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STG/I:第八十七話:独り

帰還して一週間が過ぎる。

 

思索と対話と実験の日々。

聞くに、宇宙人共は襲ってこないようだ。

ただ、波の様に不安が襲ってくる。

この前も、その前も、本部は把握していなかった。

あの時、ビーナスの提案通りにソナーを打っておいた方が良かったかもしれない。

 

過去の判断に対する後悔が津波となって押し寄せる。

取り敢えず成功だったはず。

アメジストに対する推測も正しかった。

でも本当にそうだろうか?

不安に飲まれそうになる。

時間は幾らあっても足りない。

 

STGIについて出来るだけ解明しておく必要を感じる。

 

何事もただ恐れているだけでは駄目なんだ。

実際に乗ってみたからこそわかったことがある。

バッテリーが減るようにSTGIも代償を払う必要があった。

全く同じなんだ、我々と、機械と。

動くには莫大なエネルギーがいる。

恐らく、その能力の使用程度によって。

生きている。

食べることによって生きているんだ。

前回それで帰還に困難を伴った。

グリンが「お前が食べたほうがいいぞ」的な発言の意味を理解した。

無闇には動かせない。

ましてや前回のように長距離を一気に加速して動かすような真似は危険過ぎる。

戻れなくなる事象の理由も厳密にはわかっていない。

STGIは万能ではないんだ。

ハイリスク、ハイリターン。

何故七つあったSTGIは一つになった?

どうしてSTGIが本拠点を襲った?

下手をすると私のSTGIが日本・本拠点を襲う可能性もあるのか?

何が原因で?

何がキッカケで?

わからないことばかり。

 

ミリオタさんがマザーに対する嫌悪感を強めている。

 

本件が落ち着いてきたら、急にマザーに対する不満が噴出してきたようだ。

私の抹殺命令を本部委員会に報告しようと言うのだ。

マザーに理由を求め、謝罪を要求すると言った。「混乱を生むだけだから」と諌めたが納得はしていない。言い方を替え「今争うべきは隕石型宇宙人であってマザーではない」と言うと若干トーンを弱める。今、他の厄介事にかまけている時間は無い。

 

マザーが我々に味方する存在であることは間違いないだろう。利益を共有しているからだ。思っていたほど便利な存在では無いだけのこと。あくまで解決は自分達でしなければならない。それを多くは忘れている。誰かがやってくれると思っているのだろう。サイトウが助けていたにも関わらず。まるで天から安全が降っていると、それが永遠に続くと勘違いしている。

 

マザーがへそを曲げるとは考えにくいが力を分散させることは望まない。そもそも私が宇宙人であることに間違いないのだ。その説明をミリオタさんにしたところで到底承服しないだろう。自分が宇宙人であるかの証明は出来ない。あくまでも感覚的なもの。グリンも認めている。ミリオタさんにグリンの言葉はわからない。

 

ミリオタさんが苛立ちを抱えているのはわかる。だが、他人は他人だ。その前に自分がやらねばならないだろう。「他人に苛立ちを抱えているうちは期待しているからだろ?」と言いそうになった。誰しも自分で出来ることをするしかない。目を覚ますのは自分でしか出来ないのだから。

 

ビーナスの命令はキャンセルされたが安全とは言えないだろう。

 

ミリオタさんは「シューニャはもう出ても大丈夫なんじゃないか?」と言ったそうだが、ビーナスに注意されたようだ。そう考える気持ちもわからないではないが、あくまでもビーナスは命令対象から外れただけで私の抹殺命令は有効だろう。私が部隊ルームにインすると同時に静へ何かしらの指令が下る可能性は高い。プログラム的に解釈するとそうなる。機械は命令に対して忠実なのであって感情ではない。抹殺命令が有効である以上、枝葉の指令がキャンセルされたことは影響を与えないだろう。

 

マザーによる最適化の恩恵を離れた彼女らには確実に本来の目的に対してズレが生じつつある。言い方は悪いが道具は使えてこそ道具。使えない道具は用をなさない。彼女らを人型の道具として見るか、生物的なニュアンスで見るかで大きく向い方が変わってくる。どうしても私等は愛着が湧いてしまうから気をつけないと。本来の目的から逸脱する時、彼女らについて考えを改める必要があるだろう。道具は必要だからこそソコにある。皆はその点をどう考えているのだろうか? 彼女らにとっての目的は地球人を守ることだ。

 

考えてみるとそれぞれに目的があるんだ。私の本来の目的とはなんだ? 生まれた理由。生きている間に果たすべき使命。種としては子孫繁栄だろう。生物の基本。だから私等はエラーそのものなのだ。でも個人としてのミッションはなんだ? ビーナスが私を守る為であり、静が部隊を守る為であるように、私のミッションは・・・わからない。

