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STG/I:第五十七話:人ならざる者達

静が倒れたままに放置されていることに気づく。

まさか誰も何もしていないとは思いもしなかった。

彼女を起こそうとすらしていない。

手が空いている人間は明らかにいるのに。

その光景はあの日のことを思い出させた。

勤め人時代の出来事。

 

その朝、満員電車が新宿駅に着き、扉が開くと同時に一人の少年が棒のように倒れた。

顔は真っ白で意識がないと瞬間的に感じられる。

驚いたのは次の光景。

皆は当たり前のように通り過ぎようとする。

倒れた少年に気づかないのか。

躓きそうになる者。

躓いて文句すら言う者。

無視して先を急ぐ者。

よくて一瞥して通り過ぎる。

そこにいる全員がまるで看板が倒れた程度にしか思っていないようだった。

一人を除いて。

 

「静・・・」

シューニャは駆け寄ると声をかける。

「静・・・しず・・・」

静は目を見開いたままリアルなフィギュアのように固まっている。

「ビーナス!」

「はい」

横に彼女が立つ。

「静を動かしても大丈夫だと思う?」

「大丈夫です」

シューニャは静の頭を抱きかかえた。

体をくの字に曲げ、彼女の耳元で囁く。

「しず・・・返事は出来る?私の声が聞こえる?・・・ビーナス、彼女を診断して」

ビーナスは頷くと、静に歩み寄り額に触れる。

病人の熱を体感するように手をあてた。

「プリズンモードです。外部の接続を意図的にたっています。生命維持カプセルにセットしないと個体の活動に支障を来します」

 

部隊付パートナーはホログラムではないアンドロイドである。隊の物理的な要件もこなすことを目的としており、彼女らの仕事は非常に多い。

対して搭乗員パートナーは実務上のメリットから実体を持たない状態での運用となる。少なくとも物理的ベースを持つことはデメリットも大きいと言えた。

AIの構成要素も異なる。搭乗員付は人格の構成要素たる人格スフィアはマザーにいる。対して部隊付はアンドロイドの頭蓋内の装置にいた。主たる人格となる構成要因も部隊付パートナーは部隊全員の個性によって結果的に形成されるのに対し、搭乗員付は主人とSTGによってのみ個性付される。かように彼女らは似て非なる存在なのだ。単純な性能なら搭乗員付のパートナーの方がマザーに直結している分だけ優れいる。マザーのメリットを最大限活かせるからだ。

搭乗員付パートナーが素体をベースとしないのは理由があった。何時でも何処でも主人の要請があれば直ぐに応えられるようにした結果である。拠点内やSTGの中では何時でもホラグラムとして姿を現すことも出来た。もっとも身体が無いわけではない。

彼女らの身体は素体と呼ばれSTGに格納されている。特別なことが無い限り出ることはない。搭乗員の心身の不調等のメンテナンスでは素体が動くことがある。ただし戦果を必要とする。STG28に接続されている間は彼女らは常にベストな状態で維持され、STGの維持費として合算されているが、出た段階で分けられる。STG28は彼女達にとって、揺り籠であり、マイホームであり、同時に棺桶とも言えた。

STG出撃時は素体に人格スフィアが全て格納される。マザーとの通信が出来ない可能性にも応対する為であり、その際のパートナーは小さなマザーとも言える。簡単なスイッチ等はエネルギーの流れを操作することで押すことも可能である。マザーとの接続が確立出来ない場合のSTGの大破は、同時にパートナーにとっての死を意味する。

 

「動かして大丈夫か?」

「大丈夫です」

抱き上げる。

部隊員が奇妙な光景でも見るように注視している。

(あの時と同じだ・・・)

誰も手を差し伸べる者はいなかった。

「マスター、ストレッチャーを呼びましょう」

「いや、運んであげたい・・・」

「でも」

ビーナスがモニターを見る。

彼女の目線は「貴方にはするべきことがあるのでは?」と投げかけているように思えた。

(隊長として今すべきことが・・・でも・・・)

 

あの子はどうなったんだろう。

今でも時折脳裏を過る。

 

静の目が微かに動き、シューニャの二の腕に振れる。

彼女を見ると瞬きを一度。

「静・・・」

彼女は「呼んで下さい」と言っているように思えた。

「ビーナス、頼む。ストレッチャーを呼んで」

ストレッチャーがすぐに作戦室内に入ってくる。

静をそのままストレッチャーに乗せると、彼女の腕が力なく項垂れた。

その手をとり、ストレッチャーに乗せると、出ていく。

 

シューニャはそれを一人見守った。

 

