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STG/I:第三十九話:終わらない悪夢

半壊した日本の本拠点はもぬけの殻。

既に聞く者はほとんど居ないが、けたたましくマザーからの警告音声は鳴り響いた。

「緊急警報発令。

日本・本拠点所属のSTGによりデスロードが起動されました。

本拠点安全確保規定により移動を開始します。

総員移動に備えて下さい。

全隔壁をカウントダウン後に閉鎖。

露出ブロックは全て切り離されます。

STGの出撃および帰投は凍結。

安全の為、拠点内のプレイヤーはログアウトして下さい」

数少ない搭乗員の中に彼の姿。

”猫いらず”の隊長である。

「だから言ったんだ!だから言っただろ!だからだ!だから!だからーっ!」

顔を腫らし、横たわり、うわ言のように繰り返している。

その側にはもう誰もいない。

「動いた!」

 

本拠点に巻き付いたまま微動だにしなかったアメリカのSTGI。

ソレは突如として動き出す。

「戦闘用意!ヘキサゴンレーザー・チャージ!最大出力!」

「アクセプト!」

「チャージカウント開始します。十五・十四・十三・・・」

竜の襟の部分に相当するSTGが回り出す。

かのSTGIはゆっくりとその身を本拠点から剥がすと、元のマンタのような姿になり、悠然と宇宙を泳ぎだす。まるで興味がないかのような振る舞いに見える。

「どうしたんだ・・・」

「あいつも合流しようってのか?・・・」

「応答して下さい」

「隊長どうするよ?」

「ん?そうだな・・・」

「誰でもいい応答して下さい」

「ハンガリーのSTGIは?」

「引き返してします」

聞いてくれたか。

「隊長?」

ん、なんだ。

「日本の皆さん、応答して!」

ノイズのように交じる声。

宇宙人の連鎖爆発の影響でか通信障害が出ている。

残存兵か?

「タツ・・・」

何も出来なかった。

気を緩めると胸が張り裂けそうだ。

デスロードをもってしても、あの土星型宇宙人をどうすることが出来るとは思えない。

どこぞへと失せるアメリカのSTGI。

移動をはじめる本拠点。

(帰るが家がない)

戻れるところが無いということがこれほどの喪失感なのか。

血がすっかり流れ去ってしまったかのようだ。

このままログアウトして地球最後の時を待つか。

どんな顔をして。

(それは出来ない)

ここまでついてきてくれたこいつらを残してなんて考えられない。

決死の覚悟で成し得たドミノ作戦。

必死の思いで発動させたデスロード。

最後の一人になっても俺は見届ける。

でも、これから何をすればいい。

 

「誰か!」

 

この声・・・。

 

「遅いんだから!」

 

・・・プリンか?いや、さっきの声はケシャか?

タツが合流させると言っていたな。

「プリンか?よく無事に戻ってきた」

泣き声が聞こえる。

誰だ。ケシャなのか?

じゃあ、さっきのは。

「シューにゃん!どこ?」

「え!シューニャ?」

オープン回線か。

「待ってたんだよ!ずっと!ケシちゃんガン泣きなんだから!」

「あれ?聞こえた。いいんだよな、もしもし」

 

「シューニャ!」

 

目配せし、プリンとケシャの音声は一旦遮断し別の者に当たらせる。

「こちら日本所属ブラックナイト隊の隊長ドラゴンリーダー応答されたし」

「あ~隊長!良かった・・・間に合った!」

辛うじて聞こえる。

音声だけのようだ。

ジェスチャーでもっと増幅させてと合図を送る。

さっきからプリン達の回線と混線している。

「シューニャ・・・おっせーよ!間に合ってねーぞ!ったく・・・」

生きてた。

もう死んでいるんじゃないかと思っていた。

もしくは倒れているか。

ヤツの身体が悪いことは俺だけが知っている。

最も、聞いたことはないがプリンとケシャは知っているかもしれない。

元同じチームだし。

皆には黙っていたが、倒れている、死んだか。いずれかだと。

それはシューニャ自身が言っていた。

「自分が長期間ログインしてなかったら、倒れて動けなくなっているか、死んだか、どっちかと思って下さい」

寂しそうな声が耳に残っている。

嘘でも大袈裟でもない、経験を通して感じる声色。

「何処にいる?」

「地球です」

「ん?そりゃ俺たちも中身は地球だけど・・・」

「直接、なんていうか、ログインしないで通信しています」

そう言われてみれば彼のホムスビはドラゴン・ツー・ブレイドにおける心臓の位置に結合されており、部隊モニターはログインを示していない。

「細かい事情は後で。まず、こっちから戦況がわからないのですが、日本のSTGは何割ぐらい残ってますか?」

「有人のSTGは俺たちを入れて・・・二十八機。無人はとっくにマザーがっ壊していると思うよ。戦況は・・・崖っぷちをずーっとカニ歩きって感じだ。もう爪の先で立っている」