 

彼女らを見ていると、ある種の我儘や理不尽さこそが生物らしいと言える気がしてくる。欠点こそが愛べき点なのかもしれない。ハードルが高いが。誰だったか、「愛人の欠点を愛せない者は愛しているとは言えない」だっけか? そんな言葉が残っている。俺も彼女の欠点を愛することなんて出来なかった。愛する以前に受け入れることにすら苦労したのに。愛してなかったのだろうか。そうかもしれない。自分が出来るとは思えないが。

 

先日、抹殺回避の方法をエイジとも模索したが結論は出なかった。

 

一旦このゲームを辞めて、新規で入り直す方法をエイジは述べたが、それは多分無理だと返した。招待アカウントを踏んで新規に作れると思ったようだ。勿論、過去に辞めて復活したプレイヤーはいる。だが、運まかせだろう。新たに案内が届いたに過ぎない。恐らくメールアドレスが違うのではなかろうか? 宇宙人のリクルートは頻繁だ。常時行われているだろう。多くは新規に案内されたから復活出来たに過ぎないと推測する。招待メールのリンクはワンタイムパスのように一回踏んだらリンク先が無効になる仕様だろう。これは地球でも既にある技術だ。

 

「いっそ、駄目もとで辞めるか!」と言うと「今の無しです」とエイジは反対した。「今の私達にはシューニャさんが希望なんですから」と彼の熱弁を始めて聞く。知らない間に彼も随分と変わったものだ。良い傾向に思う。彼は弱そうに見えて奥底は強いと感じる。彼が成長した時、隊長を譲りたい。

 

STGIを使って一か八かの賭けにでるかも考えた。

 

いっそSTGIで無茶をしたらどうかと。無茶、その代償は即ち死を意味するだろう。リアルの死。死そのものは怖いとは思わない。何度も死にかけた経験で朧気に体感を得ている。ただ、リアルに死を考えると「やり残したことは無いか?」と改めて言葉が浮かぶ。今のうちに、もう一度、姪や甥に会いたい。そうした思いが浮上する。

 

両親にも謝っておこうか。「役に立たない息子ですまなかった。ありがとう」とでも言おうか。そうなると絶好した糞兄貴にも一言謝っておきたくなった。思い返すと自分は自分で冷たい態度だったかもしれない。誰だって出来ないことは出来ないのに、無理な要求をしたのかもしれない。そういう視点が生まれると急速に自分がクズ野郎に思えてくる。

 

姉さんはどうしているだろう。後遺症が今も辛いだろう。罪滅ぼしで姪や甥を可愛がっていた部分は間違いなくある。少しでも力になれればと思った。仲のいい親戚にも礼を言いたい。年賀状ぐらいでしか連絡を取り合っていない旧友は。そう考えるとキリがないな。挨拶まわりだけで一ヶ月以上かかりそうだ。

やはり両親だけにするか。そうだ、そうしよう。両親にだけは何か謝っておきたい。何だかんだ不自由なく過ごせたのは両親のお陰だ。その点に疑いの余地はない。クズ野郎は俺自身だったかもしれない。

 

アメジストの印はグリンが回収して回っている。

 

蟻のフェロモンに相当する痕跡は前回の索敵隊はわからなかったようだが、グリンはわかった。アメジスト初号体の印もグリンの本体が回収して回っている。当面の安全は保証されるだろう。だが、いずれ来るのは間違いない。これまでの周期からすると三ヶ月だろうか。STGIにも出来そうだが、グリンほどの確実性は無いと感じられる。

 

フェロモンに相当するものはグリンの動作からアメーバのように自らを切り分けて残したものと思われる。エセニュートンに検知方法の検討を依頼したが「サンプルが無い以上は無理だ」と言われた。当然の話だ。焦りが判断を誤らせる。

友人となったグリンの組織を提供してくれとは言うつもりはない。何より彼女が受けるはずもないだろう。グリンはあくまで私との契約に縛られているに過ぎないと思われる。地球人の実験体になるような真似はさせたくない。するべきじゃない。契約はどの程度有効なのだろうか? 範囲は? 期日は? それが気になる。そこも悩みの種だ。グリンが意味を理解しないのか応えてくれない。もう少し早く気づいていればあの宙域の痕跡も消せただろう。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。今から行くのはリスクが大き過ぎるだろう。

 

分体のグリンはマイルームのカプセルで眠っている。

 

そのように彼女に言った。今となっては私の話し相手でもあるグリン。厄介なのはSTGIに乗らないと会話が出来ない点だが、最近では乗らなくても直感で大分通じるようになった。彼女が話す時、必ずコチラを見るということがわかった。つまり今までも彼女は話しかけていたんだ。我々のような発声器官を使わない為、我々に届かないだけ。恐らくヒトガタには彼女らの言語は発声出来ないのだろう。

