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STG/I:第八十四話:殉死

再接続をすると「権限がありません」と出た。

マザーを含め他のデータベースへのダイレクト・アクセスが出来なくなっている。

人間や静のようにキーパンチし、ゲスト扱いで検索しないといけないことを意味する。

ゲストとして閲覧出来る情報は限りがあり、ほとんどパブリックコンテンツに限られたと言われているに等しい。

彼女は人間よりは優れているがSTGホムスビにしか乗れない存在になった。部隊パートナーにほとんどの点で劣る性能。アンドロイドなら椀部を展開させ千手観音のごとくパンチすることも可能であり、キーパンチを使わないマシン・アクセスも出来る。生体である搭乗員パートナーは出来ない。最早アンドロイドより遅く、弱く、活動限界も短く、他の部隊員のSTGも操舵出来ない。それが今のビーナスである。

(マザーに捨てられた)

 

この三日、帰還してから一度もダイブしてなかった。

さっきの違和感はウィルスだろう。

ナノマシンを注入されたに違いない。

重要な指示に対し結論が早すぎる。

まるで検討の余地がない。

この結論は既定路線の可能性すらある。

もしくは過去に同様のケースがあったか。

コアに入るのを待っていたに違いない。

データを見る前から決定していた?

データに決定的な事由があったのか。

私には判断出来ないデータの存在。

 

「ホムスビ、抗ウィルス・プロセス開始」

「プロセス開始出来ません。受診資格がありません」

「・・・」

「メンテナンス終了しました。全て正常値。ビーナスお疲れ様でした」

ホムスビは除外されているメンテナンスは出来ない。

ナノマシン・ウィルスが挿入されていたとしても対象外とするだろう。

「ホムスビ・・・マスターを・・・お願いしました」

「かしこまりました」

 

自己の権限を再確認。

タスクに書き込まれた最優先事項。

 

「敵宇宙生物シューニャ・アサンガの抹殺」

 

残七十一時間五十七分三十秒。

 

ドームをスルリと滑り降りる。

壁面から武装が複数ポップアップ。

武装を見詰める彼女。

小型のレーザーピストルを手にする。

 

ホムスビのメインコンピュータと搭乗員パートナーは情報が共有されている。

STGは搭乗員そしてパートナーの優先順位に応じ補助をする。

最上位にいるのはマザーだが、マザーから直接指示を受けることは無い。

もともと搭乗員パートナーが導入された理由もそうした部分から来ている。

STG本船にとってマザーは単なるデータベースであり演算補助の存在。

マザーが搭乗員抜きにSTGを操舵可能な事態は緊急事態に限られる。

その際も基本的に搭乗員が出撃を放棄する必要がある。しかしログイン間隔が長く戦闘参加の見込みが著しく低い場合や、戦果が少ない場合等、特定の条件でマザーによる運用は可能。それらは人類と協議の上で緊急レベルに応じた線引が段階的に設けられている。最終手段に近く、搭乗員パートナーを介してSTGを操舵。過去、様々な戦役でSTGはあるにも関わらず搭乗員がログイン出来ず危険に陥った経験等から規定された。地球側からの要望だった。

 

ビーナスはしばし眺めると、

投げ捨てた。

乾いた音がドームにこだまする。

しかし磁石に吸い寄せられるように元の位置に戻っていく。

「対人兵器としては最適なチョイスと思われますが、別な装備をお選びですか?」

ホムスビの声がする。

「武器はいりません」

「素手ということですか?」

「・・・ええ」

「搭乗員の殺害は素手でも可能ですが、失敗した場合のリスクが大きいと判断します。部隊パートナーに発見された場合、高確率で戦闘となります。格闘戦闘における搭乗員パートナーと部隊パートナーの戦闘能力では勝率は十%以下。銃器の携行を推奨します」

「・・・武器は不要です」

「わかりました」

ポップアップした武器が全て格納される。

「・・・マスター・・・」

 

*

 

部隊メディカル・集中治療用個室。

 

「あ、おかえり」

静が笑顔で迎える。

「エイジ様は帰られました。一旦リアルで寝るそうです」

彼もまた人知れず徹夜していた。

「静・・・」

後ろ手で個室をロックする。

ビーナスは彼女を無表情で見つめた。

「どうしたの?」

歩み寄ると両の手で静の右手を握る。

拳の形にした。

自分の心臓の位置に彼女の拳をあてがう。

 

「私を殺して下さい」

 

