Skip to content

タグ: 黄色いレインコート麗子

黄レ麗:第七十八話:会話

正門を出た所、バス停に彼女はいた。
ベンチに腰を下ろし傘は立てかけている。
道向かい、やや上空を、見るとはなく眺めているよう。
物憂げな面差し。
内なる自分を見ている。
これほど美しい日本人も珍しい。
欧米化の食事による影響もあろうが彼女の場合は少し違うだろう。
血液的なものを感じる。
両親ではなく祖父母あたりに血が混じっているのではなかろうか。
食事はあまり摂れていないような痩せ方。
あの活力からすると本来ならかなりの大食漢であるはず。
身体は細いが芯は太い。
長身で柳のような様子がない。
今時の男でも無い太さ。

黄レ麗:第七十七話:麗子

夢のような一日だった。
自分で言うのもおかしいけど、私は一度コレと決めたら折れたことがない。
頑固だと思う。
それなのに先生に委ねた。
自分でもわからない。
どうして任せられたのか。
嫌じゃなかった。

今朝、玄関でマーさんと先生を見た時、目的は聞かずともわかった。
先生に告げられても自分の中に全く抵抗が無かった。
全く予想もしてなかった来客だだったのに、こうなることを自分が待ち望んでいたんだと知った。
とうの昔に諦めた夢。
何度も夢見た幻想。
いつかこの私の人生という牢獄から救いだしてくれる人がいて欲しいと、心のどこかで願っていた。
気が遠くなるほど待った。
裏切られた。
果てに得たレジ袋だらけの錆びた部屋と薄汚れた身体の自分。
もう二度と抱くことのない希望。
諦めていたつもりだった。
いえ、諦めるよりも重い。
冷めきったもの。
全てに対し。

黄レ麗:第七十六話:こころ

職員室を出る二人。
学校の先生方は祭りのあとのように三々五々に散っていく。
溜まっていた用事を思い出したのか、夢から覚め、急に現実に引き戻されたように、険しい顔を伴い急に慌ただしそうだ。
そんな様を僕はなんとなく見ていた。
先生に促されるまま僕は下駄箱まで二人を見送る。
(何があったのか聞きたい・・・でも・・・)
「じゃあ・・・先生」
「あー、悪かったね呼び出して」
「いえ」
「次の稽古は何時だっけ?」
「え?・・・何時もと同じですから明日です」
「そっか、明日か。明日は二人で来なよ」
先生はレイさんと僕を見た。
彼女は少し躊躇ったように見える。
「はい」
(この躊躇いは何を意味するんだ)
「わかりました」
先生は本当に彼女を弟子にしたいんだ。

黄レ麗:第七十五話:騎士

まるで僕の心境を表しているかのような雨。
この先を予見するかのように雨脚は強くなっている。
時折、季節外れの雷鳴も轟いた。
「雨は降るもんだよ。君の気持ちと関係なくね」
僕が彼女のことを知った頃だったと思う。
レイさんのことをそれとなく言った時、先生はどうしてそのように応じた。
どうして先生がそう言ったのは今でもわからないけど、ふと思い出した。
次はスズキの授業のはず。
ヤツの顔を見ればある程度の予測は出来るだろう。

黄レ麗:第七十四話:生徒たち

マキが真っ先に僕の元に走って来た。
「今度は逃さねーぞ!」
僕の腕を強く掴む。容赦のない力。
彼は必死の形相で僕を見据えた。
(お前は僕に何を見ているんだ。どんな思いを感じている?)
ナガミネが駆け寄ろうとし机の足にぶつけたのか苦悶の表情を浮かべるも直ぐ気持ちを立て直しやってきた。それにヤス、ミツ、マイコちゃんも自然と集まる。それを目にし、胸の奥底から形容しがたい何かが込み上がり僕は思わず、
「みんな・・・ありがとう」
口をついた。
「どういう意味だよ!お前・・・ユウレイと心中でもする気じゃねーだろうな・・・」
僕の何を見てそう思ったんだ。
「マッキー落ち着いて」
マイコちゃんは声をひそめた。
「マーちゃん・・・」
ヤスが珍しく真剣になっている。
ナガミネは言葉にならないようだ。
眉を八の字にし目を潤ませ僕をただジッと見つめ、言葉にならない言葉を発している。
口火を切ったのはミツだった。
珍しく怖ず怖ずと尋ねる。
「色々と聞きたいんだけど・・・時間あるかな」
応える時間はない。
「いかなきゃ」

