだ。

現場検証したからとしても無実が証明されるとは限らない。

現場で目くそ鼻くそな矛盾を見つけ、鬼の首を取ったように攻め立てるのだろう。

彼らの頭の中では既にシナリオが出来ている。

 

「戦果あげちゃえばいいじゃない」

 

私は言ったが、皆は反対した。

「私の口座から払うよ」と言ったが、ミリオタさんは頑なに反対。

珍しくエイジも同じだった。

「私も納得できません。横暴過ぎます!」

私とて納得はしていない。

証拠は十分だった。寧ろあれだけ証拠が揃っていることの方が稀だ。

裁判所に相当するシステムも本拠点にはある。

事実上機能していないからどうにも出来ない。

権力者の言いなりである。

 

彼らが憤りを感じるのは当然である。

しかし世の中は理屈を通すことより流れを掴むことが重要だったりする。

世間を動かしているのは嘘つきという現実。

本来なら長距離索敵時の損壊は不問。

それでも権力者は常に自ら有利なように好き勝手にルールを替えるもの。

屁理屈は幾らでもコネようがあるのだ。

彼らは常に自らを太らすことにしか興味がない。

戦うにはコチラにもカードが必要だ。

もっともカードはあった。

シューニャはそのカードを現段階で見せるべきじゃないと考えている。

ジョーカーをきったら後が無い。

 

(あのクソ共こそが人間らしいか・・・愛するのは困難だな・・・)

 

揚げ足をとられる要素もあった。

索敵隊に参加した二人が聴取の前に”STG28”を去る。

ゲームを辞めたのだ。

その理由を言えと迫られた。

隠蔽だと言われたようだ。

悪魔の証明。

勿論、相手はそれをわかってやっている。

更に一人は部隊を去り、もう一人はログインして来ない。

タイミングが悪かった。

 

現場に居合わせた隊員は マルゲリータ のみ。

二度とログインしてこないと思っていた。

彼女は立派だった。

話したかったが、叶ってはいない。

ビーナスを通し「隊長が会いたと申しております」と、交渉を依頼したが断られる。

彼女の返事は「会う資格がないです。会わせる顔も無いです」とのこと。

ビーナスも粘ったようだが、駄目だった。

 

今の穏やかなビーナスで駄目なんだ。無理だろう。

 

そして「現場検証を最後にゲームを辞めます」と言ったようだ。

立ち会ってくれるだけでも有り難い。

本当は一刻も早く忘れたいだろうに。

彼女は気づいていないが、変わったのだ。

強くなった。

昔の彼女なら、とうにゲームを去っていただろう。

 

現場検証にはミリオタさんと静も随伴。

エイジを推薦したがミリオタさんはガンとして譲らなかった。

万に一つ。

万に一つ、新たなアメジストと遭遇したことを考え、グリンの随行を要求する。

ミリオタさんは「それでいいんなら全然オッケー」と返す。

グリンには後から許可をとる。

彼女は久しぶりの外でウキウキを炸裂。

 

皆にとってガス抜きになってくれればありがたいが。

(その上でアイツ・・・何をヤレ、かにをヤレと・・・)

待てよ。

たしか・・・それで一旦STGIを降りて遊んで、

遊び疲れて、畳ベッドに横になった。

なんでSTGIの中にいるんだ。

 

(腹が減っている)

 

寝ながら食べる過食症の人の映像を思い出す。

本人は食べてないと言い張った。

脳波も睡眠状態。

にも関わらず歩き出し、冷蔵庫を開け、むしゃむしゃと食べていた。

散々食い散らかし、一通り満足したのか、また睡眠状態のままベッドに戻る。

なのに、全く覚えていないと言う。

 

それと同じなのだろうか。

無意識の行動。

STGIを望む自分の。

そこまで自分は自我をコントロール出来ていいないだろうか。

既に手遅れなほど中毒症状が出ている?

 

(いや、違う)

 

STGIでグリンを通し、出撃の様子を見ていたんだ。

二人で繋がっていた。

皆の緊張した顔。

顔を伏せたままのマルゲリータ。

すっかり元通りに戻した長い髪。

毛玉のような彼女。

静が一人陽気に振る舞っていたが場は沈んだまま。

嘗てのプリンを思い出す。

静はグリンのSTGを複座にし搭乗。

威圧的で仰々しいだけの本部委員会のSTGに囲まれ出撃したことが思い出される。

どこまでも追えそうな気がしたが、エネルギーのロスを防ぐ為に中途で切断。

 

(そのまま寝過ごしたか・・・)

 

遊び疲れたのと、余りにも居心地が良くて・・・というのは言い訳だな。

とにかくこの空腹はマズイ。

せっかく出撃前にグリンに食べさせてもらったのに。

 

部隊のダイナーに入るか?

