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黄レ麗:第五十四話:作戦会議

僕らはあの日からほぼ毎日会うようになった。

学校では目立つ。

僕の思いとしてはナガミネを巻き込みたくはない。

お化け大木ことトロロの木の裏もさすがに毎日ではいずれバレる。

これは僕が映画や事件のニュースから学んだこと。

同じ場所に同じサイクルでいれば必ず見つかる。

ナガミネはネットで落ち合おうと提案したが、当然ながらレイさんがネット接続環境を持っているはずもない。

(こういう所、彼女はオッチョコチョイだよなぁ。あの会話でわからないものか)

挙句に、「え!インターネット知らないの」と今更ながら驚いていた。

(この前、言ったでしょ。聞いてなかったんかい)

どうして女子は僕からしたらどうでもいいことは「忘れたの?嘘でしょ、信じられない非道い」って人非人のように言うのに、自分は肝心なことを忘れては「仕方ないでしょ」って開き直る。

 

結果的にそれが僕にとって福音だったかもしれない。

 

外で待ち合わせるにも目立つ。

僕らの行動半径は似たり寄ったり。

そこを外れて行動するにはお互い時間がかかる。

ナガミネは「誰かの家でやろうか」と言った。

僕としては万々歳なのだが実際のところ女子の家ではマズイ気がした。

その一方で、レイさんが真っ先に「私の家でいいよ」って言いいそうだなと、期待とも不安とも言えない感情の中で僕は彼女の声を待つ。

予想に反し彼女は黙りこんだ。

あの部屋を見られたくないのだろうか?それとも隣人にまた暴言を吐かれたら困ると考えたのか。もしくは、僕だけが特別・・・そんなことはないか。

駄目だ、これ以上は妄想してはいけない。

思うに勝手に期待するのが全ての間違いの始まりな気がする。

自ずと僕の家に決まった。

たまたまレイさんのアパートとナガミネのマンションの概ね中間に位置していたのも皆が納得する材料になった気がする。ナガミネの賛同は大きかったかもしれない。正直ナガミネは恥ずかしがって嫌がるかと思ったら、彼女はすんなり賛成した。

(ナガミネはよくわからない)

 

お互いに用事がある中でも一時間でもいいから必ず集まった。

そこで作戦会議。

僕らはあの日、役割分担を決める。

SNSは元々ロム専だったナガミネが担当。

ログをチェックし、会話のムードがどう流れているか把握。

そして「名無し」と「2号」の発言をチェックし、コピペしテキストを保存。

何か動きがあったら僕らに合図する段取りだ。

落ち合う合図は”咳払い2回”、その時に顔を見合わせて頷いたら例の場所に集合することになった。

下心があったつもりはないんだけど、咳払いだと風邪の時もあるから、普通はしないであろう動作、ウィンクなんてどうだろうか提案した。

「セクハラ」

全く・・・何でもセクハラかよ。

一瞬むっとした僕の気持ちをレイさんが払拭する。

「それ逆に目立つんじゃない?」

「・・・・あーそうだね」

なるほど、言われてみるとそうだ。

クラスでウィンクして顔を見わせたら・・・。

「なるほど、無いね」

「想像したでしょ」

くそ、ナガミネ。

鋭い。

レイさんが僕にウィンクするのを想像してしまった。

「してないよ!」

否定しておく。

レイさんは笑っている。

可愛い!

 

二人の提案で僕は普段と変わらぬよう過ごすように言われる。

役割としては場所の提供と会議の際に方向性を決めたりする参謀的役割かもしれない。とにかく余計なことをしないことに注意する。

彼女らの推測では「名無し」は恐らく女性であること。二人の見解は一致していた。そして僕に好意を寄せている可能性があること等が挙げられる。正直それはどうかと思ったけど、一旦受け入れる。僕は好意というより何か策があるんじゃないかという気がした。もっと別な策略が。それが何かまだ全く宛所がない。

そのことからレイさんとナガミネは出来るだけ普段僕と接触しないことになった。三人が結託していることをバレないようにする為でもある。いかにも接触しないようにするとわざとらしくなることから、出来るだけ自然体に退く形にし、レイさんの提案で、女子との接触を減らしていき、敢えて「名無し」の狙いが成功しているかのように思わせる風に見せることになった。レイさんも考えるものだ。相手の策略に敢えて乗って動きを見るなんて。

レイさんの役割は一人でいることの利点を活かし、クラスに「名無し」とおぼしく人物がいないか、もしくはクラス外で彼女を観察している人がいないか探りだすこと。かなり重要な役割を担うことになる。

僕はその点に関しては反対した。SNSのログからもレイさんの行動がつぶさ観察されていることはハッキリしている。これこそがストーカーだろう。

 

僕の推理はこう。

レイさんが変身がしてからこの攻撃は始まった。つまりレイさんに一目惚れした誰かの可能性は否定できない。無理もない。何せ美人だから。男ならほっておかないだろう。彼女の転身以後、僕に対するマドレーヌの風当たりが一層強くなった。これは嫉妬だろうと思う。仲がいいから。全くもって大人げない。

今までレイさんを本当にいないかのように接してきた先生が何かというと彼女を呼び出した。明らかにオカシイ。時々レイさんに聞くけど「なんでもないよ」と彼女は何も言わなかった。マドレーヌに限らない。ハッキリ言って男の先生方は浮き足立っている気がする。

