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STG/I:第三十四話:絶望と希望と

(速い!速すぎる!)

 

レーダーの倍率を変更し、辛うじてロックすることは出来た。

しかし近づくことは敵わず遠ざかる。

「ロック圏内から外れます」

「オートチェーサー!」

「了解」

オートチェイサーはロック以後の行動パターンから移動を推測するもの。

あくまで行動予測なので必ずしもそこにいるとは限らない。

最も可能性の高いルートを選択していく。

パートナーが自動で選択する場合と、登場者が選択することも出来る。

ルートはどれも、ほぼ、本拠点を指していた。

「本拠点と通信が復旧しました」

 

「オープン回線で接続!」

「わかりました。・・・どうぞ!」

「こちら部隊ブラックナイトのドラゴンリーダー!現在アメリカのSTGIと思しき巨大生命体を追跡中!本機パートナーのオートチェーサーによると日本・本拠点に向かっていると思われる!警戒されたし!」

反応がない。

「誰でもいいから答えてくれ!」

応答が無い。

「ロビーの音声モニターを拾ってくれ」

「了解」

流れてきた音声には破壊音と悲鳴で満たされていた。

「マザーに接続!」

「接続しました」

「マザー!どうなってる!」

「現在、未確認巨大宇宙人と交戦中。本拠点防衛装置三割が消失」

速い!

信じられない速さだ。

「どの程度持ちこたえられる?」

「推定八分程度で壊滅します」

「壊滅しますじゃねーよ!同盟のアメリカ本拠点に救援を呼んだのか!なんでもかんでも指示を聞かなきゃ動かないとか言い訳すんなよ!」

 

「アメリカ本拠点は壊滅しています」

 

「か!・・・・かぁ?・・・・・かい・・・」

 

「ログの分析によると、巨大宇宙人はアメリカ本拠点直上に出現」

さっきもそうだった。

あの不気味さが思い出され身震いする。

「アメリカ本拠点を急襲し、十五分後に壊滅。本拠点機能は失われています」

言葉が出ない。

真っ白になっている。

言いたいことが遥か遠く彼方で泉のように溢れてくるのを感じているのに喋れない。

彼らのパニックぶりが目に浮かぶようで胸が痛む。

絶望が腹のそこから這い上がり身体を満たしつつある。

「あ・・・あの、あの・・・今から何分前?」

無理にでも声を出さないと飲まれそうだ。

「大凡二十分前です」

 

終わった。

 

本当だった。

マザーは言った。

STGIは未確認生命体で敵と認定していいと。

最優先攻撃対象だと。

皆もいっていた、敵だと。

わかってたんだ。

わかってたのに。

俺はわからなかった。

ならどうしてSTGIなんてネーミングした。

誰が?

どうして?

”I”とは何を意味するんだ?

でも・・・でも。

なら、サイトウは?

アイツはなんだ?

アイツは何度も、そのSTGIで俺たちの窮地を救った。

どうして?

どうやって?

(そうか・・・サイトウもやっぱり宇宙人なのか)

俺はどこかでサイトウに期待していたのかもしれない。

サイトウは違うと。

口ではサイトウを非難しながら奥底では奴に期待していたのか?

涙が流れそうになった瞬間、モニターに移った隊員の顔が見えた。

 

終わってない。

 

終わってないんだ。

俺には彼らを守る仕事が残っている。

地球には娘もいる。

まだまだこれからの人生だ。

通いつめて落とした奥さんも。

駄目だ。

終わらしちゃいけない。

 

そうだ。

 

思い思いが噴気の表情で彼を見ている。

さっきの行為に文句を言いたいのだろう。

マザーの音声は彼らには聞こえてない。

咄嗟にオフラインにし部隊員同士で話せないようにした。

まだ、終わってない。

「部隊回線オンライン」

「リーダー!どういうこことだ!」

「何が起きているの?」

「日本・本拠点が大変なことになってるぞ!」

「何でこんな仕打ちをするんだ!」

「聖剣隊と連絡が通じましたが先刃以外全て折れてます!」

「ああ・・・」

得も言われぬ絶望の味を舐めた声が聞こえる。

どうすればいいんだ。

 

「千刃隊ブラックドラゴンから通信!」

 

