Skip to content

STG/I:第八十九話:贄

今回のみ実験的に音声合成による朗読を作ってみました。

日本・本拠点 防衛圏外縁部。

 

隠蔽しつつ距離をおいて着地する。

どの程度でバレるかわからない。

味方から敵と認知されても厄介。

敵を知り己を知れば百戦殆うからずとはよく言ったもの。

今の自分は、敵はおろか、自分もわかっていないことが判った。

 

(STGレベル十の索敵装備を調べる必要がある)

 

凄まじい数のSTG28が集結しているのがわかる。

初めてブラック・ナイト防衛戦に参加した時は数が少なかった。

如何に今が充実しているかが伺える。

日本・本拠点の相当数だろう。

恐らく複数のゲートを経由する関係上、大部隊を一時的にココに集めたのだろう。

他にも集結地点があるに違いない。

具体的な作戦立案はまだ無い上での出撃になった可能性は高い。

 

集結すると心強いのはわかる。

でもフェイクムーンの時のようにゲートを一瞬で破壊されたら一撃で終わりだ。

過去の経験が活かされているとは思えない。

空腹感が極まりつつある。

飢餓感に移り変わるのもそう遠くない。

 

(時間が無い)

 

体感に従い、索敵圏ギリギリを一瞬で通り抜けた。

 

(ブラック・ナイト隊は・・・いるな)

 

ほとんどは初めての実戦。

皆の恍惚と不安が伝わってくる。

今にもトリガーを引きそうな緊張感を漲らしている搭乗員。

自らの実力を知らしめると意気込んでいるもの。

恐怖で震える者。

逃げ出したくて仕方がない者。

緊張で右も左も分からなくなっている者。

手を合わせ涙する者。

色々。

 

他の部隊に比べたらかなりのシミュレーションは熟してきた。

でも、所詮はシミュレーションなのだ。

実戦は別物。

現実の結果を振り返り、纏めたのが理論。

常に世界は変化している。

同じ条件は二度と無い。

似て非なるもの。

 

エイジは初めての部隊長代理出撃の為、吐きそうなほど緊張している。

それをホグしているのが・・・ケシャ。

普段は喋らない彼女が穏やかに声をかけているの感じられる。

その度に、エイジの緊張が和らぎ、また緊張が上がってきては、声をかけられ下がり。

繰り返している。

流石の大戦経験者。

しかも彼女はコアに入った一人。

そこから生還している。

 

それまでケシャは部隊員にも馬鹿にされているような存在だった。

もっとも彼女は気にしていない。

彼女にとってはそれが日常だったからだろう。

大戦後、彼女の価値は一変。

ケシャはそれが不思議だと言っていた。

 

(いいコンビだ)

 

信頼関係が伺える心象波動。

エイジはケシャのことをどう思っているだろうか?

双方から好意的な波動を感じる。

でもエイジには彼女がいたんだっけ。

二人は付き合ったら相性がいいように思うが。

 

ケシャは参謀の才能があるとシューニャは感じていた。

もっとも独特な作戦だから、賛同を得られづらい。

饒舌に説明出来る人間がいれば、支持される可能性はある。

それがエイジになると理想。

彼は噛み砕き整理するのが上手い。

緊張から解放され、喋れるようになったら心強いだろう。

 

(うん、うん・・そうか)

 

感覚を張り巡らし状況は理解出来た。

取り敢えず本部の指示に従うようだ。

普段はビッグマウスでも寄らば大樹の陰というのが本心。

現代人らしい。

それ故に何か些細なキッカケで大崩壊する。

馬鹿なことを画策している連中や、目立つことを考えている部隊、稼ぎのみを視野にいれた者も相当数いる。

ほとんどと言っていい。

本部委員会も必ずしも連携が十分に出来ているわけではないようだ。

張り子の虎だと感じられる。

マニュアル通り進められるうちはいいが、たった一つでも狂ったら大混乱に違いない。

 

(グリンは、いた)

 

目があった。

不満そうだ。

(ふふ)

遊びたくてじれったいのだろう。

うん、いちを地球人っぽくしているな。

無理に笑わなくていいからと言ったが、そうしているようだ。

表情がないのに口だけ釣り上がっているのは不気味だった。

(腹が減った、本体はどこだ?・・・ふん、そうかわかった)

遠いな。

(うん、ありがとう。そうしてくれ。その辺りにしよう)

向かってくれるようだ。

まるで夕飯を用意してくれるオカンだな。

 

(お腹が減った・・・どうする・・・)

 

抑制が効かなくなりつつある。

マザーは既に自分を感知しているだろう。

だが、これまで通り人間が認知しない限りそれを知らせることは無いに違いない。

確信をもって言える。

マザーはアメジストを認知出来るのか?

