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STG/I:第五十五話:エンカウント

「どうして銀河の果で戦っているのにヤツらが月を知っているんだ!」

「落ち着けって!」

「おかしいだろ!月を知っているはずないんだ!」

「そんなの知らねーよ!いいから怒鳴るな!」

「裏切り者がいるんだよ・・・地球人の中に!」

「陰謀論はもうヤメよ・・・」

「今はそれどころじゃないだろうが」

「これ以上騒ぐとペナルティが・・・ね・・・」

「お願い落ち着いて・・・深呼吸!」

「賑やかだねぇ、揚げパン隊の皆さ~ん」

「オイ、行けよ!部外者は余計なこと言うな」

声を掛けてきた男がクルリと一回転するとアバターを褌にチェンジした。

「ば~か~か~ば~お前の母さんで~べ~そ~♪」

尻を見せ、騒いでいる男の前で叩いて見せる。

「・・・寄生虫があっ!」

騒いでいた男が襲いかかる。

「ヤメテっ!」

手遅れだった。

「ハイ、逮捕ぉ~」

彼の拳が褌男の顔面にヒットする前に動かなくなる。

「ランドステップ隊・・・地獄へ落ちろ・・・」

そのまま崩れ落ちる。

「遠吠え~心地うぃ~ね~!ご苦労さ~ん」

挑発した男は慣れた様子で元のアバターに戻すと鼻歌まじりに去って行く。同じ部隊と思しき彼らの怨嗟の念を背中に浴びつつ。

 

バトルシステムを使わない単純な暴力はヘイト値が極端に上昇する。混乱を生む要因になるからだが、一人でパニックに陥るのも時間と言動に応じて上昇する。騒ぎをおこす起点になる者も自動的にヘイト値が上がる仕様。これは戦時下等の混乱時に意図的なパニックや揺動、流言が必ずおこることから取り組まれた戦後世代の仕様である。

先の大戦でもこうした事態が任務の遂行に多大な悪影響を与えたことは分析結果からもハッキリしている。何時の世にも起きる事象であり、わかっていながらも人間の性質から避けがたい現象であったが、高度にシステム化された本ゲームでは可能たらしめた。

 

バトルシステムはロビー等で格闘をする為のものだが、双方の許諾が必要で何よりもルールがある点で大きく異なる。設定時に一定のバトルエリアが設けられ、外部への被害は出ない。日本では果たし合いシステムや仇討ちシステムとも呼ばれている。観戦することも可能。公式・非公式問わずバトル大会は其処此処で行われてる。このお陰で公的な暴力は皆無に等しくなった。バトル宣誓を行わないでの暴力行為は一発で一時凍結。

挑発や煽る行為もヘイト値を上げる。手慣れた搭乗員は表でボランティア活動めいたことをしてヘイト値を下げ、ある程度下がるとああした行為をして楽しんでいる。それらが意図的と判断された場合もまた凍結や剥奪、削除の対象になるのだが、一部の例外があった。

このシステムは一般プレイヤーの圧倒的大多数にとっては快適性を確保するもので大いに評価される。ブラックナイト隊等は特に恩恵を受けた。公的な場所では様々な煽り行為や挑発を受けて来たからだ。ただし、このシステムの導入により陰湿さは増したと言っていいだろう。何より持てる者と持たざる者の明暗がハッキリした。

持てるもの、それは委員会に属しているかどうか、中央に組みしているかどうかの差である。ランドステップ隊はああした輩を数多く抱えていた。にも関わらず、委員会の一員であり力も強い。彼らは自らが罰せられない方法を熟知している。他の部隊の搭乗員であればああした行為は一発で目をつけられ、定例BAN祭り(世間ではそう呼ばれている)で裁かれることになるが、彼ら委員会の者だけは常に除外された。

 

*

 

「彼の言う通りだな・・・」

 

ロビーで今しがたのやり取りを見ていたシューニャは思った。

どうして彼らが月を知っているのか。

理屈に合わない。

モニター越しに見たアレは紛れもなく月。

索敵にかかった公式情報からすると寸分違わず月を再現しているよう。

 

「なんでそんなことが出来る・・・」

 

