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やり彼:第三話:トド

今日もメソが俺の部屋でダラダラしている。
うつ伏せになり足をブラブラとさせ手帳を見る。
チチも見事なれどシリがまた実に素晴らしい。
(あの山に登ってみたい。にしても足がまたタマラン。ずっと見ていられる)
そんな誘惑にかられながら、彼女の動く足に猫が目で追うように釘付けになっている俺。
不意にトドのことを思い出す。

「お前、まだ”正の字”でつけてんの?」

メソの手帳は面白い。
高校の時、偶然から彼女の手帳を見てしまう。
鈍器のような音を出して落ちた物体が彼女の手帳だった。
「落ちたぞ」
拾って渡す。
「あ、ありがとー」
「って、重いな。それになんだこの厚み」
明らかに不釣り合いに盛り上がった手帳。
バンドで閉めてある。
まるで肥満気味のオッサンがベルトで無理やりとめて、肉がのっかっている様を彷彿とさせた。めり込むほどでないが。
「トドかよ」
脳内では胴にベルトを撒いたトドが浮かんだ。
シュールだ。
この一件以後、俺はメソの手帳を”トド”と呼び俺らの仲間内では定着した。
「あ、これね」
彼女は頼んでもいないのに手帳を開いて見せる。
メソは不思議だ。
なんでも開示したがる。
心も、胸も、股も、手帳すらも。
「これのせい」
スケジュールはハートで埋め尽くされていた。
小さなシール。
かなりキラキラしている。
いかにも女子っぽい。
どうして女子はハートが好きなんだ。
俺たちがオッパイが好きなのと同じことなんだろうか。
「なんだこりゃ」
「私の趣味」
「ハートが?ていうか、ハートが多すぎてスケジュール書けてないじゃん」
これ手帳の用をなしてない。
彼女に手渡された手帳をパラパラと捲るとハートばかりでスケジュールが余白に追いやられている。
「意味なくね?」
「だって忘れちゃうから」
「何言ってるの。忘れない為の手帳でしょ」
忘れてもいいように手帳なんじゃないのか。
見ると、ハートが十個以上ある日もあれば一つの日もある。
多くは何かしらのハートが貼ってある。
よく見るとハートにも種類があり、キラキラしたものが多いが色違いも複数ある。
女子というのはどうしてこうも装飾が好きなんだ。

「何回やったかなーみたいな。どうだったかなー的な」

「・・・」

いかん、思わず絶句してしまった。
メソのことではもう大概のことでは驚かなくなっていたつもりだったが。
いつも想像の上(?)をいく。
「ちょっと待て・・・。つまりそのハートはセがつくレイのアレをいたした回数で、ハートの色や柄が違うのはその質の違いだと・・・」
「そう」
”そう”ときたか。
実にアッケラカンとしている。
学校で彼女がセックスと言わなくなったのは俺が教育したお陰だ。
日本の学校や公共の場では無闇矢鱈に言うものではないと仕込む。
男子からめちゃくちゃ恨まれたがメソの将来の為。
彼女が言う度に男どもが大変なことになるし。
俺たちの悪ふざけでメソが一日に何回言うか遊んだこともあった。
結果は百回。
我ながらやり過ぎた。
先生に怒られているメソを見て俺は決断したわけだ。
こんないい子を誰かに怒らせてはいけない。
マサイなんか録音した音声を今でもオカズにしているらしい。
当然俺もコピらせてもらったが。