いや、アレらでは満たされない。

必要な栄養素が違う。

グリンが戻ってくる明日まで持つか?

無理だな・・・この感じは持ちそうにない。

本体を探そう。

 

(飛ぶか・・・)

 

困る一方で喜んでいる肉体を感じる。

行く前にエイジに声をかけておこう。

このままでは確実に大変なことが起きる気がする。

 

(エイジ、すまないが居たら来てくれないか?)

 

返事がない。

時間的にはログインしているはず。

グリンのことは双子のように居るか居ないか肌で感じるが地球人はそうはいかない。

かなりのパワーを使えば可能だがロスが大きい。微弱な電波を捕らえる為に高出力の機材でキャッチするようなものだ。

ログインしているのか、いないかや、会話等はコンソールを通した方が無駄が無い。

 

STGIの中からコンソールを動かす。

部隊リストのほとんどがログインを示している。

 

(珍しいこともあるものだ)

二十一時過ぎ。

ゴールデンタイムか。

だったらジャンプしないと見つかるな。

 

ジャンプの方がパワーを使う。

 

(なんで返事が無い?)

可能性としては、手が離せないか、STGの中にいるか。

 

ハンガーの中は治外法権であると同時に監獄だった。

 

恐らくマザーが機密保持の為にシャットアウトしているのだろう。

STGIのハンガーにあるコンソールはマイルームやSTGと仕様が異なる。

地球人がパソコンで検索して直読みするような方法しかない。

画面は十インチ程度のスクエア型。

画面の横に受話器がついており、キーボードは小さいく、某社のNAVIを彷彿とさせるデザイン。昔のSF映画にありそうなものだ。マウスは無いがタッチパネル。アレと違ってフルカラーではあるし解像度も高いという点が違うが。画面が小さすぎて公式ブログや公式日報すら閲覧しづらい。このモニターに最適化されていないのが伺える。

数日で読む気力が失せた。

通話は出来るが電話のように相手ありき。留守電があるが相手は記録に残せない。向こうからは電話をかけられない。向こう側からは「宛名不明」と表示されるようだ。

宇宙にいる方が自由にアクセス出来る。

STGIを使えば全ては感覚的に一瞬で終わる。

 

絶え間なく襲う空腹感。

 

ハンガー内ではメールが基本。

コンソールを外から操作し、メールを開く。

誹謗中傷が竜巻のように吹き荒れてからというもの、ホワイトリストのみ受信するように設定を変えている。本部委員会の連中から来るものは強制受信だが。

 

「あ、エイジからだ・・・」

 

沢山来ている。

最後のだけ開いてみる。

後半の十通ほどは無題。

 

「ブラック・ナイト本拠点急襲!!!」

 

一瞬、意味が理解が出来なかった。

少しして、全身が震える。

 

(忘れていた、ヤツの存在を)

 

エイジからのメールをざっと読む。

マザーの大号令の元、日本・本拠点STG全機が出撃。

今回は本部委員会が音頭をとっているよう。

前回の急襲より機能している。

ブラックナイト隊もログインしている全機が出撃。

STGホムスビもビーナスが操舵し出撃したようだ。

搭乗員がログインしてこないSTGはマザーによる強制出撃になる。

現場検証へ向かった小隊は本作戦行動には加わっていない。

隊長代行はエイジになっている。

 

続いてビーナスからのメール。

「ハンガリー・本拠点へマスターの亡命を申請し承認を得ました。マスターが許諾すれば即亡命が可能です。どうか生き延びて下さい。貴方のパートナー・ビーナスより」

承認コードが添付されている。

ガタガタと震えてくる。

次第に腹の底が抜け落ちそうな感覚に変わってくる。

この震えは血糖値の急激な低下のような現象も伴っているようだ。

体感が告げている。

 

「喰え! 喰わないと、お前を喰う!」

 

壊れた玩具みたいに右腕がガタガタと震え出した。

恐怖からか、空腹からか。両方か。

 

最後のメールは十五分前。

まだ間に合う。

いや、間に合ってくれ。

 

「STGIホムスビ出撃!」

 

*

 

次の瞬間には本拠点の外。

この感覚はまだ慣れない。

部隊員に感覚の手を伸ばす。

「居た・・・少し遠い」

交戦している様子は感じられない。

間に合った。

 

再び飛ぶ。

Published inSTG/I

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