あれほど増やしたのになシューニャ。

皆で必死になって資材を投入した。

日本における資材の三割以上はブラックナイト隊によるものと言っていい。こんな小さな部隊なのに。人数順位では言えば十位に入ったり入らなかったりだった。ただし戦果では常に一位から三位を維持した。

シューニャは身体の悪いのをおして昼夜アラートに励んだ。考えてみるとミリオタもだ。仕事を適当に切り上げてはログインしていたのを知っている。皆も本当に頑張った。それが一夜にして全てオシャカ。

「そうですか・・・。STGIは何機か見かけましたか?」

「見かけたも何もアメリカのがさっきまで本拠点に張り付いていた。アメリカの本拠点は食われたらしい」

「ええっ!もう、来てるのか・・・他は?」

「他はない。ハンガリーが応援に来てくれたが、危険だから帰ってもらった。それがどうした?それよりもな・・・」

返事の代わりに周囲の騒がしい音が返ってくる。

「どうした?回りが煩いようだが」

「駄目ですか?」

誰に言ってる?他にも誰かいるのか。

「要件を言います。ハンガリーのSTGIの援護に向かって下さい」

援護?相手はSTGIだぞ。

「どういうことだ」

「理由を説明している時間は無いんです。とにかく残機全てを使ってでも護衛して、安全に送り届けて下さい。必ず必要なんです」

「ちょっと待て。こっちも本拠点が半壊しているんだ。挙句に今、安全装置の関係で今まさに移動を開始しようとしている」

「隊長!」

その正に今、本拠点が大破したブロックを切り離す。

そして空間が歪むと、ゆっくりと姿をかき消した。

ステルスモードだろう。

「たった今移動を開始した。それにプリンやケシャが命からがら戻ってきている途中なんだ。放ってはおけない」

「そっか・・・でも、んー・・・何って言えばいいか・・・」

シューニャの言葉のつまり具合からも色々事情があるのはわかる。

ただしこっちも黙っては引き下がれない。

「次に彼らが、宇宙人達が襲うのは恐らくSTGIです。ハンガリーは最後の一機なんです。だから守らないといけない。これからの戦いの為にも守る必要があるんです。何に替えてでも」

「最後?いや、何いっている。だから今さっき・・」

「聞いて下さい。日本を含め、世界に七機あると言われていたSTGIのうち六機は既に失われています」

「はぁ?いやいや、おかしいだろ。お前も見たよなアメリカのSTGIを」

「いや、あれは既に食われた後です!全部、食われたんですよ、ハンガリーを除いて!」

「え・・・誰にだよ」

「恐らく、ブラック・ナイトです」

「ちょっと待て!なんだそれ」

もう意味がわからない。

余りにも多くのことが起きすぎて。

どういうことだ。

じゃあ、あのアメリカのSTGIはなんだったんだ。

どうしてマザーは警報を出さない。

ミリオタの話だとアレは噂とも概ね一致すると言っていた。

ヤツの話だとアメリカのSTGIはB-2Aステルス爆撃機に似ているらしい。尻尾が伸びてくる点こそ違うが、形は確かに似て無くもない。とは言え、シューニャが嘘を言っているとも思えない。僅かな付き合いだが、アイツがこうした場面で悪質な嘘や扇動をするタイプじゃないことは判っているつもりだ。かなり慎重な性格をしていると踏んでいる。下調べをし無茶をしない。それでも勝負をかける時はちゃんとかけられる。ソイツがこの確信めいた言い方。

「お前が居なくなった期間と何か関係があるのか?」

「あります!信じて下さい!」

そういうことか。

わかった。

わからないけど、わかった。

わかった。

「わかった。直ぐに移動を開始する。我々はハンガリーのSTGIの援護に向かう。本拠点にも一報をいれておくが恐らく応援は無理だろう。全員強制ログアウトだろうから。隊員につぐ、ブラックナイト隊は直ちにハンガリーのSTGIの護衛に向かう!」