彼女とはジェスチャーを交えた手話をベースにした言語を教え、簡単なやり取りはするようにした。物覚えは私の比ではなく一回見せたら覚えてしまう。寧ろ私の方が覚えられないのでコミュニケーションは制限されている。彼女に地球の、というより日本の作法を少し教えている。

 

グリンは直ぐに「面白くない」とか「退屈」とか「外へ出よう」とか「遊ぼう」とか、まるで授業に全く集中出来ない生徒のよう。そのせいで聞きたいことが五万とあるのに上手に聞けていない。複雑な問いをする時、STGIに搭乗するが、嫌になると彼女は勝手に出ていってしまう。

彼女は基本的に対価交換と思われる。一つ教えて、一つ返す。そういう感じ。機嫌がいい時はそうでもない。基本的に質問は嫌う。彼女にとって最高のご褒美は「遊ぶ」ことだと改めてわかった。甥や姪の創造的な遊びが懐かしい。

 

命令を聞いてくれることも嬉しいようだ。巷に溢れるお姫様のようなものだ。姪を思い出し、試しに肩車をしたりお馬さんをやったら大ヒット。特に肩車。何事もやってみるものだ。いきなり飛び乗ると危ないと教えたが言うことを聞かない。辛うじて「飛び乗ったら五十の質問ね!」と条件を出したら飛び乗ることが無くなった。ただし機嫌が悪くなる。余程、質問が嫌らしい。

質問しても答えないのを当初はわざとなのか、極秘事項なのかと勘ぐったが、そうでも無いようだ。単に興味が無いように見える。それとも演技か? いや、ソレはないだろう。つまらないのだろう。その辺りもまるで子供だ。

 

一日一回は地球人に戻るようにしている。

 

人間とはなんとも脆弱で、か弱い生き物かと痛感する。しばらく戻らなかったからか、上手に身体を動かせなくなっていた。まるで交通事故後のようだ。わずか二週間腕をギブスしただけで筋肉がカチカチになり、戻すのに一ヶ月かかかった。それを想起させる。

 

そう言えば小便を少し漏らした。同じ人間でもこうも違うのかと戸惑う。グリンのことを思い出し、「だからか」と色々と合点が行く。以前、プリンがこっそり耳打ちしてきたことがあった。グリンが漏らしていたというのだ。彼女はどうしているだろうか。元気ならいいのだが。何かあったのだろう。サイトウのことが余程ショックだったのか、それともサイトウ・ファンクラブの裏切りが原因か、わからない。

 

オッサンである自分が鏡に映ると何とも懐かしい感じがする。他人事になりつつある自分を感じる。歩く時、時々内股になっている自分に気づく。玉があるから男は足を開くんだなと妙に納得した。玉を挟んで何度か痛い思いをする。でも胸が重く無いのは気分爽快だ。見る分には巨乳が好きだったが、あんなにも邪魔なものだったのか痛感する。ただ、真下を向いた時に普通に足元が見えると不思議な気分だ。何か失われた感覚を受ける。どうも妙な心許なさも感じる。

 

STGIから降りれなくなった原因。

 

地球人に戻るようにしているのは降りれないことを防ぐ実験だ。自分が地球人であることを思い出すには地球人でいる時間を長くする以外にないと考えている。STGIは強すぎる薬と同じ。あの万能感・・・思い起こしただけでSTGIに乗りたくなる。堪えがたいほどの欲求になりつつあり、乘るほどに抗うのが難しい自分を感じる。強い薬があくまでもカンフル剤で使うものと同じように、常用は危険だろう。薬物が身を滅ぼすことは明確なのに辞められないのも理解出来る。生物としての内なる圧力が凄い。自分をコントロールしないと。長年の病のお陰で、欲求に対する対処法は身についていると思う。それでも相当な内圧だ。肉体を上手に懐柔しないと。

 

それにしても地球人は鬱陶しい。緩慢で力が無く、曖昧模糊としている。すぐ腹が減るし。すぐ痛がる。すぐ壊れ、挙げ句に直ぐに治らない。地球にもメディカル・ポットが欲しい。どうして小指をぶつけただけで、こうも痛いのだ。苛立つ。でも、この感じも懐かしく面白い。腹がたって地団駄を踏む。その直後になんだかおかしくなり笑ってしまった。傍から見たら完全に頭のおかしな人間だ。人間とは何とも些細なことが気になるものだ。待てよ、そうじゃない人間も少なからずいるだろう。ということは、私自身が小さく繊細な人間ということか。

 

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