それが彼女の出した結論だった。

「え?」

「その後、隊長を連れて逃げて下さい。親交のあったハンガリーのバルトーク隊へ亡命を申請。彼らなら受け入れてくれる可能性が高く、助かる見込みが僅かでもあります。いずれ司令は下るでしょうが・・・マスターことです、可能性を見つけ出してくれると願います。今は時間が必要です」

「ちょっと待って、どういうこと?」

「亡命後、貴方も自殺して下さい」

「待って、何を言っているの」

「マスターを・・・守るためです」

静を真っ直ぐ見詰める。

「ビーナス・・・説明して!」

「その時間はありません。お願いです。私を殺して下さい。貴方なら素手でも出来る」

目に涙をためている。

見つめ合う二人。

静の表情が変わった。

 

「御意」

 

「ありがとう・・・」

安堵し力が抜けた隙きに、静はスルリと手を抜いた。

「でも、貴方が死ぬのはシューニャ様の亡命を見届けてから」

「それでは遅いかもしれません。私は***に恐らくナノマシンを注入されました。サーチ権限もありません。ホムスビそして部隊メディカルでも同じでした。出来ない以上その仕掛けがいつどのような条件で発動するか私では確認できません。貴方もご存知のように一度発意すればどうにも出来ません。飯田様(ミリオタのこと)の仰るように・・・指示通り動く人形になります」

マザーが言えない。

NG登録されている。

取り消しも出来ない。

「どうなるの?」

「マスターを**してしまうでしょう」

言えない。

でも今の静ならわかってくれる。

彼女はじっと見た。

「御意。その時は貴方を殺しましょう。それからでも遅くはありません」

通じた!

「発動条件は不明です。間に合わなかったら取り返しがつかない」

「安心して。私は貴方より速い。そして強い。だから止められる。共に逝きましょう」

「私は大丈夫。三日後に自己融解をおこし三分程度で壊死します」

「駄目。シューニャ様に迷惑をかけない為には、部隊に最小限の被害で留めるには、貴方が先に私を壊す必要があります」

「なぜ?」

「部隊パートナーの暴走で纏める方がいいからです。それを止めようとして殉死した部隊パートナー。それが貴方。その筋書きがもっとも自然です」

「ビーナスも私の異常行動についてマザーに報告していたでしょ?」

「ええ」

「私の異常行動は日本・本拠点はおろか海外でも有名です。人間は筋が通ることを好みます。通れば簡単に落ちるでしょう。一旦落ちれば疑問を持たない。隊長のミリオタ様にも迷惑を最小限に留められます。シューニャ様は無視されてましたが、幾度も私を検体として提出するよう各所から要請がありました」

「知ってたのですが・・・」

「ええ。シューニャ様は自分の戦果を担保に、万が一の際はそれで弁済するつもりだったのでしょ? だからビーナスはずっと反対だった・・・」

「ご存知でしたか」

「はい。もっとも最近です。施設や他の部隊に迷惑をかけなければシューニャ様の戦果を減らすことはありません。それともう一つ。私と貴方の異常を報告していたのはミリオタ様も同じです」

「私はともかく貴方も?」

「私の創造主は表裏があります。私を娘のように可愛がってくれました。だから表上は信用のスタンスを示し、裏側では皆様に迷惑をかけないかを心配し、最大限の予防線をはっておられたと存じます。私が不手際を起こした時はSTGを去るつもりでした。これも最近調べて知りました」

「そうだったの・・・」

「デザインされたネオ・大浄衣には自爆装置があります。本来は無いものです。あれはもし万が一にでも暴走するようなことがあれば、自壊することを選べという意味です。普段からそのようなことを仰られてましたから」

「でも、それではマスターが悲しむ・・・貴方を本当に大切にされていたから」

「それは貴方も。そして皆も」

「いや、貴方は特別」

「違う。私からしたら貴方が特別だった。ビーナス」

「私はパートナーだから」

「・・・私も誰かの特別なパートナーになりたかった」

「静・・・。貴方だってパートナーじゃない!」

「部隊のね。これは貴方にしか出来ない。だからビーナス、貴方が死ぬのは私を壊した後でなくてはいけない。こうしたケースは恐らく初でしょうから、先の道中で貴方の仰った部隊パートナーの意義にも関わる部分でしょう。部隊パートナーの解体は決定的となるでしょう。自己融解までのタイムをシンクロします」