いや、出来ないか。

(当たり前だ)

だからグリンは平然としてられる。

彼女は何も言わなかったが、そういうことか。

危ない危ない。最も気をつけるべきことをと失念していた。

グリンは普段から隠蔽しているんだろうか?

今度聞いてみよう。

地球人に認識されない限り安全とみて良さそうだ。

 

シューニャは少し考え、目標近くまで飛ぶことにする。

 

ブラック・ナイトの位置はグリンの本体より遥かに遠い位置にいる。

先に偵察しておいて損はない。

まずはそれからだ。

情報は常に勝利への必須条件。

 

*

 

ソレは優雅に泳いでいた。

 

直ぐにわかった。

STG28やグリンよりもハッキリとわかる。

無視できない存在。

移動する災厄。

 

”ブラック・ナイト”

 

今まではわからなかった。

これが”ブラック・ナイト”なんだ。

今は実感でわかる。

STG28の時は「かもしれない」レベル。

STGIの鋭敏な能力が彼らの強大さを明確に感じさせた。

 

”明確な異物”

 

この宇宙ならざるモノ。

どこから来た?

何の目的で。

不法侵入。

恐怖心。

畏怖の念。

食べられる。

逃げないと。

 

様々な感覚が湧いて出る。

STGIに搭乗してからというもの忘れていた感覚ばかり。

不意に自らの万能感がまるで滑稽に感じられた。

わけもなく謝りたい気分に覆われる。

顔をモニターに映してみた。

 

その顔は”恐怖”を示していた。

 

何が万能感だ。

何が、なんでも出来るだ。

井の中の蛙じゃないか。

コイツはこんなにも矮小で、餓鬼で、無力な存在なんだ。

泣いていやがる。

情けなく。

みっともなく。

 

最近どこか部隊員と話すのも億劫になっていた自分がいた。

色々なことも画策していた。

マザーが運んでくる積荷を追跡し、彼女らの正体を突き止めてやろうかとか。

自分とグリンだけでコロニーを突き止められるんじゃないかとか。

空腹さえ満たし、場所を突き止めさえすれば破壊出来るんじゃないかとか。

STGなど最初から要らなかったのでは無いかとか。

出会ってわかった。

 

”彼奴等は強大過ぎる!”

 

蛇に睨まれた蛙。

そして今ようやくわかったことがある。

考えもしなかったこと。

 

”STGIは彼らの好物なんだ!”

 

そればかりか、STGや、本拠点も。

彼らは味を覚えてしまった。

だからこの宇宙までやってきた。

この太陽系へも。

上手い餌がここいらにあると。

それを知ったんだ。

オキアミに釣られたクジラだ。

しかも彼らにとって特大の好物。

 

”それがSTGI!”

 

雷に打たれたような感覚がある。

フェイクムーンが言っていたことを思い出した。

STG20の民が。

 

”我々ははめられた”

 

ハメたのは。

 

「マザー・ワン!」

 

どうしてそんなことをする必要がある。

ブラック・ナイトを肥え太らすことに何の意味がある?

ますます彼らは居座るだけじゃないか。

もっと餌は無いのかと、この宇宙の四方を搜すだろう。

何を考えている?

誰かが言っていた。

誰が敵か、誰が味方か、よく考えた方がいいと。

 

全てがわかった気がした。

 

この戦いは全てマザー・ワンを生かす為の戦いなんだ。

彼女たちは自らが一分一秒でも生き延びる為に全てを利用している。

STGシリーズはそのための贄、オキアミ。

ブラック・ナイトは誘い出されたクジラに過ぎない。

 

”彼女らの作戦は既に失敗している!”

 

恐らくは隕石型宇宙人を掃討する為にブラック・ナイトを誘き寄せた。

でもブラック・ナイトは彼らに興味を示さなかったに違いない。

前回の大戦でもブラック・ナイトは彼らに対して何もしていない。

 

”STGIは食われたんだ”

 

六機もあるSTGIはブラック・ナイトに人知れず食われていた。

そして次に本拠点。

彼らが求めているものが手に取るようにわかる。

探している。

STGIを。

好物を。

愉しみを。

 

涙がとめどなく流れてくる。

 

彼らはからは何ら悪意が感じられない。

喜びに満ちている。

食べたい獲物があることに。

美味しい餌があることに。

狩りが出来る喜びに。

生きる喜びに。

別な宇宙の新鮮さに。

彼らの感覚に地球とか支配とかそういう知能的な作為が全く感じられない。

 

この戦いに巻き込んだのはマザー・ワン。

 

全身の毛が逆立つほどの怒りが満ちる。

血液が沸騰するかのような怒り。

口を目一杯あけ、目が裏返り、関節がギリギリと音をたてるかのような力み。

モニターに写った己の姿は鬼婆のようだった。

その姿が目に映り急速に冷静さを取り戻す。

 