「てか、ほぼ毎日・・・多すぎなくね?」

何故か声をひそめる俺。
「乾く暇ないよ~」
満面の笑み。
「ファッツ?!」
思わず英語が出る。
お前な。
何を言っているんだ。
その笑顔の意味がわかんねーぞ。
ん?わかるか。
え?
どういうことだ。
「お前さ・・・ヤリ過ぎ」
「そうかな?」
なんともない顔をしている。
やったやつ出てこい!
クッソ羨ましい。
「中毒患者かよ」
「違うよ」
「大概の中毒患者はそう言うんだよ。しらねーけど」
「え、でも」
彼女は手帳を手に取り捲ると自慢気に指し示した。
「ほら、真っ白」
確かにその週はハートが無い。
その一日に誕生日と書いてある。
そもそも、ドヤ顔の意味がわからない。
普通だから、それ。
「ちょっと待て。普通は逆じゃねーか」
「何が?」
「ほら・・・誕生日だから燃え上がる的な、私がプレゼント的な・・・」
なんで赤くなるんだ俺が。
ぶっちゃけ想像してしまった。
息子よ、一旦落ち着こうか。
「禊だから」
ファーッ!
ミ・ソ・ギ、だとぅ?
お前、意味わかって言ってる?
俺の知っている禊と違う使い方な気がする。
そもそも禊ってなんだよ。
黒髪清掃系の可愛い巫女さんが滝にうたれて水行しているイメージしかねーわ。
「なんでそれが禊なんだよ・・・」
「ほら」
メソは再び手帳を捲ると、また一週間だけ丸々真っ白。
「あ・・・クリスマス前後と・・・」
どういうことだ。
それと禊に何の関係が。
「ほら、禊だから」
はああああああああああ。
「お前さ、意味わかってないでしょ」
「え、違うの?やってもいい日なの?」
しまった的な顔するな。
今、吹きそうになったろ。
「いやいやいや、そういうことじゃなくて・・・まぁ、やってもいいんだろうけど。日本では性なる夜とも揶揄されてるし」
「日本人はそこ勘違いしているよね」
なんだよその顔は。
「何目線だよお前は」
「だって私は」
そういってロザリオを見せる。
放漫な胸から。正確には豊満なんだろうが。
俺はこの頃からメソの胸を心の中で放漫と呼んでいた気がする。
お陰で漢字テストで間違いにされた。
このドヤ!とばかりに、漫画のようにデカイ、チチ様を。
もう豊かに満ちたどころの騒ぎじゃない。
現実世界に放たれた漫画だ。
素晴らしい!素晴らしき二・五次元!
この大きさでこの形、神よ感謝いたします。
今日も沢山発電出来そうです。
「世界一説得力ないロザリオだな。お前、謝っといた方がいいぞ」
「なんでよ~」
上体を揺するな。
オチチ様がお怒りだぞ。
息子、落ち着け。
ココは学校だ。
今はまずい。
鎮まりたまえ。
はあああああ、ノウマクサンナンダバザラダンカン・・・だっけ?
「ところでさ、なんでそれが『ほら』になるんだ?」
「自分でコントロール出来るんだから中毒じゃないでしょ」
「あー・・・。じゃあさ、今日から一ヶ月ハート無しで過ごせる?」

「・・・」

「すまん!悪かった俺が・・・いいから気にするな」
この世の終わりみたいな顔する。
ビックリした。
こんな悲壮感のあるメソの顔を始めてた。
凄い罪悪感である。
「いいのかな・・・」
「いい、いいよ、俺がいいよって言うのも変だけど、いいと思うよ」
「本当に?」
嬉しそうだ。
お前さ・・・いいや。
「お、おう」
「ありがとう」
「いや、別に俺は」
この伝説はクラスの男子の間で瞬時に広まった。
彼女の手帳を見るだけで前かがみになる男子多数。
さすが十代のパワー。
俺はまるで英雄と旅をした従者のようにトドの武勇伝を語る。
そのせいか男子達から講演と調査を依頼されることシバシバ。
事ある度にトドの話をした。
クラスでは妙なことになったけど。
「放課後またトドの話してくれ」とか「俺の誕生日はどうだった?頼む見てきてくれ!」
懇願されたものだ。
なんでか知らないけど自分の誕生日にメソがやりまくっていると凄く嬉しいんだそうだ。メソの話だとキラキラシールが最高ランク。男子は「俺の日はハートでキラキラだぞ!」と何故か自慢しあっていた。お前らがヤッタんじゃないんだから関係ない気がするが。
とはいえ俺も自分の誕生日がどうだったかはチェックしたけどね。
学校で皆がそういうもんだから。
女子から男子の間でトドがブームらしいという誤解を生む。

