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STG/I:第九十話:光

「支指示りに動け! 委員会に逆らう奴は全員反逆罪で即刻ログアウトさせる!」

本部からの激が飛ぶ。

その声は臓物が飛び出しそうなほど緊張していた。

遅々として整わないフォーメーション。

パートナーによるスムーズな変形を拒む小隊が多数。

「お前らがそのつもりなら委員会を抜けるぞ!」

飛び交う怒号、膨らむ恐怖心。

駆け引きや取引。

「どうせ死ぬんだ好きなようにさせてくれ!」

視野狭窄。

自暴自棄。

伝染するパニック。

「やだ! もう帰る! ママに会いたい!」

広まる流言。

「ブラック・ナイトに食われると地獄のような苦しみを永遠に味わうそうだぞ」

「神の化身を攻撃していいはずがない!」

時間がかかればかかるほど、手間どれば手間取るほど、それらは勢いを増した。

一部の部隊が禁を犯すことで、崩壊が意図も簡単に始まる。

「プラーグ隊、大連隊を強制離脱しようとしています!」

「違法コード確認!」

「ライトウィング第百五十ブロックフォーメーション崩れます!」

早くもほころびを見せる巨大兵器。

本部委員会の作戦はこうだ。

現存する日本所属の全STGを接続し三機編成へ。

長巨大な擬似的な戦艦になる。

そこからSTGの全エネルギーを集結させ砲撃するというもの。

 

フェイクムーンでの戦闘から小惑星以上に対して自らの弱さをようやく認識した故の作戦と言える。

大きい相手には自らも大きくなって手を打つと発想したようだ。

STGは結合することで一撃のインパクトも強くなるメリットがあった。

しかし彼らはその訓練すらロクに済ませてはいない。

パートナーそのものは命令を従順に実行出来ても搭乗員は別だった。

各パートナーは搭乗員の命令を最優先に従う。

統率なき蟻の集団のようなものが、今の人類だった。

 

本部の大号令のもと作戦開始。

 

彼らは先の戦闘から緊急事態におけるマザーの強制執行を防ぐため、自らが強権を発動。

各部隊の作戦や思惑を全て無視し オペレーション・ナユタ に組み入れた。

 

委員会のコアメンバーによる全パートナーとSTG本戦コンピュータは並列接続。

巨大な指揮系統をつくりあげる。

下々の部隊は本部の手足となり、搭乗員パートナーがシームレスに命令を実行。

ここに一つの巨大な生命体にも似た戦艦を新たに生み出すことに成功する。

それは同時に人類である搭乗員が完全に置物と化したことも意味する。

 

指示を出せるのは本部委員会の大連隊のみ。

戦艦級のSTGは中央のセントラルコア、ライトウィング、レフトウイングに別れる。

委員会はドッキングした司令船を形成し遥か後方から指示を送る。

「ライトウィングは準備急げ!」

「セントラルコア、第六十七から九十ブロックで連帯による反乱の兆候あり! 密偵から報告ありました」

「潮時だな。STG強制管理に変更」

「アイアイサー!」

 

モニターに悠然と泳ぐブラック・ナイトと思しき暗黒の物体が映し出された。

 

「対象のブラック・ナイト動きあり!」

動き出すのが、見えた。

歓声と畏怖の声が自ずと発せられる。

大連隊長は言った。

「全部隊のSTG強制執行」

一も二もなく発令される。

電光石火の接続。

下々の部隊員が気づく頃には全てが完了した。

「いいタイミングだな。ブラック・ナイト」

しかし搭乗員は恐怖に慄いた。

何も知らされていない。

「ブラック・ナイトの仕業だ! コントロール出来ない!」

「パートナーが乗っ取られたんだ!」

「いや、これは本部かの司令だぞ。どうなってる? 聞いてないぞ!」

「参加は任意じゃないのか・・・」

「最初だけって話だったろ!」

「・・・グルだったんだじゃないか? 俺たちを生贄にするつもりじゃ」

伝染病のように妄想が拡張する。

多くの部隊が大連隊から逃れようとするが、時すでに遅し。

「落ち着け! お前らが言うことをきかないから強制執行モードにしたんだ!」

ネタばらし。

「嘘だ!」

パニックは広がる一方。

「どうしますか大連隊長?」

「構わうな。強制執行モードにしたらログアウトしか出来ない。したらしたでSTGを使うだけだ、寧ろ居ないほうが助かる」

大連隊長は声色こそ冷静だったが、目を見開き、これから始まろうとする空前絶後の天体ショーに興奮を隠せないでいる。

「オペレーション・ナユタ始動。ライトウィングも準備急げ! セントラルコア・チャージ終了次第合図を待ち発射する」

「アイアイサー!」

否が応でも緊張が漲ってくる。

 

「勝てる気しかしない」

 