リーダーの顔が上がる。

「タツ!」

「隊長、皆!」

彼の声は静かで力強かった。

「タっちゃん!」

「竜頭巾さん・・・」

「ターさん!」

「生きてた、生きてたよぉ・・・」

「竜さん!」

「タツ!これから・・・」

リーダーの指示を切るように竜頭巾は話しだした。

「聞いて下さい。聖剣隊は我々を残し壊滅しました。日本の各部隊は既に全滅まで数えるほどです。これから先刃は最後のドミノ作戦を決行し、成否問わず、本隊に合流します。本隊は本拠点の防衛を提案します」

「いや!タツ、あのな・・・」

「通信終わります」

「タツ!待て!聞けって!」

「切断されました・・・」

「つなぎ直せ!」

「はい!」

「はやく!」

「・・・ダメです拒否登録されました」

豚員同士でも個別の拒否登録は可能な仕様だ。

「グリン・・・いや、”おはぎ”につないでくれ!」

「・・・ダメです、小隊拒否リストにも登録されました」

「どうしてだよ!」

小隊長権限で登録が可能だ。

でも、なぜ?

何かよからぬことを考えている。

リーダーは昔から竜頭巾のことが気になっていた。

それは能力的なこともさることながら、その性格だ。

彼は死と密接な状態にあったと感じた。

嘗て部下から自殺者を出した経験がリーダーにはあった。

気づかなかった。

彼もまた高い能力と才能を保有。

期待していた。

自らは部下の十倍は働いている自負があった。

だから出来ると思った。

出来る能力もあると。

竜頭巾に彼を投影した。

今度は死なせない。

「他の誰でもいい!連絡をとって今すぐに本隊に合流するよう指示してくれ!」

「わかりました!」

それとも隊長権限で小隊権限を白紙にさせるか。

でも、それをやると小隊内の権限を全て上書きしてしまう。

いや、そもそも今の状況に混乱を上乗せするだけだ。

「隊長権限で小隊拒否リストを無効化することは可能か?」

「可能だとは思いますが・・・」

小隊長の意向を無視することになる。

 

「独裁的すぎます!貴方の言うことが全て正しいんですか!」

 

亡くなった彼に言われたことが過る。

竜頭巾は妙に落ち着いていた。

何か覚悟を感じる。

(どんな覚悟だ?)

なんだあの感じ。

似ている、自殺する前の日の奴と。

 

「隊長権限で・・・」

 

「後三分で日本・本拠点!」

 

マザーの推定壊滅予測前四分程度。

どのみち合流は間に合わないか。

「よし・・」

出来ることをやろう。

「皆が言いたいことは終わってから聞く!俺たちは俺たちが出来ることをしよう。フォーメーション・・・・ドラゴン・ツー・ブレイド。俺が竜頭になる」

最も危険なポジション。

本来ならヘッドは防御特化型がなり、隊長機は最も安全な中央に布陣する。

「カッコつけんなよ・・・クソが」

ミリオタが凄んでみせる。

「勘違いするな。頭の方が操舵に都合がいいからな」

「ふぅん・・・なら、俺に右の刃をやらせてくれ」

「お前は刃ないだろ」

「これが俺の刃だ」

彼はリーダーに見せた。

「・・・なるほど。それを刃に使うか、面白いじゃない。任せた!」

「任された!」

「間もなく戦闘圏内!」

「よし!フォーメーション、ドラゴン・ツー・ブレイド!」

「アクセプト!」

「接続します!」

 

STG28は外形がシンプルな上で基本規格が同じだけに幾何学的なフォーメーションを組むのは容易だった。そこに目をつけたのはシューニャ。リーダーが立案していたフォーメーションを見たシューニャが自分が考えていたアイデアを出し、リーダーは数学が得意だという部隊員のワカに戦闘に有効と思われるフォーメーションを立案させる。そこにはミリオタら過去の軍事作戦等に明るい者も加わる。

 

彼らの訓練はフォーメーションの有用性の検証に費やされる。最も、他の部隊も似たようなことを考えていたが、彼らの部隊はたまたま全てが揃っていた。発想を生む者。それを形に出来るもの。有用性をわかるもの。戦闘に明るいもの。それらを訓練に費やせる者たち。

 

何より多くの者が躓いた課題をシューニャが解決する。

 

