STG/I:第四十六話:疑惑の人 – ジュゲの小説 Skip to content

STG/I:第四十六話:疑惑の人

眠っている竜頭巾。

隊長がアカウントの凍結をされてからマイルームとシミュレーターを往復する日々。

 

このゲームでは所謂疲労システムがある。

一定以上疲労が蓄積すると行動出来なくなるものだ。無理をしてやることも出来たが、その際はライフメーターの減少や操作にズレやブレが出る仕様となっている。ライフがゼロになれば当然キャラクター死があり、それは同時にアカウント停止を意味する。ロビーで逝くことも可能だ。拠点内で可能な格闘でもライフは減る。それ故にロビーでは警察システムもあり、マザーによって監視もされている。

疲労システムは必ずしも珍しいものではないが、様々なゲームで批判の的に晒され多くのオンラインゲームで撤廃、課金要素とされた。本ゲームも同様で課金である程度回復することも出来たか、それは即時発動でもなければ効果もそれほど高いものではなく不評を買っている。宇宙人への仕様変更の要望も過去何度も試みられたが、変更不能の仕様として突っぱねられていた。アバターはリアルな人間より遥かに優れていたが極めて人間的なものとも言えた。

竜頭巾は疲れ切っていた。

 

リアルでも、ゲームでも。

大戦後、ゲームでの彼、リアルでも彼女は人が変わったと言われている。

そのことに彼女自身は気づいていない。

これまでの心の拠り所だったモデルガンを抱いて寝ることも知らず無くなっている。ベッドからサイドテーブル、サイドテーブルから机へのその住処をかえていた。

今や夢の中でも戦闘をしていることがほとんど。眠っているのか起きているのか、現実かゲームか曖昧になってきた。”僕”なのか”私”なのか。彼女は使い分けている自分にストレスを感じつつあった。

 

シミュレーターではヌルゲーと化したSTG。

 

難易度が低いならと自らの武装レベルを下げるだけ下げ、常にギリギリを見定める努力をしている。これまでは射撃系でも射程距離が比較的短く高出力型を愛用していたが、他の武装も使うようになった。これまでで初めてのことだった。嘗て、偵察を主目的とするサーチャーを「ゴミ」と吹聴していにも関わらず、サーチャーにも手を出している。

シミュレーターの難易度が低すぎるからと要望も出している。これまでゲームをしてきて要望を出したのは無かった。

内容は「高難易度のミッションも必要である」というもの。シューニャに相談した折、アドバイス通り要望書の基本フォーマットをネットで探し、大人のように出来るだけ簡潔に、丁寧に書くように努力した。添削もしてもらい徐々にブラッシュアップしている。

梨の礫だとは解っている。それでも竜頭巾は「背一杯やっておきたいんです!」と言った。凡そらしからぬ発言。

でも、本気が感じられた。大戦前は鉛のように濁っていた眼から想像出来ない力をもっている。シューニャは感動した。「羽ばたこうとしている」そんな言葉が浮かんだ。

 

部隊ブラックドラゴンは先の大戦での活躍を認められてはいたが竜頭巾のデスロードの使用や様々な疑義(多くは根も葉もないが)、違反行為から委員会への参画は出来ていない。今後も厳しいだろう。彼らは目を付けられている。

委員会の多くはこれまで聞いたことがないような新参部隊が牛耳り(恐らく古参が入れ知恵したのだろう)、大戦後の混乱に乗じて結託、談合状態となっている。

もっともシューニャ経由で条件付きではあるが密かに談合への参加を勧誘された。そのことは副隊長以外には言っていない。

条件が悪かった。条件とは「竜頭巾」を他の部隊へ編入させることや、先の大戦での内部データの提供、何よりサイトウ関係のことである。他にも「デスロード」に関する質問も多かった。彼らはブラックナイト隊が情報を秘匿していると思い込んでいるとシューニャは考えた。彼らに情報はない。弱腰で判然としない態度のシューニャの対応から、委員会は「ドラゴンリーダーも随分とボンクラを隊長に据えたもんだなぁ、ありゃ馬鹿だぞ。終わったなあの隊も」と言われるに至る。それはシューニャにとっては好都合であったが。

