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STG/I:第八十話:ダンス

確信した。

 

こいつはグリンじゃない。

動きで感じられる。

性格の違い。

犬や猫ですら個性はある。

虫でもだ。

全ては違う。

それが自然物。

彼らも同じ。

あんな攻撃的なアメジストも有り得るんだ。

思い込んでいた。

アメジストは積極的には攻撃してこないと。

自分の都合のいいように受け取っていた。

「長距離索敵隊は最大船速! ホムスビはアメジストを陽動する!」

 

フォーメーションが完了しているのに速度をあげない。

この速度では差が縮まる。

何より方位がマズイ。

確実に本拠点と地球を向いている。

 

「ビーナス、隊長命令だぞ、どうした!」

「小隊長が疑義を提示しています」

「はぁ? どうして・・・マルゲリータ・・・」

 

もう信用出来ないってことか、俺を。

 

「小隊長が疑義を提示されている場合、もう一段上の権限である強制執行で可能ですが、強制執行しますか?」

「強制執行・・・」

 

駄目だ。

それじゃ駄目なんだ。

でも今は協議している時間はない。

「きょ・・」

モニター越しのマルゲリータが顔を上げ、こっちを見た。

彼女の目はシューニャが感じていたものと違っていた。

その目は疑いの目では無く、心配の目に思えた。

「マルゲリータ・・・時間が無い」

「一緒に逃げて」

彼女は言った。

「アメジストは追ってくる」

「振り切れる。隊長のハーベストと連携すれば、きっと・・・」

「問題は方位だ。地球を向いている。撹乱する必要がある」

「でしたら私も!」

「駄目だ。あの時とは違う。今の長距離索敵隊には対抗装備が無い。ブリーフィーングで説明した通り逃げの一手しかない」

「じゃ一緒に!」

「単に逃げるだけじゃ駄目なんだ。位置を悟られるのは絶対に避けないと!」

「それじゃ隊長が・・・」

「大丈夫。ブルーハーベストの最大船速は索敵隊のフォーメーションより速い。装備も撹乱と偽装が中心だ。君の”九尾の狐”の上位に当たるキュウビも積んでいる。部隊パートナーの静姫も搭乗しているからな。安心して・・・」

「でも・・・」

 

俺を心配して・・・。

マルゲリータ。

・・・すまん。

 

「大丈夫」

シューニャは穏やかに笑った。

「・・・」

顔を上げるマルゲリータ。

目に力が宿る。

 

突然ビーナスの絶叫。

 

「マーカー紫! アメジストです!」

 

「へっ?」

 

素っ頓狂な声を出してしまう。

 

「STGスイカ御神体のコンテナに入っていたのもアメジストでした!」

 

二体のアメジスト。

 

「新たなターゲットをアメジスト弐号体、先を初号体として明示します」

 

モニターに灯る。

小さめのアメジスト。

初号体の半分程度。

アメジストが同時に二体確認されたことは過去に無い。

それ故に「アメジスは特異個体でななかろうか」という仮説があった。

 

それは前代未聞の発見だった。

 

だからスイカ野郎は逃げたのか。

見たんだ。

魅惑的に光る紫の水晶を。

パージすればいいだけだろ。

意味がわからない。

なんであんな行動に出たんだ。

欲に駆られたか。

それともパニックか。

地震で桶だけを手に持っていた人を見たことがある。

 

部隊船内は沈黙が満たす。

今起きたことがまだ受けいられないでいるのだ。

 

「アメジスト、再び接近を開始!」

「え? 無用な戦闘はしないんじゃなかったか! まだ何かある? コンテナを再スキャン」

「何もありません。他のコンテナには登録外の物質は存在しません」

「じゃ、どうして・・・」

「わかりません」

是が非でも地球の位置を探そうってことか。

 

ホムスビのモニターを凝視する。

 

標準的なセンサーの全てはアメジストの効果により「未検出」と出ている。ブルーハーベストはアメジストのようなセンサー無効の敵宇宙生物にも対応出来るよう設計された索敵特化型の装備。イージス艦のような役割にあたる。

アメジスの周辺では通常機体は全てのセンサーに異常をきたし宙空衝突も起こりうる。ブルーハーベストはジャミングをある程度抑制し、アメジストそのものは検知できなくとも周囲の物質変化を分析することで視覚化することが出来た。そして、それを圏内の味方に共有することも。それはソナーにはある程度映るという事実から考案された。