そしてしばらくするとメソから相談を受ける。

「手帳が重すぎるよ~」
ちょっと待て、何を今更言っている。
「ハートが多すぎるんだよ。単位を変えればいいんじゃね?」
「単位?」
「例えばハート一個で十回とか」
「そんな~ヤリマンじゃいんだから」
違うというのか・・・。
プンスカしているお前を抱きしめたい。
「そうだ」
伝統的な日本の数え方がいいな。
「俺が伝統的な日本の方法を教えるよ」
「教えて!」
可愛い。
すっごい、いい気分。
「正の字で書くんだよ」
「性の字?」
「そうだ。日本では”正”一つで五個とか五回とかそういう数え方を伝統的にする」
メソは伝統的という言葉に弱い。
日本の伝統について知りたいようだ。
「そうなんだ!そうする」
嬉しそうだ。
メソのこの幸せそうな顔を見ると、なんだかこっちも満たされるから不思議だ。
癒やしの力がある。
画数とか言い出すと面倒くさいので省略。
端数はハートなりなんなり勝手にするだろ。

どっこい、俺はこのせいで男子からまた恨まれることになる。

手帳が薄くなったのだ。
メソは行動力が凄い。
翌日には手帳が新しくなり一気にスリムになっている。
当然ながら男子は騒然。
メソの手帳だけで抜ける強者までいたぐらいだから。
彼らからすればトドは立派なオカズだったのだ。
あのメソにして、あのトド。
サカリのついた男子たちの想像力は俺が思った以上にマッハだった。
今にして思えば悪いことをしたと反省している。

彼女は誇らしげに俺に手帳を見せる。

「ちょ、おま!」
ずらりと並んだ”性”の字。
「え、どうしたの」
言うべきか、言わざるべきか。
「字が違う」
俺は言ってしまう方だ。
「だってチーちゃん”性”の字だって」
「そっちじゃなくて、ただしいの”正”ね」
「なんだ~」
意外に驚かない。
メソはめげない。
立ち直りがマッハだ。
俺がメソを尊敬する部分。
「いやなに、なんで”正の字”で五って数えるか意味あるんだよ」
「教えて!日本の伝統」
ここでそれを強調させるとご先祖様に凄い悪い気がするんだが。
「画数あるだろう」
「うん、習った」
”うん、習った”ってお前可愛いな。
「”正”しいって、五画なんだ、だから五だよ」
メソは虚空を眺めながら指を動かし一、二、三と数えている。
「あー!」
わかったのね~お利口ね~。
そんな気になる。
メソのオヤジがくっそ羨ましい。
こんな子供がいたら嬉しくて発狂しそうだ。
「この字だと八画になっちゃうだろ」
再び数えだす。
「ほんとだね!」
これでもかというほど見事な”我が意を得たり”という表情。
罪深いほどの可愛さ。
くっそ!なんかわかんねーけど、くっそ!
「この発展形でね」
俺は端数は書き順に従って途中まで書けば端数も処理出来ることを説明する。
俺は三画で止まった状態が好きだったりする。
メソはかぶりつくように俺を見つめ、好奇心メーターぶっちぎっているのが伺える。
「日本の伝統凄いね!」
ちょっと待ってくれ、そこを余り強調しないで欲しい。
全くもって罪深い女だ。
おれがその夜どれだけ自家発電したか知らないだろう。
あの晩、隣近所の電力は俺でまかなえたんじゃないかってぐらいだった。