本部委員会の圧倒的大多数がその瞬間に思った。

合体した三機の超巨大なSTGの群体はそれほど圧倒的だった。

最早月とサイズ比較しても目視できるほどの大きさ。

大連隊長のイシグロは、この勝つシナリオしか思いつかない事に緊張を内包した。

 

ブラック・ナイトはそもそも得体が知れない。

余りにも情報が無い。

前回の接敵時にはあらゆる兵器が無効だったと記録されている。

センサーが一切反応しない為、無効か有効かの判断すら実際はついてない。

そもそもアレがブラック・ナイトである確証すら無いのだ。

マザー曰く隕石型宇宙人ではないことは保証されている。

そして殲滅する対象であることも。

ただしマザーは巧妙にブラック・ナイトであることを名言してはいない。

最優先攻撃対象とだけ告げた。

 

(最善を尽くすまでか)

 

イシグロはそう考えた。

最優先攻撃対象を人類が無視した場合、防衛の為にマザーが勝手にSTGを拝借して攻撃して良いことになっている。それだけは避けたかった。

これまでの戦いからもマザーはSTGに対し雑な扱いをしてきた。

敵を排除するよりも情報を収集することに努めているように彼には思えた。

その上で、結果何もフィードバックが無い。

何も得られなかったというのだが、信じて良いのかも疑わしい。

 

(今度、この辺りのルール見直しが必要かもしれない)

 

イシグロのゲーム歴は長く、幾度となくギルドを率いた経験がある。

ギルド戦での勝利も無数の如くあり、知る人ぞ知る有名人だ。

彼がSTGにスカウトされた時、「勝った」と思った本部メンバーも数知れず。

彼が大連隊長に選ばられるのは無理からぬことである。

しかし周囲はおろかイシグロも忘れていた。

彼の勝利は決められたルール内での、言うなれば箱庭での戦闘であったこと。

ゲームにはルールがある。

しかも多くの場合、単純である。

複雑すぎるルールは圧倒的大多数にとって楽しめるものではなくなるからだ。

現実にはルールと非ルールがあり、その見極めが重要な意味をもつ。

ルールを知ること。

相手を知ること。

自分を知ること。

今の彼はルールも相手もほとんどわかってはいない。

STG内のルールですら現実社会同様に極めて多く、例外も無数にある。

その全てを把握することは到底出来るものではなかった。

彼の名誉の為に書いておくが、彼は間違いなく実力者だ。

しかし箱庭での実力者に過ぎないことを彼はおろか周囲の誰も気づかなかった。

 

その頃、シューニャは大洋を泳ぐクジラのような偉大な存在を前に萎縮していた。

 

アレの意識がシューニャを捉えた時、自らの矮小さを思い知らされる。

蛇に睨まれた蛙ならまだいい。

シューニャの心は助かりたいことしか考えられなくなっていた。

あれほどの興奮はどこへやら、あの威勢はなんだったのか。

全ては霧散する。

彼女の内なる声達もまた、その存在を消し去ろうとなりを潜めた。

動く漆黒は、その姿を彼女らの前に晒すと語りかけるともなく語りかけた。

 

「君だったか。あの地球人はいたか?」

 

シューニャにはそう聞こえた。

漆黒は何かを探しているように感じられる。

シューニャは首を振った。

「食われたのかもしれない」

口をついた。

言っているそばから誰のことを言っているのかわからないでいる。

「それは違う。彼女はまだ近くにいるのだから」

誰のことを言っているのだ?

応えながら自分でわからない。

「サイトウだよ」

「サイトウ・・・」

「ああ。よもや連れて帰りはしないかと思ったが。違うようだ。この辺りにいると思ったのだが。君だったようだ」

「彼の特徴を教えて欲しい」

知らずコミュニケーションをとっている。

どこか遠くで初めて本案件を聞かされてから特徴はおろか何も知らされていない。

サイトウをシューニャはほとんど知らなかった。

「コレを」

漆黒は何かを放った。

ソレはSTGIのエネルギーフィールドを意図も容易く通り抜けると彼女のもとに届く。

あまり自然さに逆に恐怖で悲鳴を上げそうになる。

まるでシャボン玉でも破るかのような容易さ。

彼にとっては強大なSTGIのシールドすら薄膜なのだ。

恐怖を堪えながら彼女は受け取った。

 

瞬時に伝わる。

 

初めて知るサイトウの顔。

初めて耳にする彼の声。

初めて知る彼の大きすぎる責務。

初めて知る彼の歴戦。

若々しくハツラツとした彼。

意気揚々とした表情。

仲間たち、

恋人たち、

大勢の支持者。

しかし最後に残されたのは傷つき深くエグれた、闇。

老いた顔。

精気のない眼。

死が感じられた。

 