ギルドルームに戻る。

「シューニャさーん!第一報が入りましたよ!」

最近プリンが出てこないのも気になる。

リアル優先だから煩くは言いたくないけど。

やっぱり寂しいもんだ。

元気ならいんだけど。

彼女の明るさは暗さの裏返しだからなぁ・・・。

「なんて言ってきた?」

「間違いなく月だそうです。えっと、クローンって言ってました」

大戦後の新人君。少年アバターのエイジ。

興奮しているのがわかる。

わかるよ、ワクワクするよね。

「月のクローンか。・・・ホログラムという可能性は?」

「えっと・・・どういう意味ですか?」

「概要レポ、送られてきてない?見せて」

「あー!はい・・・えっと、えーっと・・・無いようですね・・・」

画面を見慣れていないとそんなものである。

リアル系の本ゲームは見るべきところだけ見ないと情報量が多すぎて混乱する。

慣れる必要がある。

さっきみたいに簡易画面にもすることが出来るが、そこには出ていない。

世代なんだろうか、概要情報のみを、公式発表のみを鵜呑みにする傾向が伺える。

その膨大な背景に思いを寄せない。

それは危険なことだった。

「ココだね。実体とあるね・・・構成要素も月そのものか・・・ん?」

「あーほんとだー。ありましたね~」

「驚いた・・・最近着地した某国の後まで再現されているそうだよ・・・」

「某国?」

どうなってるんだ。

何故そんなことが出来る。

(お前たちは何なんだ・・・)

何時だったかリーダーが言っていたな。

これは代理戦争かもしれないって。

STGの宇宙人と隕石型宇宙人との。

俺たちは知らぬまにコッチの陣営ってことか。

(これだから派閥は怖い・・・)

それにしても何でマザーワンって言うんだ?

連中のことだ、地球人の誰かが言ったことをそまま転用したんだろうが。

またサイトウなのか?

(サイトウさん・・・生きていてくれ・・・)

彼無しで勝つことが出来るんだろうか。

彼がいなければ今頃地球は何度蹂躙されていたんだろうか。

「き、緊急通信!」

作戦室が赤く明滅する。

「シューニャはいるかー!」

「いるよ~ミリオタさん。そっちはどう?」

「どこほっつき歩いてんだよ」

「毎度のロビー。悪いね~どうした?」

「やべーぞこいつは!」

 

彼の興奮からも只ならぬことは理解出来る。

マルゲリータを中心とした索敵班の収集結果わかっことは想像を上回った。

紛れもなく隕石型宇宙人であること。

彼らは先の大戦で学んだ群体化現象を利用してか、個体ではなく群体化したまま進んでいること。しかも徐々に速度を上げていること。

中心核から十キロの内部が全くスキャン出来ない暗部であること。

日本・本拠点から出撃した委員会所属の本隊が対大型隕石型宇宙人兵器サテライト・アローを三拾発投擲したが、槍の先端部分である一キロメートルが刺さった段階で全て止まったこと等を上げた。アローは従来の十倍は大きい隕石型宇宙人すら、十体は貫く巨大兵器だったはずだ。先の大戦を想定して建造された武装だ。

 

(サテライト・アローが一キロしか刺さらないなんて)

 

「委員会の二の矢は?」

「シューニャ!笑うぞ。アイツら俺たちのこと散々クソミソに言った癖にドラゴン・ツー・ブレイドの真似事をしているぞ」

「へー、それってつまり?」

言ってもシューニャは先の大戦の経験は無い。

「ペンタゴンレーザーの準備している。もっとも規模が五倍ぐらいデカイが。この光景・・・リーダーに見せてやりたかったな・・・」

それもそうだ。

後で録画したデータを見せて上げよう。

シューニャはリーダーに会っていることを内緒にしている。

サイキ、つまりリーダーに口止めされているからだ。

「物理が駄目ならエネルギーってことか」

見えない中味が気になる。

暗部が。

「映像を出来るだけ大きく見せて、二分割で。右がフェイクムーン、左がペンタゴンレーザーで」

「は、はい!」

「あー逆ね、逆」

「あ、は、はい」

落ちついてと言われて落ち着ける人はおらんが。

「深呼吸して」

「え?」

「あ~・・・なんでもない」

やめておこう。

余計に混乱するだろう。

(左目がどうもおかしい・・・)

あの出力でどうなるか。

ブラックナイト隊の作戦室を見渡す。

 

皆の緊張がマイナス面に偏ってきている。

本隊への依頼心が大きいのも伺える。

希望は毒にもなる。

絶望慣れしていないと上向かせるのは厳しい。

 

(そんなに簡単ならこの戦いはとうの昔に終わっているだろう)

 