今でもズラリと並んだハートのシールと性の字を思い出す。

また暫くして何かの拍子で手帳を見る機会があった。
あれは確か、メソと遊びに行く打ち合わせをしていた時だったか。
”正の字”がびっしり書いてあったのを見て俺はどうしてか寒気がした。
その話題には触れられなかったのは不覚。
俺が教えたせいでヤツの回数が増えたのは間違いないだろう。
ハートが貼りきれずに結果自制していたのを俺が開放してしまったようだ。
妙な罪悪感をおぼえる。
これも男子の間では伝説になっている。
俺への講演以来もしばらくは続いた。

「もう書いてないよ」

「そうなんだ」
「ほら」
メソは今でも見せて欲しいと言わないのに自分から見せてくる。
アナログ派なようで今でも彼女は手帳を使う。
「おおおお」
感無量だ。
パッと見でスケジュール以外何も書いていない。
ていうか、スケジュールびっしり過ぎるだろ。
お前はお米の国の大統領かよ。
なるほど。
ん、待てよ。
「あれ?・・・お前・・・全然やってないの?」
「え、やってるよ」
なんだこの気軽さは。
まるで近所のコンビニが今日も開いていような平然さと言えばいいか。
「どこにも書いてないじゃん」
「書かないよ」
「あー書かないようになったのか」
成長したものだ。
あれもこれもスッカリ大きくなって。
「面倒くさくなって」
そこかよ。
テヘペロとはこのこと。
犯罪的な可愛さ。
これに今では美しさと教養も滲み出ている。
今日も自家発電はワット数が上がりそう。
「ほら、高校ん時さ、お前ハートのシールや”正の字”でアレの回数メモってたろ」
「そうだっけ?そんなことがあったような、憶えてないような・・・」
なんという忘却力。
じゃあさっきお前がいった「書いてないよ」とは何の話だと思ったんだ。
「あ!思い出した。そう言えばそんなことあったよね。チーちゃんに教えてもらったんだよねアレって。日本の伝統!」
すまん、それは忘れてくれ。
「千回記念でやめたんだ」

「・・・」

おっといけない、今フリーズしてしまった。
今、何と言った。
え、千回?え、何が?
いや、ナニだろ、そこは。
いやいやいやいやいや。
千?
せん?
ナニが?
え?何の話だ。

「殿堂入り、みたいな」

なんだこの嬉しそうな顔は。
今の話にこの笑顔が該当する話題があったか。
殿堂入りいってお前、意味わかってんの?
とにかく・・・嬉しかったのか。
そうか、満足・・・したんだな。
やりきったのか。

「お、おう」

いつ頃 達成したんだ。
聞きたいけど聞きたくない。
もう今は何回になっているんだ。
恐ろしい。
聞くのが恐ろしい。
変な汗が出てきた。
ナチュラルに身体が震えている。
お前のソコはどうなっているんだ・・・。

「ブラックホール・・・」

思わず声に出てしまう。
「ブラック?ん?ブラックホール?がどうかしたの」
「いや、なんでもないよ・・・そうか・・・なんかわからんけど良かったな」
何が良かったんだ。
俺、何言っている。
「うん」
その弾むような笑顔。
その裏で何が・・・。
そしてブラックホールは今どうなって・・・。
俺らのナニを全て飲み込む性のブラックホール。
身震いをする。
「チーちゃんどうしたの鳥肌たっているよ。温めてあげようか~」
「平気だよ・・・なんでもない。間に合ってます」
「え、どうしたの?」
「大丈夫・・・です」
「えー!私なにかおかしなこと言った」
「言ってません」
「本当にどうしたの?」
「別に・・・」
「なんでよ~教えてよ~」
彼女が俺の腕を握りしめ上体を揺する。
実に無駄のないキリっと締まった腕。
柔らかい手、白く長い指。
その放漫な胸は突風に煽られた風鈴のように激しく揺れている。
それはけして俺に触れることはない。
なぜなんだ。
不条理だ。
俺はまだ一回もしてないのに。
世の中、間違っている。
千回に含まれている野郎共・・・
呪われろ。

Published inやりすぎな彼女と乙女みたいな俺

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