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STG/I:第八十二話:帰らぬ者

アメジストは衝突直前に分裂。
食われたと思った弐号体はまだ一体化していなかった。
直ぐにまた互いに激しくぶつかり合う。
正面衝突。
力と力の容赦なき比べあい。
豪勢な紫のスターマインが間近で幾度も宙空に広がる。
最早アメジスト達は外殻を纏おうともしない。
まるで互いが求め合うように、他方で争うよう混じり合っては分裂した。
紫水晶は時に液体のように流動性をもち、双方を行ったり来たり。
激しい引っ張り合い。
力の綱引き。

「グリン! もう少し待ってろSTGIで加勢する!」

メンタルモニターは興奮値は高いものの冷静と記録されている。
しかしビーナスは眼を見開き興奮するシューニャの表情を分析し錯乱したと結論づける。
リスクをとった。

「ホムスビ、最大船速で宙域を離脱します」

ホムスビが瞬間加速体勢に入る。
ブルーハーベストが鮮烈に青く光る。
その刹那、アメジストが外殻の一部を飛ばした。

「危ない!」

シューニャの警告も虚しく直撃。
センサーは赤い津波。機能していない。
すぐさま体勢を立て直す。
また飛んできた、
次は辛うじて避けた。
いや、今のは避けたというより外したといった風情。
加速させまいとする牽制だ。

「損傷率二十%。推進力三十八%低下。索敵能力二十五%低下」

メインコンピューターのホムスビが告げる。
至近距離にも関わらず赤い文字列の津波が増えてる。
封殺されている。
アメジスト初号体は逃がす気が無いようだ。
いたぶり足りないとでも言うのだろうか。
ビーナスは方針を変えた。

「アメジストから一定距離を保ちながら、一旦巡航速度まで加速」

一方でシューニャは直感する。
アメジストから先程までの余裕が感じられない。
今なら「逃げられる」かもしれない。

「STGIホムスビと合流次第、STGホムスビは宙域を離脱しろ! 当初の予定通り隠蔽ポイントまで移動、その後安全を確認次第帰還!」

ビーナスも静も応えなかった。
答えられないのだ。
静に至っては何を言っているのかわからなかった。

(STGIとは何だろう?
隊長は何を仰っている?
でも、隊長が私達を守ろうと必死なのはわかる。
絶対おかしくなどなっていない。)

ビーナスはメンタルモニターを見ながら強制ログアウトが可能になるのを待っていた。
彼女は彼女で、シューニャを守ろうと必死。

「来た! 速いぞ! 信じられない!」

ブルーハーベストのセンサーに反応は無い。
アメジストは衝突と融合を繰り返しながら、
ホムスビを加速させまいと時折隕石礫を投げてくる。
充分な加速が行えていない。
シューニャのメンタルモニターに異常なし。
強制ログアウトは選択出来ない。

シューニャは全く別なことを考えていた。
(どうやって乗るかだが、その時この身体はどうなるんだ?転送とか?)
疑問に思うと同時に、無意識に理解もしている。
原理はわからないが、何れにせよ乗れる。

”乗るぞ!”

この強い意思だけで乗れると体感が告げている。
(もう乗れる距離だ!)
目をつぶる。迷いは無い。
脳内で戦闘機型のSTGIホムスビが見えた。
近づいてくる。

(乗るぞ!)

手を伸ばす感覚。
STGIからも手が伸びる感覚が。

(掴んだ!)

激しい頭痛。
めまい。
血の気が引いてブラックアウトしたのがわかる。
軽い吐きけ。
そして血の気が戻ってくる。
スッと楽になった。
ゆっくりと目を開ける。

「出来た・・・」

シューニャは天球型コックピット内の中央に浮いていた。

「ビーナス!」
声をかけると、天球内にビーナスの姿が現れる。
「マスター?!・・・理解不能・・・理解不能・・・」
辺りを見回しているビーナスが見える。
向こう側からは見えてないようだ。
「ビーナス! 隊長は、隊長はご無事なのですか? ビーナス!」
「大丈夫だ。そっちは、静は大丈夫か?」
静の姿は出てこない。
「大丈夫です。でも、今、えっ?」
ビーナスが代わりに応える。
「ビーナス誰と話をしているの? 隊長は、隊長のご様子は?」
静には聞こえていないようだ。
「良かった。ビーナス、俺はどうなってる? その、俺の身体は」
「コックピットにおります」
「いる? いるのか俺が・・・」
「はい。目を閉じて、リラックスした肉体と精神の状態をモニターは、示しております」
まるでビーナスは初めて台本でも読むようにたどたどしく言った。

(じゃあ・・・この俺は何だ?)