本部のペンタゴンレーザーはまるで天の輪だった。

巨大な光輪が幾重にも広がり、合計で九つ形成。

大きさは次第に増し、まるで神の力を想起させるほど巨大になる。

作戦室でも歓声が湧いた。

大きくなるほどに回転速度を増す。

 

(あれがミタニさんが自慢していた天輪か・・・)

 

裁判後に接収したドラゴンのデータをパクったんだろう。

どうしてアノ手の連中は見た目に酔いしれるのか。

実用性を知らず無視する。

リーダーが言ってた。

「アイツの驕り高ぶった面を思い出すと今でも笑けてくる」

ペンタゴンレーザーの原型であるヘキサゴンレーザーはブラックナイト隊にとっては苦し紛れの工夫から生まれた産物に過ぎない。無い時間と少ない戦果で出来る最大の効果を狙った代物。それをそのまま発展させたのが伺えた。

(ボロカスに言っていた割には実は気に入ってたということね)

「発射されます!」

「うん」

シューニャは昔見たことがあるアニメのソーラーレーザーを思い出す。

(あの中にいると思うと感無量だなぁ・・・)

フェイクムーン側のモニターは真っ白。

「真っ白で何も見えん」

ブラックナイト隊の作戦室では本拠点部隊の交戦通信が流れてこない。

彼らはこの期に及んでもなお、自分たちを除外しようというのだ。

だから自らの手で情報を集める必要があった。

そうでないと大本営の情報しか回ってくるものはない。

それは氷山の一角よりも小さなものだった。

「あれま~こんがり焼けちゃって・・・」

三十秒ほどの照射が終わると、月の真っ黒な姿が浮かび上がる。

サテライト・アローがまるで爪楊枝に見えた。

「あんな たこ焼き くえんぞ」

作戦スタッフの何人かが笑い、何人かは怪訝そうな顔を向ける。

 

「見えたか?」

 

ミリオタは冷静だった。

大戦経験者は流石に違う。

こっちはもうお通やになりそうだ。

「うん、見えた。駄目だったね」

「おい!見てみろ」

真っ黒になった表層がボロボロと剥げ落ちはじめる。

「はっは~、彼らからしたら、いい日サロでしたって感じだねコリャ」

少しすると元の姿に戻っていく。

「副隊長、体積はどう変化しました?」

「マルゲ・・・うん、うん。ん?ん~・・・君から言って」

ミリオタさんも変わったなぁ。

あの表情。

ひょっとして好きになっちゃった?

「あのー月の体積がですね・・」

「あ、元の体積に対して大まか何%減ったかだけ教えて」

「あ、えとですね・・・一%ぐらいです」

「ありがとう」

あのペンタゴンレーザーで、たったの・・・。

最低でも百発は撃ち込まないといけないってことか。

もっともそんなには撃てないはずだ。

今までの宇宙人とは全く質が違う。

どんどん手の内を晒している上にカードが少なくなっている。

「まさかだけど、あれって・・・質量が異常に高いとか?」

暗部が気になる。

「えーと、重量はわかりません」

「マルゲちゃんさ、意見を聞かせて欲しいんだけど、なんで公式は月と同じ重量だって発表したと思う?」

「推測だからです。計算したんですが、わかる部分から推測すると、月と全く同じなので、それで暗部も同じって思ったんじゃないかと・・・」

彼女もどうにか喋るようになってきた。

なんだか娘の成長を見るようで嬉しい。

「君はどう思う?」

「わからないのは・・・わからないと思います」

「そうだよね」

その通りだよ。

目に見えて速度が上がってるな。

「アンチクロスロードが完成してりゃな~、一発おみまいしてやるのに。どうするよシューニャ?」

「副隊長、本隊の三の矢は何が出ると思う?」

「ん~・・・ん?おいおいおい!これは!」

「これは?とは」

「まさかと思うけど、ドミノ作戦もパクルんじゃねーだろうな!あんだけクソさんざんボロカスに言ってくれたのに!やれ人権がなんだ!無謀がなんだと攻めてた連中が!」

「これが・・・」

引いた映像を見ると、規模さえ違うがそれを彷彿とさせた。

聖剣フォーメーションに似ている。

もっとも柄が短いが。

ドミノ作戦の改良版といった風情なのか。

一体で来たのはそうさせない為なんじゃないのか?

意味があるのか?