シューニャはこれまでのリーダーと異なる動きを見せ始める。

ブラックナイト隊でほとんど唯一ロビーにも顔を出し色々な隊長とも積極的に交流をする。本来は一人仕事が好きなタイプだったが、経験からもロビー活動の重要性を理解していた。苦手であったが、それ故に煮え湯を飲まされた苦い経験がある。

 

”グリーンアイがログインしました”

 

竜頭巾は飛び起きた。

 

「来たっ!」

 

恐怖のサウンドと共にそれは聞こえた。

ログイン通知をサイトウとリーダー以外オフにしていたが、今はオンにしている。特に個別サウンド設定でグリーンアイは目立つようにしている。ログインリストに目を走らせる。

 

”いる!”

 

グリンに関してはシューニャ、ミリオタ、竜頭巾の三人だけの秘密にしている。

彼女が宇宙人である確証は何もない。

それでも竜頭巾の緊張感は一瞬で高まる。

 

身支度をするとギルドルームに即座に移動。

 

入室と同時にミリオタと目が会う。

彼は、竜頭巾の紅潮し緊迫感で満たした顔を見て「落ち着け」と言いたげな所作をする。

三人は「知らんぷりをする」のが前提だった。

万が一の対策はとっている。

シューニャの発案で「ギルドルームを隔離する」というもの。

この権限はギルド隊長にあったが、シューニャは権限を竜頭巾に移譲した。

今日はまだシューニャはログインしていない。

ミリオタは拠点内で使える格闘プログラムや警護スキル、一部の者が認められているショックガンで制圧する案を出したが話し合いの末に保留となる。シューニャ曰く、宇宙人の能力が未知数であること、下手な戦闘行為は交渉を決定的に不可能にするとが理由だった。ただし、それらも視野に入れて対応すべきだろうとも言った。

本来なら戦果を貯めて「宇宙人に答申」したいところろだったが余裕がない。今の部隊には、搭乗員にも最優先にする課題が山積しており叶いそうにないとシューニャは考えた。先の大戦を経験したベテラン勢のSTGは軒並み中破以上。要となる主力は軒並み大破で、完全に新規から鍛えなおしている。引退したものもいる。限りなく引退に近い状態の者も。

 

”グリーンアイが入室しました”

 

(グリン!)

 

大戦時の様子と全く同じ。

まるで一人だけタイムスリップしたかのようですらある。

 

ログイン履歴が更新され、掛け値なしに初ログインであることがわかる。

メディカルにすら行ってないようで傷がそのまま。

(むしろ悪化している?)

怪我の表現は設定で消すことも出来たが、グリンはデフォのままのようだ。

怪我やノーマルスーツの損傷は修理をしないと悪化する仕様である。

最もそれは余程放置しない限り支障はないものだ。

不意にサイトウのことを思い出す。

彼はマメに治していた。

ほとんどのプレイヤーが自動修理、自動治癒設定にしている。

 

「・・・」

 

第一声が出ない。

竜頭巾はイメージトレーニングとは違い自然には振る舞えなかった。

無意識に鋭い眼光で彼女を射抜いている。

気づいたミリオタは「顔!顔!」と言いたげだが視界に入っていない。

グリーンアイは真っ直ぐ見返している。

視線は竜頭巾だけを捉え、表情からは相変わらず何の感情も感じられない。

口元だけ笑みを浮かべているだけに不気味だった。

以前通りと言えば、以前通り。

この口元の歪みが以前はもっと不自然だったが。

 

沈黙が流れる。

 

ミリオタも声をかけるタイミングを逸していた。

目が合わない。

グリンは竜頭巾だけを見ている。

ログインゲートの周辺に新兵が集いだす。

(マズイなあ・・・)

名前だけは知れ渡っている。

英雄の一人とされた。

 

「グリ~ン!久しぶり~ん!」

 

ミリオタは空気を無視し、渾身の発話。

そのリアクションは竜頭巾以上に浮く。

笑顔で手を振るが、言われなくともギクシャクしているのが分かる。

でも、無駄では無かった。

彼女は手を上げ、一瞥もせず通り過ぎようとする。

「待てよ・・・」

通り過ぎようとする彼女の肩をタツが掴む。

(おいおい!話が違うだろ!)