その巨躯は膨大な処理能力を熟す為にあり、通常STGの百三十倍のセンサーを実装。常時周囲のリアルタイム分析を実施出来た。逆にそれ故、武装は極端に制限を受けた。パートナーへの負荷も高い。

 

意外なことに二体目は一体目の方へ向かった。

そして合流すると同時に初号体に激突。

互いに弾け飛ぶ。

花火のスターマインのように紫水晶が光ながら散った。

大きさと重量の差で弐号体が大きく跳弾。

初号体は体勢を立て直すと、真っ直ぐコチラへ向かってくる。

弐号体もそれに続く。

速度は弐号体の方が上なのか再び追いつくと体当たりを仕掛ける。

避ける初号体。

 

その動きはまるでダンスのようだ。

 

一体が先行し、もう一体はそれに絡むように動く。

時々、衝突しそうなほど接近しては、また離れる。

最初のアメジストが先導しているようにも見える。

 

「何をしているんだ・・・どう思うビーナス?」

「わかりません」

 

真っ直ぐ飛んだ方が速いはずだ。

事実、さっきより遅い。

差がひらいてきた。

何をやっている。

逃げるなら今のうちだ。

チャンス。

 

「待てよ・・・」

 

蜂が自らの居場所を教えるためにダンスをする。

その動きにどことなく似ている。

そうしたものなのだろうか。

だとしたら居場所を知らせようとしている?

マズイぞ。

本拠点からは遥か彼方とは言え、大凡の位置はわかる。

やはりここで食い止めないと。

 

(ダンスを止めさせないと!)

 

「ビーナス、索敵隊の進路を偽装出来ないか、このまま真っ直ぐ帰るのは避けたい」

「エンマクがSTG羽毛布団にも装備されてます」

「わかった。モフ、応答せよ」

「・・・」

「モフ・・・エンマクを出して進路を偽装したい。出来るか?」

「・・・」

「モフ・・・さっきは怒鳴って済まなかったな」

すすり泣く声。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

「出来る?」

「うん・・・」

「よし、指示を待って」

「うん・・・」

「マルゲリータ」

「・・・」

「辛かったな。大変な航海だったろう・・・最後まで行けるか?」

「・・・」

返事は無かったがコクリと頷く。

「いいチームだったのにしゃしゃり出て悪かった。台無しにした・・・」

頭を下げる。

マルゲリータは首を振る。

長い前髪を垂らし顔を隠す彼女は嘗て見た頃に似ていた。

これまで築いた自信が崩れ去ったのだろうか。

「STGホムスビで陽動するから、その間にエンマクで進路を偽装しながら飛んでくれ。エンマクで何機が偽装機体を俺の方へ、他は出来るだけ全方位に拡散。マルゲリータは九尾の狐を展開、偽装を手伝う感じで」

「一緒に・・・」

「地球と本拠点の位置を知らせるわけにはいかない」

「エンマクで偽装するなら大丈夫では・・・」

マユ子が怖ず怖ずと言った。

「見届ける必要がある」

「・・・怖い・・・」

「俺も怖いよ。でも大丈夫。ここまで皆でこれたじゃないか。行ける! ビーナスに合流ポイントを送らせる。そこにSTG長門や強面組を呼べ。彼らが守ってくれる!」

「でも隊長が・・・」

「ブルーハーベストなら単騎でアメジストを振り切れる!」

事実、ブルーハーベスト装備のホムスビは長距離索敵隊のフォーメーションより速かった。

「・・・隊長」

「・・・」

「わかりました」

 

(よし! いい子だ!)