「ちょっと隊長、待って、どういうこと」

「本拠点を放置するのかよ・・・」

他の隊員はシューニャとの通信を知らない。

「スナップラブモンチー、直ちに最短距離を割り出し、最善のフォーメーションを検討してくれ!」

「んー・・・言いたいことは一杯あるけどわかったよ!」

「一難去ってまた一難ってやつかぁ・・シューニャ~貸しだぞー!」

「え、シューニャさん来てるの?」

「ミリオタさん、頼みましたよ!」

「任せろや!帰ったらそのパイオツ揉ませろよ!」

「ちょっと~!」

「ところでシューニャ、お前は、なんだ、安全なのか?」

「・・・そうとは言えません。が、こちらはこちらで何とかします」

一際大きな声が向こう側からする。

「もう無理だ!」

「わかりました。頼みます!」

「生きろよ!」

通信が途絶えた。

何が起きている。

いや、今は自分達のすべきことだ。

ハンガリーのSTGIを追うのなら猶予はない。

「我々はプリンとケシャを拾って、可及的速やかにハンガリーのSTGIを援護する!」

「やってやろうじゃないか」

「なんで?相手はSTGIじゃないか」

「ああ・・いつ終わるんだ」

「もうこうなったらヤケクソだ!」

「そうだよ。毒を喰らえば、なんとやらよ!」

「皿まで!」

「お前らもう朝だぞ!地球の夜明けだ!」

何度も分解しかけた心が、小さな希望に再び一つになっていく。

「出ました。ルート設定。隊長!」

「フォーメーションチェンジ・発信!」

 

*

 

「ブラックドラゴンと融合開始っと。さすがタッチャンだね。悪くない結果が得られそうだよ。でも、まだこれからかな。君の願いはアレだったよね?あの宇宙人を出来るだけ効果的にダメージを与えたい。願わくば止めたい。僕は出来るだけ君の願いを叶えるのが役目。その為には君も頑張って。壊れたら元もこもないからさ。ね、タッチャン」

竜頭巾のパートナーであるソードは座席と一体化しつつある彼の頬を撫ぜる。

繭に納められた彼の目は見開かれ血走っている。

瞳孔は散大し焦点が合っていない。

口からはマラソンでもしているかのように一定のリズムを繰り返す。

全身は縛られながらもガタガタと揺れていた。

その顔を暖かい眼差しでソードは見つめた。

 

*

悲鳴が聞こえる。

誰だ。

母さんか。

また母さんだ。

このままそっとして欲しい。

もう終わりにしたい。

もう嫌なんだ。

真っ赤に染まる浴槽。

意識が次第に遠のく。

思ったより死はそこまで悪いものではなさそうだ。

お風呂は暖かく意識も朦朧とする。

生きるよりいい。

だからこのまま死なせて。

もう辛いのは嫌なんだ。

生きているのはご免なんだ。

 

「お母・・さん」

 

言い争う声。

意識が明確になってくる。

あの声は・・・。

「お前は何をしていたんだ!」

「すいません」

「あの子は自殺癖があるのはわかっていただろ!」

「ごめんなさい」

怒鳴る声。

泣く声。

両親だ。

自殺癖ってなんだ。

そんなのあるのか。

誰のことだ。

誰の・・・

「・・・ことだ」

「あ、お父さん!」

「なんだ!」

顔を真っ赤に怒鳴る父。

顔真っ赤に泣く母。

毎度の光景。

「ヤメロ」

声にならない。

「大丈夫?わかる?お母さんよ。何か欲しいものはない」

「僕はどうして戻ってきたんだ」

声にならない。

「あ、二○三号室です。娘の意識が戻りました。ハイ、ハイ」

石像になったように自分を見つめる父。

何か言うことは無いのか。

「おい」

生還した娘に、

何か、

言うことは、

「ないのか」

大きなため息をつく父。

スーツを着ているところを見ると仕事中に着たようだ。

この目は何を意味する。

「死ねば良かったか?」

それとも

「なんだ生きてたのか」

がっかりか。

「仕事の邪魔しやがって」

出世出来そうにないな。

ざまーみろ。

この眼差しは何を意味する。

「言ってみろよ」

何か言えよ。

「糞親父」

何か言わねーか。

 

父は深い息を一つ吐いた。

眉を寄せ、目をつむる。

眉間を指でもみ、再び彼女を見ると踵を返し、病室を出る。

扉の向こうで会社に電話を入れる父の声が聞こえる。

 

「何か言えよ・・・何か・・・」

 

涙が出てきた。

もう枯れたと思っていたのに。

 

「娘なんだろ・・・テメーのガキなんだろ!」

 

声にならなかった。

*

 