「助けると遅刻しそうだな」

あの時に俺は思った。

自分の中から湧いたその言葉に金縛りにあったように動けなくなった。

一瞬の間。

私の後ろにいたであろうOLが少年に駆け寄る。

皆が迷惑な目線を射るように浴びせかける中、彼女だけが心配そうに声をかけた。

「どうしたの大丈夫?」

優しく穏やかな声。

まるで歳の離れた弟に声をかけるように。

俺は閉まるドアの内側から、その二人をただ見る。

今の彼らのように。

朝から大切な会議があった。

(俺は無意識にあの子より会議を選んだんだ・・・)

その日はずっと最悪な気分で仕事をしたことが今も思い出される。

「人間性を失っている」

躊躇した自分が恐ろしい化物に思えた。

「お前は何のために仕事をしている?」

問いかけた。

「稼ぐため」

「何のために稼ぐ?」

「生きるため。今は存在しているだけで金がかかる」

「瀕死の子供を助けるのに理由を探すほどに?」

「それは・・・」

「何が大事なんだ?」

「最近わからなくなった・・・」

「心を冷たく凍らせてまで何をしたい?」

「・・・いや!生きるのには金がかかるんだ」

「心を凍らせてまで?」

「いるんだ」

「本当に?」

「わからない・・・」

「あの子はどうなったんだろう」

「見捨てた。彼女以外」

「・・・」

「皆の目、覚えている?」

「・・・」

「迷惑だって目だった」

「皆大変なんだ!生きるだけで背一杯なんだよ・・・日々が限界を越えているんだ」

「子供が棒のように倒れても助けられないほどに?」

「もし彼が自分の子供だったら、やっぱり助けない?」

パソコンで書類を打つ手を止め立ち上がりトイレに駆け込む。

泣きそうになった。

会社で泣くわけにはいかない。

でも口を抑え泣いていた。

あの子の顔が今でも忘れられない。

 

(知らず嫌な人間になってしまった)

 

真っ白に光っている。

STG21の塊が。

何が起きる。

怖い。

(母さんに謝らないと。思えば勤め人時代には何度も酷いことを言ってしまった・・・)

 

「ミリオタさん。大至急スターゲイトへ!」

「わかった!聞いたかお前ら、フォーメーションをアンダー・ザ・シー」

「あ!すいません。そのフォーメーション入れてません・・・」

「はぁ!?ダウンロードしてろボケぇ!」

「え、だって・・・先に言ってくれないと・・・」

「なんだと!」

「皆さん落ち着いて、ダウンロードされてるよ。規定フォーメーションだから」

あっちは急に慌ただしくなっている。

「隊長ちょっといいですか。あのまま偵察部隊を帰還させるのは危険だと思いませんか?」

ランカーが進言する。

「どうして?」

「だって・・・本拠点の位置がバレてしまうかもしれません。あの火力ならあの位置からでも本拠点を撃ち抜くのは容易ですよ!」

そういう不用意な発言も恐ろしい。

アメジストのような件もある。

彼女は彼らのスパイだったんだろうか。

アメジストと隕石型はどういう関係なんだ。

「彼らが向かっているのは中継のスターゲイトですから。本拠点の向きとは関係ありませんよ」

あの件から必ず一つないし二つの中継ポイントを経て帰還するようにしている。

知らず本拠点の近くに身を潜めている宇宙人がいないとも限らない。この方法は直ぐに日本・本拠点の新しいスタンダードともなったが、この時点でそれを完全に実施しているのは彼らブラックナイト隊だけであった。

「でも万が一スターゲイトからの位置を追跡されたら我々は一発でアウトですよ?」

「そんな方法が彼らにあるのですか?」

「わかりませんけど・・・」

言いながら気づいた。

自分は苛立っている。

「いや、すまない。参考にさせてもらう。(決めつけは危険だ)その脅威は無いとはいい切れない。アップリケ、マザーからの情報をもとに、フェイクムーンに索敵系の装備、能力がないか調べて下さい」

「はい」

隊長の俺が落ち着かないでどうする。

(だから俺は元からリーダー肌じゃねーんだよ)

後悔は新しい後悔を生む。

愚痴は覚悟を鈍らせる。

「ありま・・・せん。多分、ありません」

心許ない。

「わかりました。ランカーさん、助言ありがとう。その可能性は失念していたよ」

シューニャは軽く頭を下げ、手を上げた。

その様子を索敵班のミリオタはモニター越しに苦々しく見ている。

「いえ・・・はい、こっちこそ・・・すいません出過ぎたことを」

「副隊長、出来るだけ急いで下さい」

「わーってるよ」

副隊長の声を聞いてランカーは顔を歪める。

シューニャはミリオタをいつも勿体無いと思っている。

態度一つ、言い方一つ。

それだけで彼の評価は随分と変わるはずなのに。

 