 

「ビーナス」

「準備、終わってます」

 

まだアメジストは交わるように飛んでくる。

差は益々ひらいている。

今しかない。

 

(位置を知らせながら移動しているとしたら厄介だぞ)

 

「マルゲリータ! モフ! 三秒カウント準備!」

「あい!」「うん!」

「3・2・1!」

 

エンマクが散布。

宙空にキラキラとした粒子。

索敵隊は最大船速で一気に加速。

同時に、STGホムスビは転回した。

そのホムスビに二十機のSTGが付き添って見える。

本当にいるかのようなリアルさ。

同時に索敵隊と同じ編成のSTGがあらゆる方向へ飛んでいく。

恐らくマルゲリータが支援しているのだろう。

「ご無事で!」

マルゲリータの声。

(モフとマルゲのやつ・・・俺に付け過ぎだよ・・・ありがとう)

いい仕事をする。

「ビーナス、これからアメジストの横面を通り抜ける!」

「了解!」

「接敵後、ビーナスはキュウビを展開!」

「了解」

「静、抜けざまにツインカノン!」

「御意!」

複座後部の静は座したままカノンに移動。

その間、長距離索敵隊は紛れて一気に加速していく。

タイミング良く弐号体が初号体にぶつかった。

そして、

「長距離索敵隊、圏外です」

「もう見えないのか・・・」

アメジストの周辺は強力なジャミングが発生している。

ありとあらゆるセンサーが異常をきたす。

ブルーハーベストや長距離索敵隊の強固なセンサーをもってしても、あっという間に見えなくなった。マザーワンが認知出来ない未知の能力をもった隕石型宇宙人。

 

(無事で!)

 

アメジスト達はエンマクに陽動されてか、速度を落としぐるりと回る動作をした。

 

「抜ける直前で加速!」

「了解。接敵まで、六・五・四・三・・・」

「加速!」

一気に噴射。

「撃てー!」

体勢を立て直す初号体の側を通り抜けざまにツインカノンが凪いだ。

外殻に弾かれ全く効果は無い。

でもさすがに静だ。

人間のマニュアル射撃では到底当てることなど不可能。

あの一瞬、あの速度で当てていく。

「キュウビ展開。静、フォローして」

「御意」

静がコックピットに戻る。

STGホムスビはまるでセミが脱皮するようにスルリ、スルリと次々と抜けた。

そして折り上がると個々が飛びたつ。

各機体が全く異なる挙動を見せる。

その数、九機。

ビーナスが静のフォローを要求したのはハーベストをフル稼働中だからだろう。

能力を目一杯使っているのだ。

ブルーハーベストを使用しないとアメジスは目視しか出来なくなる。

モニターの端を目まぐるしく情報の海が流れている。

大量の赤い[未検出]の文字に二割程度の緑の[検出]の文字列。

それそものが何を意味するかわからないが緑の文字が希望に感じられた。

宙域の状況が手に取るようにわかる。

距離が開くと[未検出]が多くなるようだ。

 

ホムスビはそのまま突き抜けて行く。

バックモニターを見た。

 

「食らいついた!」

 

誰に言うとでもなくシューニャは叫んだ。

アメジストは索敵隊の方位ではなくホムスビの方へ大きく転回したのだ。

ついてくる弐号体。

相変わらず周囲を纏わりつくように飛んでいる。

 

二体のアメジスト。

新しい斥候。

やっぱり来ていたんだ。

危なかった。

アメジストのダンスを見る。

融和というより、対立のダンス。

社交ダンスにしても、しばらく見ていると仲がいいペアかどうかは素人でもわかる。

このペアから不協和音を感じた。

対立。

落ちた速度。

スイカ御神体のコンテナから出たアメジストはやけに小さかった。

 

「アメジスト初号体、弐号体に接触!」

 

また弾き飛ばされる。

紫のスターマイン。

 

「あの動作は何を意味するのか・・・」

 

堪り兼ねたように、初号体がクジラが大きな口を開けるように紫水晶を顕にし弐号体へ向かった。

それを難なくすり抜ける弐号体。

そして通り過ぎた初号体の真後ろにピタリとつく。

 

「何をやっているんだ・・・」

 

「撃ちますか?」

「いや、このまま前進する」

「了解」

何が起きている。

「弐号体にサブモニターをロックしてくれ」

弐号体は先行しているアメジストに体当たりを仕掛けているように見える。

味方を呼ぶためのダンスと思ったが違うのか?

他に意図が。

 

「弐号体の識別不能」

 

初号体にコブのようについているのが弐号体。

目視ではわかるがセンサー上では識別出来ないようだ。

 

(合体した?)

 

「キュウビ三号へ接近」

「え!」

アメジストは一瞬モニターから消えるほどの瞬間的加速を見せた。

「キュウビ三号融解!」

「え!」

モニターに再び現れた時には遅かった。

「静、反応が遅い。アームドラインを全展開なさい」

ビーナスが強い口調で静に指示を出す。

「御意!」

(アームドラインとはなんだ?)