「いい、いいよ。このまま上げていくよタッチャン。それにしてもドミノ作戦には驚いたよ。ああいうのを人間ならではって言うのかな?僕らには考えられないよ。可能性はゼロじゃないにしても凡そ無謀だよね。隊長は賢いね。だってあくまで絵に描いた餅として用意したみたいだし。言い換えればすがる為の希望だ。でも、やるほうはどうかしている。でもマザーが君らを気に入るのは無理も無いね。真似てる節があるね~。あーいいよ。もっと上げていこう。もっと。君のことだから地球の防衛線より前でヤリたいよね。タッチャンのお母さんってどういう人なんだろう。君はどうしてそこまで母親に執着するのか聞いて見たかったよ。君は自分のことを話すのが嫌いだったからデータがあんまり無いからわからないんだ。君が母親という部類に固執する意味がよくわからない。やっぱりあれかな?人間特有の思い込みなのかな。自己洗脳っていうの。君は泣いている人が嫌いだと言っていたけど、君が見ている夢の中のお母さんはいつも泣いているよね。嫌いなんじゃないの?ほら、まただ。『死ね』って言っているよね。それなのにどうして。どうして心配するの?面白いね人間って。まだ上げていくよ。大丈夫でしょタッチャンなら」

 

*

 

竜頭巾の部屋。

介護型のベッド。

その横には点滴を吊り下げる、キャスター付き点滴棒。

そしてパソコンデスク。横へ身体をずらせば直ぐに出来るように設置されている。

寝たまま出来るノートパソコンも見えた。

両方とも電源が入ったまま。

スマホやタブレットも持っていたが目と頭が痛くなるという理由でもう使っていない。

手を伸ばせば小さな冷蔵庫があり飲み物やケーキ等が入っている。

母がいつも補充していた。

 

竜頭巾は身体を起こし熊の縫いぐるみの頭を撫ぜながら語りかけていた。

 

「今ほどアメリカ人じゃなくてつくづく悔やんだことはない。

あの国は銃がすぐに手に入るでしょ?

僕は考えたんだ。

どうやったら楽に死ねるか。

生きている間に苦しんだんだから、死ぬ時ぐらい楽したいじゃない。

そうでしょ?

考えた。無い頭で精一杯ね。

僕が失敗した首吊りはキマれば早いけどコツがいるんだね。

次はうまくヤレそうだけど。

でも中身が全部出ちゃうそうじゃない。

さすがにそれは嫌かな。

だって僕の出したものを気持ち悪い顔をして掃除するでしょ。

いよいよになれば関係ないけど、死んでまで疎まれたく無い。

そうでしょ?

どうでもいいことだけど。

でも銃なら簡単なんだよ。映画でやってるでしょ。

ほら見て、こんな感じで構えて引き金を引けば痛みを感じる時間もなく死だ」

彼女はベッドの上に置いてあったモデルガン”S&W M29”を引きずるように手繰り寄せると、グリップを持ち、熊の縫いぐるみの首に突きつけた。

 

「この銃は、世界一強力な44マグナムだ。お前の頭なんかきれいに吹き飛ばせる」

 

熊を股の間に置き、両手でモデルガンを持つ。

ブルブルと震えながらゆっくりと力を込める。

 

引いた。

 

小さな火薬の乾いた音がなる。

 

「バーン!」

 

彼女は大声を上げると熊の縫いぐるみの頭を手で引きちぎる。

頭部を窓に向かって投げ捨てた。

外に飛んでいく。

 

「ほらね」

 

縫い口に何度も縫い合わせた後がある。

胴体だけ残った縫いぐるみを抱え強く抱きしめる。

それをまた置くと、今度はモデルガンを持ち上げ銃口を自ら咥える。

 

「同士。私も逝くよ。お前を一人にはしない」

 

手が震える。

力が上手に入らない。

グリップを握る手は孫の手のように細い。

震える。

銃口から金属の味がする。

 

ガチャガチャとノブが回ると父親が入ってきた。

 

「お前は何をしているんだ」

 

父の手には投げ捨てた熊の頭部。

咥えていた銃を辛うじて下ろす。

父が歩み寄ろうとした。

「来るな」

今度は銃口を父に向けた。

「お前・・・」

銃が重くて手がふらつく。

 

「この銃は、世界一強力な44マグナムだ。お前の頭なんかきれいに吹き飛ばせる」

 

父は両手をぶらりと下げた。

力なき表情で娘を見返す。

その娘は手が震えてトリガーが引けない。

力が入らない。

ブルブルと増えると重さに耐えかね銃と共に手が降りる。

 

「いい加減にしろーっ!」

 

荒々しく歩みよると彼女の顔を平手打ちにする。

己の無力さに泣いた。

銃があれば殺せるのに。

死ねるのに。

簡単に。

でも無理だとわかった。

トリガーが引けない。

今度は小さい銃を買ってもらおう。

それなら出来る。

「なんで私は日本人なんだ」

どうして死なないんだ。

苦しみだけがこうも長く続く。

 

*

 

「まだ行けそうだね。時間はあるよ。良かったねタッチャン」

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