 

「あー!グリ~ン!心配したんだからー!」

 

新人達の人垣を掻き分け、プリンが飛び込んでくる。

「うー!グリン!グリン!」

そしてケシャ。

無口だったケシャも大戦以後は言葉を発するようになっている。

死線を掻い潜ったせいか、古参のメンバーとは少しづつ普通に話が出来るようになっていた。プリンはグリンに抱きつき、ケシャはその後ろから彼女の手の指を握った。グリンも目線こそ合わせないが笑みを浮かべている。相変わらず喋らないようだ。

 

竜頭巾は毒気を抜かれた。

緊張の糸が一気に切れる。

三人が部隊ルーム内にあるメディカルへ向かうのを黙って見守った。

「おい!」

言いたいことはわかる。

「ごめんなさい。全部飛んで・・・部屋に戻る。ます・・・」

ミリオタもそれ以上言わなかった。

 

ベッド横になる。

 

(逃げる気がないのならそれもいい。紐付けさえしておけば。でも、わからない。どうしてログイン出来る・・・。てっきりログインはもうしてこないと思っていた。自分にバレているのだから。次に来たら何をされるかわからないのだから。まさかあれは夢だったとか?・・・)

大戦後にマザーを介してログを調べたがデスロード発動後は記録がない。

何も証拠は無いのだ。

(いや・・・彼女は宇宙人だ。絶対に!)

確信する一方でモヤモヤもしている。

彼女が自分を助けたとも言える。

(どうして?)

優しさではない。それほど親しく無いのだから。

彼女の「見つけた」が今も悪夢の中で聞こえる。

恐怖ではない。

でも安堵でもない。

何を「見つけた」のだろうか。

どうして助けたのだろう。

サイトウと何か関係があるのだろうことはわかる。

今でもデスロードが止められた理由は判明していない。

デスロードの使用回数は”1”を示している。

使用はされた。

最終使用者の名前に”竜頭巾”の名前が掲示。

(彼女が止めたに違いない)

死の道を通ってきて尚且つ生きている者。

大戦後、彼の名前はサイトウ以上に轟いている。

メールもフレンド申請も全て無視している。

 

”不死の竜”

 

日本・本拠点でサイトウの存在は薄くなりつつある。

人の噂も七十五日は今でも健在のようだ。いや、もっと短いかもしれない。

人が興味を持つ時間は極めて短くなっている。

 

アカウント削除が決定打となった。

 

かくも人の熱い思いが冷え込むものかと竜頭巾は大戦後に眠れない夜を過ごす。嘗ての栄光は戦績が残っていないことから虚飾と叩かれ、人外過ぎる戦績が逆に信用を失うことにもなった。「あいつはチートを使っていた」と流言飛語が飛び出すと「俺はサイトウからチート使って気持ちいいって聞いた」と嘘が付与され独り歩き。彼を信じていた者達は罵倒され、劣勢になるに従い「見間違いだったかもしれない」から「冷静に考えるとそんなことはあり得ない」に変わる。そこまで余り多くの時を必要としなかった。

そして彼女らは愛しさ余って憎さ百倍になる。

サイトウのファンクラブは内部分裂を起こし、まるで隠れキリシタンのように人しれず地下組織化。プリンもその一人。彼女らの多くは戦績や戦闘のスクリーンショットやビデオで保存していたが、それすらも「加工したに違いない」と一蹴され、加工を偽装したデータが流されるや、人々は「やっぱり!」「クソ野郎だ!」「チーターだ!」「BANされて当然のヤツだ!」と乗っかり、罵った。プリンは毎日のように悔し涙を流し、シューニャのマイルームにケシャを伴って雪崩こむ。そして何時終わるとも知れない愚痴。

不思議と竜頭巾は平気だった。いや、平気なわけはない。ただ、気にしても無意味なことを知っている。二人で共に戦った日々。強くなるほどに強まるバッシング。あの頃を思えば今は穏やですらある。

 

誰が地球を救ったと思っているか?