それらが一滴の小さな塊で一瞬にして感じられた。

まるで自己の何十年にも及ぶ経験、記憶であるかのように鮮明。

STGIで受けなかったら脳がキャパシティを瞬時に超え発狂していたかもしれない。

 

「彼は闇の中にいる」

シューニャはポツリと言う。

「・・・彼の死はそう遠くない」

言葉を継いだ。

恐怖と萎縮は失せ、まるで宿命を共有したかのような落ち着きで応える。

「だからか」

「なにが?」

 

その答えを聞くことも無く、それは一方的に始まった。

 

「セントラルコア、撃てー!」

 

闇を引き裂くような長大で真っ白な光。

ナユタの光。

光はブラック・ナイトの中心へと吸い込まれる。

漆黒が真っ白に。

一瞬だがその全貌を表す。

 

「どうだ?」

イシグロは紅潮した顔で司令船の全天球型モニターを見つめる。

知らず腰が浮いていた。

「直撃!」

歓声が湧くが、一瞬で静まり返る。

再び漆黒になった。

「・・・反応ありません」

「敵ブラック・ナイト、変化ありません」

「どうなってる・・・」

イシグロは一呼吸おくと、自身が前のめりになっていることに気づき腰を沈める。

「セントラルコアに超巨大なエネルギー反応!」

「うつせ!」

群体化した巨大なSTGセントラルコアは小さな恒星がごとく光り輝くと、

 

爆発した。

 

誰もが経験したことが無い、宇宙の終わりであるかのような閃光。

世界が真っ白に消し飛ぶ。

 

視界が消え、

音が消え、

恐怖も、

あらゆる感慨も、

五感も消し飛び、

全てのセンサー類もまた瞬時にロスト。

 

搭乗員リストは一斉に真っ白に流れる。

リストには「消滅」の文字。

ただし、誰もそのリストを目にすることは無かった。

 

閃光は三分におよんだ。

 

意識のあったほとんどの者は死を感じ、機転の効く者はログアウトを選択。

八割の者は恐怖のどん底に落ちながら叫び続けたか、

本当に死んだと思ったか、

意識を失った。

幸運に恵まれた者はただジッと身をかがめるか、事態の進展をただ待った。

 

永遠とも思える閃光が次第に止むと、未だ死んでいないことを理解すると同時に、ことの深刻さが明らかになる。

 

「何が起きた?・・・セントラルコアは!」

 

応えはなかった。

土砂降りのような音だけが返って来た。

自らキーボードに触れ、メニューからコマンドを送る。

 

「セントラルコア消滅・・・」

 

モニターは告げる。

イシグロは自らはなった矢の直撃を受けたと直感した。

反射の可能性も考えた。

原理はわからない。

感だ。

「大連隊長! ライトウィング、エネルギー増大! 制御不能のようです!」

欠けたブロックにより、姿勢制御が思わしくないのか、木の葉が落ちるように不規則にユラユラしながら彼方へと流れていくのがモニターから伺える。

「ライトウィング・ナユタ発射体制に入っていると思われます!」

「緊急停止!」

彼の決断は速かった。

「停止信号送信・・・反応ありません」

言いながらイシグロは絶望する。

ライトウィングどころか、中央司令船すら制御不能に陥っている。

モニターをひと目するだけでわかった。

それは本船コンピュータの応答を待つまでもない状況が描き出されている。

作戦を担うコアメンバーのパートナーが格納されている部屋が映る。

コントロール・ルームは真っ赤に染まり、彼・彼女達が全員絶命している様が映されている。それは制御不能を意味した。イシグロは自らのパートナーであるマリを目の端に見初め一瞬だが大きく顔を歪める。

「作戦は中止! 各個帰投可能な者は帰投! 無理な搭乗員は即刻ログアウト! 今の司令をループ設定にし、五分後に強制ログアウト実施!」

「アイアイサー!」

イシグロはメニューをタップしログアウトのメニューを出すと、

選択する寸前に思いとどまる。

「大連隊長?」

「みんな先にログアウトしてくれ、可能な限り、見届けたい・・・」

「わかりました・・・」

次々に消えていくコア・メンバー。

ゆっくりと彼方へと落ちていくライトウィング。

ブロックが剥がれるようにバラバラになっていく。

レフトウイングは所在不明と出ている。

モニターに映る宇宙には粉々になったSTGの破片。

まるで朝靄のように白い煙を伴って分解していく様子が映し出される。

残存兵力もわからない。

現在地がどこかすらわからない。

イシグロはボンヤリ眺めながら大きく口を開けるとうめき声を上げ天を仰ぐ。

 

ライトウィングは砕け散りながら大洋に灯る灯台の明りのように光を一周させると、

二周目に差し掛かった所で

大爆発。

破片が司令船に届く頃にはイシグロは自らのSTG28に搭乗し、

司令船を離脱した。

Published inSTG/I

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