ドラゴンリーダーが凍結される前の日。

「明日からはお前の隊になるから余計なことは言いたく無かったんだが・・・ミリオタを出来ればそのまま副隊長においてやって欲しい。アイツは態度も口も悪いし、驕りが強い。でも・・・ヤツにはチャンスが必要なんだと・・・お前ならわかるよな」

「そのつもりですよ」

「さすが隊長だな!シューニャ。スマンな余計なこと言って・・・」

 

「エネルギーに変化あり!」

 

我に返る。

 

「どうなりました?」

「コースBです!コースBに荷重が変化しました!」

「何がありますか?」

「日本の公式スターゲイト”あ・六〇七”!」

「ゲートだけですか?」

「いえ・・・えーっと、ゲートを潜る隊列が・・・が・・・あります!」

まずい。

「ゲート全体へ緊急通信介入!」

「遮断・・・されてます!」

だとしたら本隊だ・・・追撃隊に違いない。

「本拠点の公衆回線へ侵入して!最大音声で!」

「え・・・でも・・・」

エイジは小動物のように震えている。

「早く!」

「は、はい!」

「ど、どうぞ・・・」

「こちらブラックナイト隊隊長シューニャ・アサンガ。敵巨大隕石の攻撃がスターゲイト”あ・六〇七”に向いています。ゲート利用の隊列の出口を大至急別なゲートに切り替えて下さい!繰り替えまします!大至急ゲートの差し替えを!」

フェイクムーンから青白い光が一瞬発せられた。

「あぁ・・・」

モニターを見ていたエイジの力ない呻き。

次の瞬間に真っ白だったSTG21の団子が黒くなる。

「スターゲイトから出てきます!識別番号から本隊の追撃隊と思われます!」

 

手遅れ。

 

「直撃!」

大きく広がった巨大な輪からしても、その部隊がどれほどの数だったかは容易に想像が出来る。恐らく一個中隊以上はいたであろう。彼らは出てきた瞬間に蒸発。スターゲイトともども。

「え・・・何が・・・なんで・・・」

「どうしました?」

「公式スターゲイトの”か・六五七”と”し・〇三二”が同時に融解してます!」

「スターゲイトの中を貫通した?」

(まさか・・・どんな原理で・・・それとも偶然・・・)

まさか同時攻撃。

「公式索敵情報は?」

「わかりません・・・公式の索敵網には異常がみられません・・・」

(まさか・・・アメジストのような宇宙人では・・・)

「グリーンアイさんはログインしてませんか?」

「まだです」

「副隊長!」

「喚くな・・・。索敵隊はゲートをくぐっているところだ」

「たった今公式のスターゲイトが同時に三つ破壊されました」

「はぁっ、どうして!」

「原因不明につき安全をみて次のスターゲイトには入らず一旦待機して下さい」

「・・・わかった。次のスターゲイトで一時待機する」

単に破壊するだけならSTG28の現行兵器でも容易だ。

ただしスターゲイトを潜る前の対象を攻撃することは出来ないし、ましてや中継地点のスターゲイトに今の瞬間で何かしらのダメージを与えることは不可能に思える。

「索敵隊の退避後に一旦全てのゲートの位置をランダム編成へ。本隊へも進言しておいて」

「でも・・・」

「わかってる。聞きやしないだろう。でも、やっておいて」

「わかりました・・・」

遮断されてはいるだろうし、無視もされるだろう。

それでも恐らく彼らは読んでいるし・・・聞こえてもいるだろう。

それほど愚かではない、と思いたい。

少なくとも今回の件で、もう無視は出来ないはずだ。

「スターゲイトは全部ランダム編成にしますか?凄い時間かかりますけど」

それもマズイな。

「三割ならどれぐらいかかりますか?」

「十五分です」

かかるな・・・。

「索敵隊がゲートアウトする近間の三割なら?」

「・・・五分って・・・感じでしょうか。でもそれでは余り意味がないような・・・」

「・・・それでお願いします」

「わかりました」

そのまま通るのは危険な気がする。

でも、余り時間もかけられない。

「フェイクムーンはどうなりました?」

「完全に停止。エネルギー反応もありません」

かなりの馬力をくうみたいだな。

あのエネルギー源はなんなんだ。

「マザーの情報から後何発撃てるかわかりますか?」

「わかりません・・・」

「目標、いきなり動き出しました!」

「ええ!もう動けるのか」

彼らの動きは全く予想だに出来ない。

マザーが全部情報を開示してくれさえすれば。

でも彼らの言うこともわからないではない。

もし開示することで自らに脅威を与えるのなら地球人でもしないだろう。

いや、そもそも、その存在する秘匿にするに違いない。

「マザーの公式警報です!」

「流して下さい」

 

”緊急警報発令、敵宇宙生物が出現、直ちに迎撃に向かって下さい”

Published inSTG/I

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