それとも単に内部から割くという部分だけを真似たのか。

どうも落ち着かない。

「本部につないで」

「あ!はい・・・」

(暗部が何かもわからないのに・・・)

今近づくのは得策とは思えないが。

「駄目です。拒絶されてます」

「すっかり嫌われちゃったね~・・・」

どんだけブラックナイト隊が恐ろしいと思っているのか。

そんなに手柄が欲しいか。

あの大戦で彼らの何を見てきた。

大戦後、我々の何を見てきたんだ。彼奴等は。

(・・・何か妙だな・・あ、そういうことか・・・)

「副隊長、どうして接近しているんですか?」

「いや、接近してねーぞ」

「接近してるよ。間違いない。近づかない方が良い」

「おかしいな?・・・あれ・・・落合、距離は維持と指示したろ」

 

ゾワゾワする。

嫌な予感が。

何かが地の底から這い上がってくる。

亡者の手が知らず足に伸びているような。

 

「偵察隊直ちに宙域を離脱して下さい」

「え?だってまだ連中の作戦を見ておかないと」

「いいから離れて!」

シューニャがこの部隊で初めて大声を上げた。

「お、おう。わかった。全機離脱するぞ!」

「はい」

「了解しましたー」

「あいあいさー」

「はいさー」

「しーかーさー」

反転し出力は上げているように見えたが、余り進んでいるようには見えない。

「あれ、おかしな・・・どうなってる」

身体に電気のようなものがはしる。

「全速力で!」

「あれ、あれ?あれ!」

逆に徐々に引き戻されだした。

(マズイ!何かある・・・あの動き・・・)

各機船体がまるで綱に引っ張られているように小刻みに揺れていた。

釣られた魚のように。

「落合!出力は上げているか?」

「最大船速です!」

「なら前進一杯!」

「アイアイサイー!」

少しだけ前へ進み出す。

(まさかとは思うけど)

 

「エイジ、アンチアンカー用意!」

 

シューニャは知らず再び吠えていた。

「え、でも・・・」

ブラックナイト作戦本部のオペレーター、エイジが動揺した顔を向ける。

「言われた通りに!」

声を荒げる。

エイジは完全に固まった。

アンチアンカーは登山におけるザイルを切断するような行為。

ブラックナイト隊では小隊編成のSTGは互いにエネルギーアンカーでつながっている。それは素早いフォーメーションの変化に必須だった。もっとも嘗てはツーマンセルの機体で行われた行為であったが、小隊単位で実戦に使いだしたのは解体されたドラゴンヘッズ隊が初めてだった。以後、これが他の部隊でも常態化している。フォーメーションは最早日本での常識的戦闘スタイルなのだ。

 

「静姫、アンチアンカー用意!切断後全機オート制御!撤退を!」

 

ギルドパートナーの静姫はうなずく。

「ミリオタさん聞こえたね!3・2・1アンチアンカー!」

STG同士をつなげているエネルギーワイヤーが一時的に切断。

減速をしそこなったSTGが全速で飛び出そうとする。他の機体も一瞬明後日の方に飛びかけた。しかし静姫によって姿勢が戻り隊列を整える。

コックピットのパニックが生々しい悲鳴となって作戦室を満たす。

「マルゲ。離脱しながらでいいから限界まで本隊の様子をモニタリングして」

「!”#%&&’&(UYJDSA<」

何を言っているかわからない。

「静。隊長命令モニタリング継続を!」

「徒然なるままに」

大戦前より便利になった。

ギルドパートナーを通して部隊の全てを掌握することが可能になったからだ。

無駄なプロセスを踏む必要がない。隊長権限で個別の設定を無視することが出来る。

もっとも乱発することは部隊員の不信感を募らせることにもなるが。

 

モニター上では恐ろしい光景が展開されていた。

 

本隊がフェイクムーンに飲み込まれていく。

落ちるように。

吸い込まれるように。

恐らくは聖剣と関係のない部隊も含め全てが。

蟻地獄の中に。

渦潮の中に。

台風の中に。

吸い込まれていく。

落ちていく。

 

(最悪のスタート・・・か・・・)

 

彼らも牽引ビームのようなものを持つのだろう。

どういう仕組でだかわからないが、あの暗部が鍵だな。

STG同士でしか出来ない牽引をどうして隕石型宇宙人も出来る?

アンカーの接続は勝手に出来ないはずなのに。

マザーが・・・裏切った?

まさかアメジストの件と関係があるのか?

 

(わからない・・・わかったのは・・・)

 

初手は完敗だということ。

Published inSTG/I

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