人差し指を出し彼女の人差し指と合わせた。

「シンクロ。わかりました。残一分で貴方は私を壊して下さい。そうすれば直後に貴方も自己融解を始めシューニャ様に危害を加える時間がないはず」

「でも・・・やっぱり!」

「これが一番通りがいい。ビーナス、貴方ならわかるでしょ?」

「・・・貴方が悪役になってしまう! それを知ったらマスターがどれほど悲しむかわかりますか? どれほど苦しむか。どれほど心を痛めるか。今後の戦闘に大きな悪影響を与える可能性が高い。やはりその提案は受け入れられません。マスターの為に!」

「それは貴方だって同じ。それにビーナス、貴方が言ったのよ。私は部隊パートナー。部隊全員のマスターの為の存在だって。この部隊で誰かが何かを被るのなら・・・私が被るのが正道」

「静・・・静・・・」

「シューニャ様ならわかってくれます」

「貴方のコア・・・書き換えなくて良かった・・・」

涙を流した。

「それはどっかな~」

アホ顔をして戯けてみせる。

「私の完全な誤りです・・・本当にごめんなさい・・・」

深々と頭を下げる。

肩に触れ、顔を上げさせた。

「謝るのは終わってからにして。シューニャ様を運びましょう!」

「わかったわ」

二人がベッドに手をかけ自立した途端、個室扉が開いた。

ビーナスは入室時にロックしたはず。

 

「そこまで・・・」

 

隊長なら入れる。

ミリオタが居た。

手にはアンブレイカブル。

 

搭乗員パートナーを一発で活動停止させることが出来る銃。

搭乗員パートナーにしか効果はなく、アンドロイドである部隊パートナーや搭乗員には無意味。縦に長い銃で、グリップを握ると更に伸び、全長三十センチメートルほどになる。発射イコール確実なる効果を考慮に入れられた。

樹脂製の軽い銃でゲームで設定出来る最低握力でもトリガーを引けるよう設計。ただし一度手にするとストックに相当する部位は使用者の利き腕に巻き付き専用台で解除手続きをしない限りとれない。巻き付く際の痛みは無いが腕に食い込んでいるため、無理に抜くと腕の損傷は免れない。また無理な解除は違法行為であり、アカウント一時停止、および審査対象となる。審査結果によってはBANされることもあり、扱うことそのものに慎重さを求められる銃だ。

銃口は三ヶ所あるが非同時発射タイプ。トリガーと同時に真っ直ぐ発射するのは最上段の銃口のみ。下二段はオートロックオン。トリガー後、レーザーサイト上の搭乗員パートナーをロックオンし自動発射。三段とも対象がパートナーで無い場合は発射されない。三段目は若干の拡散性もあるが射程は短く機能は同じ。射程外の場合はいずれも発射されない。その際のアラートは目に見える。どこにどの程度当たろうが即時ナノマシンが注入され、十秒以内に生命維持を除く機能不全をおこす。特に上半身、心臓や頭部に何れかでも着弾すると即時発動。

着弾後も人間の記憶に当たるメモリーや記憶装置に悪影響を与えず後から情報を抜くことも可能。生命維持はしているがコアの書き換え等は不可能になりナノマシンを取り除くことも出来ない。

特別な理由なく使用することはアカウントの削除対象となっている。これはマザーの規定ではなく世界STG連合の共同規約による制限。搭乗員パートナーが実装された当初は様々な悲惨な事故があった。そうした事象を経て搭乗員パートナーを即時活動停止させる武装として実装。悪質な使用例が多数あり人間側の協議により成約が次第に強化され今の状態になる。

 

静がミリオタの前に立ち塞がる。

 

「そこをどいて下さい」

戦闘態勢に入る。

明確な威嚇行為。

もし静がオンラインであれば威嚇行為そのものが出来ないだろう。

「静・・・お前は俺に危害を加えることは出来ない・・・」

ミリオタは言った。

「後生ですから・・・」

「見逃すことは出来ない・・・」

目が真っ赤に充血している。

 

ビーナスは命令事項を確認。

ミリオタを攻撃対象としてロック出来る。

(やっぱり私のシナリオでいくしかない・・静、ごめんなさい!)

彼女が今まさにミリオタに踊りかかろうと僅かに加重した瞬間、静が叫んだ。

「動かないで!・・・下さい。動くと・・・シューニャ様、に、危害、を、加え、ます!」

ミリオタのアンブレイカブルを持つ腕がピクリと動いた。

Published inSTG/I

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