黄レ麗:第七十三話:先生たち

「上手いこと言うな!」
学年主任の憤りは書道専科のササクラ先生の思わぬ援護射撃に霧散する。
「ササクラ先生、驚かさないで下さい」
彼女は何時も通り体裁だけは繕ったが剣先の鋭い語気をはらんだ。
「すいません。彼の見事な一言に『してやられた!』と思ったものですから。身がしまる思いでした」
僕はなぜか書道は選択しなかった。
我ながら興味が無いんだろうと思う。
「重ねて生意気な口きいてすいませんでした」
オグラ先生は応えなかったが、代わりにササクラ先生が僕に問うた。
「お前の師匠はどこの会に属しているんだ?」
会?どういう意味だ。
「存じ上げません」

黄レ麗:第七十二話:理不尽

スズキを見た瞬間に抑えていた憤りがマグマのように湧き上がる。
真っ赤な血が全身を駆け巡り噴出口である僕の表情となって出る刹那、先生が口を開いた。

「よースーさん元気かい!久しぶりだね~」

職員室中に響く大きな声。
その声に行き場を失った憤りは一気に沈下した。
(本当に先生のお弟子さんだったのか・・・)
先生はまるで我が家のようにズカズカと中へ入っていく。
度胸が座っているのか無神経なのか。
こういう所は本当に羨ましい。
ところがスズキは険しい顔で眉をしかめている。
(やっぱり人違いなんじゃ・・・)
容赦のない不信感を全身に纏い先生に歩み寄った。

黄レ麗:第七十一話:対決

嘘みたいだ。
レイさんは今まさに先生の隣にいる。
制服には着替えていない。
学校へ向かう道、僕らは三人で歩いている。
予想とは違いレイさんは先生の求めに応じた。

(今でも信じられない)

少し早めに先生の宅へ立ち寄り、そこからレイさんのアパートに行く。
レイさんはいた。
何事もないように。
「いや~レイちゃん久しぶりだね。ちょっと今から付き合ってくれないかな」
先生が言った言葉はそれだけだ。
僕は彼女に合わす顔がなかった。
二人だけの秘密をペラペラと喋って軽薄な男に思えたからだ。
(応じてくれる筈がない)
僕の思いに反し彼女は言った。

黄レ麗:第七十話:取引

「そりゃ駄目だ。ヤメな、悪いことは言わない」

どうして先生まで。
先生ならわかってくれると思ったのに。
彼女の何がいけないんだ。
今の話でどうしてそう言える。
彼女の何を知っているって言うんだ。
なんで皆は彼女のことを嫌う。
「・・・悪魔との取引って言いたいんですか?」
ナガミネは言った。
彼女と何かをやり取りするということは悪魔との取引だって。
先生にはマイコちゃんとナガミネの話はしていない。

黄レ麗:第六十九話:先生と僕

先生の教室が見える。
何をしようと言うんだ僕は。
そもそも先生は部外者もいいところだろ。
どうにかなるなんて思ってはいない。
聞いて欲しい。それだけでいい。
(先生はセラピストじゃない)
そうじゃない・・・違うんだ。
(学校にいるだろカウンセラーは)
カウンセラーは他人なんだ。
何を言われても心に響かない。
でも先生は違う。
親身になって聞いてくれる。
やったことを言うし、やってることを言う。
今の僕にはすがる希望が欲しい。
(希望・・・)
何かあったような。
(あ、ナメカワさん・・・)
僕は不意に彼女のことを思い出す。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。