自らの肉体を眺める。
先程までのシューニャ・アサンガ自身に思える。

その間もアメジストは激しい闘争を繰り広げていた。
幾度も上がる大型のスターマイン。
獰猛な猛獣が己の命をかけた喰らい合いを続けていた。
その周囲をSTGホムスビがまるで審判でもするように回っている。

「一瞬ログアウトの表示が現れ、」ビーナスが喋りだした。
「再度ログインのサインが出ました。生体反応に異常はありません。ちょうど・・・眠っているような安静状態です。私は混乱しています。理解出来ません・・・答えを、持ちません」
「ビーナス落ち着いて。隊長なのね? 隊長と喋っているのね。大丈夫なのね?」静が優しく声をかける。
「ええ、大丈夫・・・かもしれなせん。わからない。でも声が聞こえる。マスターの身体からではない。マスターのような・・・声が、声、声、ああ・・・」
「それはマスターよ! 良かった。・・・考えられる状況だけに絞って分析して。解析不能の情報に身を委ねないで。解決可能な問題のみに絞って行動指針をたてるの」
彼女もフェイクムーンと遭遇時にそうした体験をした。
「理解不能な状態を計算の一部に組み込まないで。クラッシュしてしまう」
静は一人この問題と向き合ってきた。
「理解、した・・・解析不能のデータはどうすれば・・・」
「プールだけしておいて、いずれわかる時も来るでしょう」
「わかった、わ。・・・理解した。理解。理解・・・ありがとう、静・・・」
シューニャは混乱しているビーナスを見た。
ガクガクと壊れかけのブリキ人形のように動いた。
静は映像に出ない。
理由はわからないが体感では把握できた。
今聞こえている静の声もビーナスを通してのものだろう。

「STGは予定どおり宙域を脱出後に帰還。STGIはグリンを救出する!」

ビーナスは無言でギクシャクと頷いたように見える。
それが限界だった。
データ解析不能の存在であるSTGIを前提としたシューニャの判断。
一方でシューニャの過去の決断による戦果。
本来は照らし合わせることが不能な二つの情報の間に揺れた。

(逃げるならアメジストが闘争している今)

ホムスビからしたらシューニャはコックピットにいると記録されている。
ビーナスにしてもそうだ。
事実シューニャはコックピットにいる。
だが、その目は虚ろで、半開きの口は動いてない。
肉体は弛緩し、ダラリとしている。

(アレは・・・)

ビーナスは眼の前で飛翔する未確認飛行物体を見た。
ブルーハーベストのセンサーには全く捉えられていない。
カメラからの映像では間違いなく存在して見える。
映像記録をインスタント再生すると映っていない。

(何が起きているか理解出来ない)

シューニャのハンガーで見たSTGIに見える。
さっき聞こえた声は声門からもマスターであることは間違いない。
なのに今、先程聞いたばかりの声を再生しようと試みると「データがありません」と出る。

(幻聴?・・・・)

静と違い、生体をもつ搭乗員パートナー。
幻聴があっても不思議が無いのだろうか。
しかしそのような記録は全く出てこない。
マザーに帰還すれば閲覧できるのだろうか。

(あれはなんなんだ)

アメジストの格闘を見守る飛翔体。
今はもうシューニャの声は聞こえない。
ビーナスは静に言われたように解決可能な問題に絞った。
最終的にはマスターからの司令という絶対的な序列に従った。

「ホムスビ最大船速。宙域を離脱し隠蔽。安全を確認次第帰投する」

青く光った瞬間、アメジストから隕石礫。
それでも構わず加速加重するビーナス。
直撃する間近、STGIは蚊でも撃ち落とすように礫を撃ち砕く。
次の瞬間、青い一矢となりSTGホムスビは虚空に消えた。

*

”漲る力とはこのことか”

何でも出来る気がする。
味わったことのない全能感。
まるで宇宙と一体化したような拡張感覚。

「グリン!」

球体内にグリン・アイの姿が現れる。

「隊長? お前、喋れるのか?」
言葉が判る。
それが当たり前のように感じられる。
「やっぱりグリンだったのか」
あのグリーン・アイが表情豊かにこっちを見ている。
ビーナスの時と違って見えているようだ。
「お前が守ってくれていたんだな・・・」
「約束だ」
暖かいものが満ちると同時により力が湧いてくるのが判る。
寧ろ力が暴走しそうだ。
「手をかしてくれ。コイツに食われた俺を取り返したい」
「どうすればいい?」
「弱らせてくれ。今の俺の力ではこれ以上は無理そうだ。少しずつ俺は弱っている」
「わかった。ヤツから少し離れてくれ」
グリンが頷く。

不思議とどうやればいいかわかっている自分がいる。
グリンはスイっと方位を替え飛んだ。
今度は初号体が追いすがる。
シューニャは胎児のように身を屈め力を溜めると、四肢を大の字に広げた。
「全方位ミサイル!」
咆哮するとSTGIから無数の光の矢が発射。
光の矢はウミヘビのように動き初号体に追いすがる。
アメジストは咄嗟にグリンを追うのを止め避けた。
しかし次の瞬間、