(今はそれどころではない)

 

ハッキリとわかる。

彼が探しているのは、私ともう一人。

恐らくはハンガリーのSTGIだろう。

彼らの大好物。

ソレは何ものにも代えがたい強いもの。

STGIが居なくなれば、ブラック・ナイトは帰るのだろうか。

自らの宇宙へ。

本来の居場所へ。

恋い焦がれ、単身何も考えずに海外へ飛び出したようなもの。

思いを遂げずにはおられない強く継続的な衝動。

散るにしても叶うにしても、せずにはおられないもの。

 

探している。

 

私を。

 

食べる為に。

 

食べられれば彼らの目的はひとまず終わるのだろうか。

 

私の次はハンガリー本拠点か?

 

その後はどうなる?

 

(マザー・・・)

 

関与しているのは間違い無い。

突然STGIを与えられたのはそれが理由かもしれない。

ブラック・ナイトを留めておく為に。

STGIが居なくなればブラック・ナイトは去りそうな気がする。

それは同時に隕石型宇宙人にとってはこれ以上無い好機にもなる。

その時こそが地球の最後なのだろう。

全てのプランが絶望を示している気がした。

 

ブラック・ナイトが見えた。

 

ソレは消えたアメリカのSTGIの形をしている。

喰った対象を模倣しているのだろう。

大戦時サーバー上ではアメリカ所属のSTGIと表示されていた。

形状がリーダーやミリオタさんの証言とも一致する。

グリンのように好きなように変化出来るのかもしれない。

 

巨大な爆撃機に尻尾が生えたような姿。

風や波も無いのに長い尻尾が揺らいでいる。

両翼はゆったりと仰ぐように波打たせていた。

 

大戦後、アメリカは「STGIは健在」とだけ公表。

全ての政府は嘘をつく。

真の姿を見せない為に。

パワーバランスを不利に働かせない為に。

 

前回 来たブラック・ナイトとは姿形が違う。

アレはナマコみたいだった。

ただし真っ黒という点では一致している。

陰影が無い。

闇が動いていると言っていい。

漆黒。

真の闇。

 

「あああ・・・・」

 

大変だ。

(空腹が酷い)

肉体の叫びが聞こえる。

「わかっている・・この戦いを修めれば幾らでも食わせてやる」

自分に言い聞かせる。

(欲しい! 食わせろ! 今、食わせろ!)

叫びの圧力が増している。

(今は駄目だ。悪いがもう少し待ってくれ。頼む)

叫びは数を増やした。

(ご馳走がさっきあったろ! 食わせろ! 食べたい!)

頭が痛くなるほどの声量。

鼓膜が裂けそうなほど震えている。

(あれは食べ物じゃない、味方だ、守るべき対象、食べてはいけない)

声に押されて十分に言い返せない。

(嘘だ! アレはご馳走だ! あれが欲しい!)

自らの力が萎えてくるのがわかる。

気力が失われてくる。

 

(食うならアッチにしよう)

 

シューニャは咄嗟に目線を彼方に向けた。

宇宙に浮かぶ巨大な影。

立体的に見えないほどの黒さ。

宇宙というキャンバスをエイの形にくり抜いたような。

ブラック・ナイト。

 

(アレは食い物じゃない)

どこからともなく声が聞こえる。

(ご馳走はあのツブツブだ!)

耳を塞ぎたいほどの怒声。

ツブツブとは”STG28”のことのようだ。

(ツブツブが食べたい・・・)

(ツブツブ食べたい・・・)

(ツブツブ・・・)

(ツブツブ)

(ツブツブ!)

合唱が始まる。

自我が消えそうだ。

 

「貴方達はご馳走を先に食べるのですか?」

 

シューニャが言うと、合唱が止んだ。

静かになる。

「当たり前だろ」

ドスの効いた声が言った。

「私は最後にご馳走を食べてから締めたい」

シューニャの目が裏返り、顔に笑みがへばり付いている。

(愚かな!)

(それも悪くない)

「デザートだ」

(デザートか)

(ツブツブはデザートにしよう)

(ツブツブでしめよう)

(俺もそうしたい)

(今直ぐ食べたい!)

(我慢したからこそより美味しい)

(デザートが先でもいいじゃないか?)

(それもそうだ)

(食べないと食べられるぞ!)

(何を言う、近くには我々しかいない)

(締めのデザートが最高なんじゃないか)

(至高だな)

(ツブツブをお団子にして一口でいきたい)

(俺は飲むようにいきたい)

(噛み締めながら食べたい)

(ツブツブを一つ一つ食べたい)

(どれもたまらないな)

声はザワザワと広がり静まっていく。

飢餓感が遠のき、空腹感だけが残った。

 

「決まりだね。まずはアイツを食べよう」

Published inSTG/I

Be First to Comment

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。