シューニャが好奇心から後ろを振り返ろうとする。

「振り返らないで下さい! 後生ですから・・・」

静が言った。

「お、おう。わかった。すまない」

 

(まるで鶴の恩返しだ)

 

シューニャはそんなことを思った。

理由はともあれ、振り返って欲しくないのなら、そうすべきだろう。

複座の後部座席から猛烈な勢いでキーを叩く音が聞こえる。静だ。

まるでキーボードから外したキーを風呂桶にいれてジャラジャラ洗っている時のようだ。

静がキュウビを一部操舵しているのだろう。

 

初号体がキュウビ五号に向かっていく。

 

「また消えた! 回避!」

 

モニターの端の文字列が一斉に赤く染まった。

 

「キュウビ五号融解!」

 

モニターに再び姿を現した頃には融解している。

「ビーナス、あの一瞬モニターから消えるのはなんだ。どうして避けられない?」

「申し訳ありません。アメジストのジャミングが一時的に強くなりハーベストの出力を上回ってます」

鳥肌が立った。

(わかってるんだヤツは。ジャミングが効いてないことが・・・それを逆手にとった・・・)

戦闘時、ビーナスのようなAIは人間のような感覚では世界を見ていない。

寧ろ虫に近い。

映像の色合い変化や粒子の変化から分析し即座に対応する。

そもそも目というセンサーに余り頼っていない。

それ故にセンサーが一時的にでも無効化されると一切の対応が出来ない。

「キュウビの操作主導権を静へ! ビーナスはハーベストに専従、キュウビはフォロー程度に!」

「了解!」「御意!」

ビーナスは即座にシューニャの意図を汲み取った。

「有視界ベイル開放。複座後席、天球型サブコックピットへ移動、シールド最大。静、ネオ大浄衣を装備」

「御意!」

複座後席が沈み込む。

サブモニターに天球型サブコックピットの移動中の内部映像が灯る。

黒のノーマルスーツが吸い出され素肌が顕に。

次の瞬間には無数のアームが伸びてアンドロイド戦闘装束のネオ大浄衣を装着。

装備が終わる頃にはホムスビの先端に到達。

端部が少し開き天球型サブコックピットが宇宙に突き出された。

 

(なんとも恐ろしい光景だな・・・)

 

天球型サブコックピットから静目線のサブモニターが映る。

 

「キュウビ六号へアメジスト接近!」

ネオ大浄衣を装備した静が体をひねると、それに合わせてホムスビも回転。

「また消えたぞ!」

センサーに一斉に[未検出]の津波。

「駄目です。ジャミング中和出来ません!」

「静!」

静はスペインの闘牛士、マタドールが闘牛を華麗に交すような体捌きをすると、

両手、両足を美しく、すばやく動した。

「回避成功!」

六号はぐるりと撚るように動くとアメジストの突撃を華麗にかわした。

「オーレ!」

シューニャを手を激しく叩き、歓声を上げた。

「いいぞ、いいぞ! 静、美しいぞ!」

モニター越しの静が微笑む。

 

いや、喜んでいる場合じゃない。

アメジストは完全に釣れている。

次は、我々が偽装しながら逃げなければ。

 

「ビーナス、このままアメジストを陽動し、適当なところで姿をくらますぞ!」

「了解。一度、大型ソナーを打ちます」

「わかった!・・・いや、待て!」

「どうされましたか?」

「他の敵が潜んでいるとは言い切れない。ソナーは止めておこう」

「わかりました。では、現行のデータから潜伏エリアを示します」

メインモニターに映る。

(結構、先だな・・・地球がどんどん遠くなる・・・)

その間も、マタドールの見事な体捌きは続いている。

「わかった。任せる」

「了解」

キュウビ九号が避けた。

「オーレ!」

手を叩く。

「ざまみろーアメジスト!」

 

「気づかれました!」

 

静の絶叫。

「え?」

「アメジスト急接近!」

九号に避けられたままの方位で本体へ突っ込んでくる。

「避けて!」

再び静の絶叫。

「マスター見えません!」

ビーナスの絶叫。

モニターの端には[未検出]の津波。

 

シューニャの目には正面から突っ込んでくるアメジストが見えた。

Published inSTG/I

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