全身を貫かれる。

土砂崩れのような轟音。
音なき音が悲鳴となって宇宙を満たす。
「白ウニいっちょ上がり!」
同じ天球内にいるグリンがシューニャを見てニヤリと笑う。
「よし」
光の矢が消えると同時に弐号体が体当たり。
これまで以上の見事なスターマインが宇宙に広がる。
衝突のGそのままにアメジストは飛んでいく、不規則に回転しながら。
アメーバのように時折紫の流動化した本体が外殻からもがくように見えた。
コックピット内で見えるグリンは両足を抱え、ぐるぐると回転している。
シューニャはアメジストを追従しながら、グリンをじっと見た。

やがて回転が動きが止む。

「どうだグリン?」
「いいぞ。後はお前の分だ」
(お前のぶん?)
「ほら、喰え。お前が仕留めたんだからな」

グリンからしたらこれは狩りなんだろうか。
共同で狩ったと認識しているのか。
グリンの満足そうな笑み。
口元を腕で拭う仕草をする。
(ボスと認識されているのか?)
同時に這い上がる危機感。
次の一言を間違ったら全てが終いな気がする。
現実に当てはめてみた。
食事の誘いを断るのはリアルでも重大事。
心を許した相手なら別だが、一歩間違うとえらいことになる。
正当で相手が納得する理由。
親交を深めるなら一口でもしなければいけないだろう。
夢と思っていた彼女とのやり取りが走馬灯のように蘇る。

「・・・腹がいっぱいだ。お前にやるよ」

グリンが真顔になる。
見慣れた顔。
何を考えているかわからない顔。

「なら喰うぞ」

これで良かったのだろうか。
隕石が隕石を喰らう不思議な光景を漠然と見る。
単に転がっているようにしか思えない。

「うまい」

元々どっちがどっちかコチラ側からはわからない。
彼女の反応で食事が終わったことはわかった。
「良かった」
プッとグリンは小さな何かを吐き出した。
「ほら」
キラキラと光る紫の何か。
一際美しい紫水晶。
「どうした?」
「お前も喰え。これぐらいいけるだろ」

まずい。
持ち帰ることは規則違反。
そもそもアレはアメジスト。
接触するということは即融解することを意味する。
頭でそう考える一方で直感は安全を伝えた。
ゆっくりと漂ってくるアメジストの結晶。
じっとコチラを見つめるグリン。
試すような視線。

接触。

静かな湖面に波紋が出来たようにSTGIに広がった。
全身が痺れるような感触。
シューニャはガクガクと震える。
大きな目を一層大きく見開き、口が何かを求め大きく開かれた。
脳内では粉々に砕け散ったガラス片に理解し難い映像が何十、何百、何千と流れる。

「なるほど、これは美味いな・・・」

グリンが満面の笑みを見せる。
「だろ!」
「ああ」
「次はお前が喰え。喰うべきなんだ」
「ありがとう。・・・グリン、色々・・・ありがとう」

何かを踏み越えた気がした。
あの映像達が意味するのはなんだろうか。
アメジスト初号体の記憶か。
宇宙の記憶か。
遺伝子に刻まれた何かの歴史なのか。

*

十日後のブラックナイト作戦司令室。

ミリオタは苛立っていた。
長距離索敵隊は帰還している。
突然のスイカ野郎の部隊からの離脱。
戻らないSTGスイカ御神体。
部隊長であるマルゲリータは何も言わない。
彼女の表情は暗く沈み、泣き腫らした顔を隠そうともしない。
毎日ログインしては作戦室でシューニャの帰りを待っている。
全身を髪の毛で覆うように伸ばし毛玉化している。
話かけても脱兎のごとく逃げる。
ケシャがマルゲリータを気遣って近付こうとしても同じだった。
彼女を見るとなマルゲリータは錯乱したように泣き叫びながら逃げた。
搭乗員のログインリストとハンガーを見続けている。
他の隊員は帰還以後ログインしてこない。

ミリオタはやむおえず隊長権限で事のあらましを搭乗員パートナーから事情聴取。
得も言われぬ感情がミリオタを覆った。
(この怒りを誰に何にぶつけりゃいいんだ・・・)
シューニャの予感は的中していた。
しかしそのシューニャ自身が帰ってこない。
行きの合流速度からしてとうに戻ってきていいはず。
一度は途絶えたログインサイン。
今はログインのサインは点灯したまま。

サインアウトした際、作戦室は騒然となった。
帰還していないにも関わらずログアウトするというのは事実上の大破を意味する。
マザーに問い合わせても、
「現在ログインしています」
「一瞬ログアウトのサインが出ただろ!」
「その際はログアウトされました」
「どうして?」
「ログアウトしたからです」
「だからどうしてログアウトしたか聞いているんだよ! アホか!」
「接続していない為、ログアウト理由は不明です」
「役立たずが!」
「通信終わり」
「勝手に終わんじゃねー!」

苛立ちを募らせる様からミリオタに話しかける者は居なくなった。

「あっ・・・」

マルゲリータが声を上げる。
ミリオタはマルゲリータを見て、その視線の先を見た。
ハンガーにSTGホムスビの姿が入ってきたのだ。
「!」
マルゲリータが転げるように走り出す。
「待て! 俺も行く!」

Published inSTG/I

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