それは誰しもも抱く「本当にパートナーに全てを任せていいのだろうか?」という疑問だった。ゲームである以上、自分で操舵する楽しみが先んじる。これらのフォーメーションを人間がやるとなると、どうしても時間がかかる。瞬時かつ的確に動くにはパートナーに操舵の全てを移管せざるを得ない。

 

プランが煮詰まっていく仮定で彼らもまたその課題にぶち当たった。それをシューニャが融解させる。曰く、パートナーに全面的に移管させ、突発的な事象に対しては搭乗員の操舵を優先させるという発想だ。自分なりにその優先段階を煮詰めていた。補助に本船の基本コンピューターも使用する。シューニャはケシャの戦闘データを例に上げ、必ずしもパートナーや本船コンピューターの判断が常に最高の状態を示しているとは言えないと伝え例示する。突発性な事象には寧ろ人間の方が正しい判断を下すこともあると人間の可能性の話を。多くの反対を受けたが、リーダーは即座に採用し、竜頭巾もそれを支持した。結果、フォーメーションは事前に部隊員全員のSTGにプログラムされ、人の手を介さずにパートナーによって瞬時かつ自由自在に変えられた。

 

シューニャは更に一つの発想として基本仕様にある幾つかの機能を使いSTGの本来のコンセプトとは違う使い方を提案する。フォーメーション時に牽引ビームを粘着剤のような使い方をし、堅牢性、連携性、機体の保護を飛躍的に向上させる案を言う。これは、プリンと二人でやっていた基本的な使い方だったが、他のSTGでは一般的ではない使い方だったと知る。リーダー曰く「コロンブスの卵だな!」。彼は驚いた。最も竜頭巾は「コロンブスの卵ってなんだ?」と言ったが。こうして外郭のどこにでも走らせることが出来るエネルギーの防壁をつかい、接着性のゴムのようにフォーメーション時に接続する方法を立案する。

 

遥か先には半壊した日本・本拠点が見える。

 

悪夢そのもの。

頭の中で最悪のシナリオが幾重にも再生される。

腹の底から恐怖が湧き上がるのが感じられ、リーダーは咄嗟に彼らの悲鳴や動揺の輪が広げらぬよう隊員間の通信を切断しようとしたが、自らの命を断った彼の顔が浮かび今度は止めにする。

 

アメリカのSTGIは獲物を追い込むように本拠点の周囲をまわりながら尾を何度も突き立てようとしていた。本拠点防衛にあたっていたSTGはほとんどがマンタを遠巻きに見ながら、時折、発砲する程度に留めているのが伺える。帰るべき家が破壊させるのを遠巻きに指を咥えて眺めるしか出来ない。その中に、部隊”猫いらず”の部隊長の姿も確認出来た。リーダーに驚きはなかった。竜頭巾の言葉「アイツらはどうも気に入らない」が思い出させる。

 

「尾を斬撃後、食らいつくぞ!」

 

*

同時刻。

 

聖剣隊の先刃ブラックドラゴン隊が作戦行動を開始。

 

「ドミノ作戦、開始!」

 

敵の只中に突入する。

士気は下がっていない。

その理由は竜頭巾の預かり知らぬ部分だったが、グリン以外の彼らは竜頭巾の落ち着きが少なかぬ影響を与えていた。

宙域に味方の姿は皆無に等しく。

敵隕石型宇宙人はまるで宇宙規模のトルネードのように集結している。

 

瞳孔が見開かれ、獲物を捉えた豹のように満身に喜びを見せるグリーンアイ。

サイドから襲いくる敵をブレイドで両断するミネアポリスプププリン。

刃を分断しようと襲い来る小隊をあしらうアルガナ。

内部に食い込もうとする敵から守るリーガル。

遊撃を打ち返すヤマアラシ。

全ての敵の動向をを緻密に分析し適切な軌道を導きだす おはぎ。

奇策で敵を混乱に陥れると同時に本作戦の要となるケシャ。

全ての行動決定と接続されて八機のパワーを操り、尾部からの攻撃を防ぐ竜頭巾。

 

彼は互いを最高のパートナーと体感していた。

 