 

多くの者はデスロードによって竜頭巾が地球を救ったと思い込むことにしたようだ。そうすることで心の平安を作り上げる。地球を救ったのはサイトウだが、その様子を誰も見ていない。マザーの記録にも残っていない。そこで彼らは事実を望むように捻じ曲げたのだ。

 

その為か、戦後はデスロードに類する装備が一気に増えたのも事実。

 

日本に見られる変形機構を供えたSTGも、サイトウを否定しながらもどこかであやかりたい心理がそうさせたものと思われる。何故ならその姿はサイトウの”STG/I”に似ていたからだ。デスロードの亜種は「登場者が死なない」以外は極めて危険なものだったが、自ら作り上げたシナリオを正当化させるために自ら思い込むことで麻痺しつつある。

 

竜頭巾は起き上がるとハンガーに向かう。

(グリンが唯一の目撃者だ)

万が一に地球人なら彼女は唯一の理解者になれる。

宇宙人なら、サイトウの戦果を、無実を知る唯一の存在と言える。

 

フラッシュドラゴンを見上げる。

サイトウの為に強化していたSTG。

もう彼が乗ることは無い。

それでも自分で乗ろうとはしなかった。

フラッシュを見ると今も勇気が湧き上がってくる。

冷たい外部装甲に顔をつけ、抱きしめる。

(サイトウ・・・)

強化は今も続けている。

 

その隣に新造のSTG。

大破したブラックドラゴンの後継機。

皆の自分に対する呼称をそのまま受け取った。

サイトウの言葉を思い出したから。

「自力もいいけど、案外ね、道は他人が示してくれたのが適したことが多いよ。後でわかるんだけどさ。自分の才能ってのは実のところ自分ではわからないことが多いから」

「嘘だろ!何だよソレ。テメーのこともテメーでわからないなんて馬鹿かよ。・・・あのクソ共が言ってるのが正しいって言うのか?ないないない!じゃあ・・・サイトウも俺もクソってことじゃないか!」

「いやそういう非難は言った本人が自分の影を相手に投影しているからコッチのことじゃないからどうでもいい。何気ない言葉とかあるでしょ?」

「何気ない言葉・・・なんだそれ。そんなのわかんねーよ。どこでわかんだよ。そんなの」

「・・・感だな。”あっ”って感じがあるんだよ。妙に相手の言葉が行動が引っかかる時とか。そういう時は自分の影を指し示していたりする。自分が気づかない部分。才能ってのもそうした辺りに埋まっているから。望まなくともあるもんだからね。才能ってのは。自分の望む才能があるわけじゃない。振り返ってみると、他人は的を得たことを言ってるよ」

「わっけわかんね!もしも~し、サイトウは厨二病か~?」

「厨二病で~す」

戯けたサイトウが思い出される。

 

(今はほんの少しだけわかるような気がする)

 

”不死の竜”と言われていると知った時は不愉快だった。

(何が”不死の竜”だ。不死じゃない、死の淵から助けられたに過ぎない。みっともないだけの惨めなだけのヤツだ!馬鹿の竜だ!死に損ないの竜だ!)

でも、頭に引っかかった。

外から見たら”不死の竜”なんだ。

新造STGが配布された時、真っ先に思い出される。

そしてこの名をつける。

不死ということは不滅。

 

”不滅の竜=イモータルドラゴン”

 

白銀の筐体。

「サイトウ、いいかな」

「どうしたんだ?」

新しいパートナー。

気づいたら彼とそっくりになっていた。

「違う。もっとぶっきら棒に言って」

「どうしたんだ?」

「う~ん・・・まあそんな感じか」

「良かった」

驚いて見つめる。

今のはサイトウっぽかった。

「サイトウ・・・」

似ている。

「サイトウだよ?」

違う。

サイトウじゃない。

「そこは『うん』だよ」

「うん」

「違う。なんていうか、優しく、丁寧に、『うん』 だよ」

「うん」

「違うなぁ・・・いいや、取り敢えず」

「わかった。それで、どうした?」

「あのさ・・・言って欲しいことがあるんだ・・・」

「うん」

パートナーのサイトウと見つめ合う。

相手はAIのNPCなのに今でも見つめるのは照れくさい。

「いや・・・いいや。今度で」

「わかったよ。何あったらまた呼んで!」

ドキドキしている。

(何をやっているんだ私は・・・)

竜頭巾は委員会が戦後に実施した仕様の中で最も評価しているものがある。

 

”パートナーとの恋愛要素”

 

それは少なからず心の支えになっていた。

Published inSTG/I

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