誰も愚痴を言わず。

文句を言わず。

相手を責めず。

外の様子に気を取られず。

自らが出来ると感じる最大限の行動に集中し、支持通り動く。

寄せては返す心理的な波。

下がり出した時、竜頭巾を見ると皆が落ち着いた。

彼の目にはココにいる全員の命が乗っていることが感じられたからだ。

 

”これでダメなら悔いはない”

 

そうした塊が全身を満たしている。

最も、グリーンアイを除いてだが。

 

「リーガル最大戦速!全員歩調を合わせて下さい!」

「了解!」

まるでアステロイドベルトの中を突撃するような状態。

いや、もっと酷い。

土砂の隙間を掻い潜りながら群体の中心部へ移動。

岩盤を掘削するシールドマシンのように力強く突き進んでいく。

宇宙とは思えない。

まるで地下だ。

地下帝国へ向け突き進んでいるよう。

リーガルは嘗て読んだことがあるジュール・ヴェルヌの「地底旅行」を思い出していた。

目的までの位置は常に動いており近づいたり遠のおいたりしている。

 

「あ」

 

この場に相応しくない抜けた声が聞こえた。

「ヤマアラシ直撃!」

「抱え込む!」

リーガルが巨大なエネルギーの盾を一時的に拡張しヤマアラシを保護しようとする。

その刹那。

盾の隙間から大量の宇宙人が砂粒のように内部に紛れ込んだ!

「リーガル閉じろ!すまん!後を頼む!」

自ら意図的に離脱するヤマアラシのSTG。

我先にと群がる群体がヤマアラシを食い破っていく。

濁流に飲まれ消えていった。

微かに火柱が見える。

「あああ・・・」

得も言われぬ声を上げつつも、直ぐシールドを立て直す。

「ビリっと来るよーっ!」

諜報と内部対策に装備を固めた”おはぎ”が言った。

「了解!」

「ショック!」

内側に閃光が発せられる。

雪崩込んだ宇宙人の八割が活動を停止。

「もう一発!」

全て活動を止める。

「活動停止を確認。ゴメンね~少し外壁にダメージが出たわ」

「寧ろグッジョブ!」

「すまん・・俺の判断が間違った・・・」

「間違ってはいない」

リーガルに対し竜頭巾は静かに言う。

速度がやや落ち、後ろから巻き込む数が増える。

(しかけるべきか・・・)

「え・・・嘘、どうして?」

「”おはぎ”ちゃん、どうした?」

「ヤマアラシがログアウトしていない・・・」

「え?!」

確かに小隊モニターにもログアウトになっていない。

点滅している。

食われた際にコンピューターの方が先にやられたか?

この点滅からして単なる故障なのか?

今のショックで一時的に自分達の船体コンピューターに障害が出ているのか?

「ソード、メディカルチェック」

竜頭巾がパートナーに問い合わせる。

「・・・問題ないね」

「この点滅はなんだ?」

「本船のコンピューターが大破直前に壊れたんじゃないかな?」

「ならどうして点滅なんだ」

「終了処理が十分に出来なかったんだと思う。一瞬だったからね」

一瞬だった。

この言葉が引っ掛かった。

ログアウトが間に合わなかった可能性も無いではない。

言うべきか・・・。

「大丈夫、ヤマアラシは安全にログアウトしたよ」

 

嘘をついた。

 

「良かったぁ・・・」

”おはぎ”をはじめ何人かが安堵の表情を浮かべる。

グリーンアイは全く気にしていない様子。

リーガルだけは疑心暗鬼の表情を浮かべ、言った。

「確認した方がいいんじゃないか?」

「無理だ」

即答する。

「・・・それもそうか。ゴメン」

「君は悪くない」

リーガルが一つ小さく息を吐く。

「ありがとう」

ありがとう・・・か。

ありがとう。

ありがとう。

お母さん。

皆。

リーダー。

 

「こっちこそ・・・ありがとう」

 

この為に生きながらえたんだ。

この時の為に。

無駄じゃなかった。

無駄じゃないんだ。

 

「目標地点接近、ターゲット発見ロックしたよ!」

 

「一閃フォーメーション用意。グリン、プリン、ケシャ。フォーメーションチェンジ!」

 

(お母さん、行ってきます)

 

母親とサイトウ、そして自分が三人で笑っている様が暗く沈んでいくのが見えた気がした。

Published inSTG/I

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