それどころか学校の男子の多くがそうだろう。休み時間の度に代わるがわるクラス外の男どもが窓から顔を覗かせているのは最早隠しようがない事実だ。毎日のように見に来るヤツもいる。きっとこの中に犯人はいる。

ただ僕の推理には決定的な問題があることもわかっている。だったらどうして僕のことを攻撃しないかだ。僕を擁護する意味がわからない。これは二人にも指摘された。その時、僕はナガミネの手前何も言えなかった。振られたことは言ってないから僕なりの根拠は示せない。振られたヤツを責めても何も出てくるはずがないから攻めようがないと言いたかった。ただ根拠としては弱い。

僕が彼女に振られたのはマキとマイコちゃん、マイサンズの皆だけが知ることだ。マイコちゃんは女子にしては口が硬いと思う。人間的に信頼がおける。たとえ冷戦状態であろうともオイソレを言いふらすような子じゃないと思えた。ヤスやミツは元々口がかたい。一番危なかっしいのはマキだけど、それでもマキが肝心なことを漏らしたことは過去一度も無かった気がする。気のせいかもしれないけど。万が一彼なら仕方がないと思える自分がいる。

ストーカーの好意というのは必ずしもストレートじゃなく遠回しなこともあると聞いたことがある。だからこれは「名無し」の彼女へのラブコールなんじゃなかろうか。少なくとも「名無し」はそう思っている。単なる嫌がらせにしか思えない行為だけど歪んだラブコールの結果の可能性は否めない。僕は出来るだけ彼女から離れるよう努力する手前、どうしても観察することが出来ないことから心配だ。あんなか弱いレイさんが男の力に抑えられるようなことがあったら僕は悔やんでも悔やみきれない。でもレイさんはそれを許さなかった。

何より彼女が申し出たことだ。

「私が見つける」

この時の彼女の表情は正直怖かった。

ナガミネからは僕にこんな注文も来るし。

「マーさんはレイちゃん見過ぎだから」

くっそ。

恥ずかしい。

そうなのかな?

「そんなに見てないよ」

「見てる」

「レイさんはどう思う?」

ストーカーって思われていたらどうしよう。

自覚がないって怖い。

これがドラマならジキルとハイドみたいに僕の別人格がしでかしているなんてことは・・・・ないな。

「ご免、気付かなかった」

笑った。

可愛い・・・。

でも「気付かなかった」ってのも少し傷つく。

一瞬、漫画みたいに小さく舌を出す。

くっそ、可愛い、ヤヴァイ。

「ほら!今凄い見てる!」

「そりゃ見るでしょ今は。だって話題の中心なんだから」

なんなんだナガミネは。

「違う。いやらしい目で見てた」

「見てない見てない!」

僕にどうしてそう突っかかる。

何が気に入らないんだ。

「私はわからないけど、マーさんは私を見ないよう努力ね」

恥ずかしい。

「わかりました」

まただ。

ナガミネの言う通りにしたのにきつい目で僕を見る。

「じゃーその変わりナガミネをガン見するってことでいいよね」

当然冗談だ。

気の利いたことなんて僕が言えるはずもない。

「なんでよ」

笑った。

ナガミネは感情の上がり下がりが激しいな。

 

ナガミネは元々僕と絡むことはそうなかった。

座席も遠く、昼休みも一緒に食べたことはない。

授業で同じ組み合わせになったこともなければ部活もクラス担当も何から何までが違うから当然かもしれない。あの文化祭で恋人役という設定が無かったらこんなことにはならなかっただろう。彼女にとっては幸いなのか、不幸なのか、僕にはわからない。でも少なからず僕は嬉しかった。ま、僕だって年頃の男子だ、どうあれ女子と絡めるのは嬉しい。だけど単にそういう理由だけでない。

僕は勿体無いなと思っていた。

身勝手な話だけど、彼女は磨けば光るタイプだと感じている。

凄い可愛いというわけでも、美人ってタイプでもないけど、ちょっと可愛らしいと感じていた。特に声がタイプ。アニメ声というか、いかにもって感じではなく可愛らしい感じ。また仕草がいい。どこか上品さを感じさせる時がある。普段はそうじゃないのに。一人の時のナガミネは古いタイプの女性っぽさがあると言えばいいか。ちょっと無理があるけど吉永小百合のような。

父さんが最近「この歳になって吉永小百合さんの良さがようやく判るようになった。凄くいい」と言っていた。大女優らしい。僕はよく知らない。

父さんは昔の映画で彼女が出てくるたびに「どこがいいのか未だにわからない。美人だとは思うけど」と聞いてもいないのにひとりごとを言っていた記憶がある。なんとなく耳に残っていた。

僕は「上品って、ああいう人なんだろうな」そう感じていた。その程度だ。

彼女が一人の時はどこか品があった。

皆がいたり誰かを意識すると急に人が変わる。

ハムスター的な。チョコマカする。

宇宙的な会話や、取り付く島もない感じ、ハムスター的なものをどうにかすれば彼女は相当魅力的になるだろう。僕ならほっておかない。そう思って見ていた時がある。

 

何も進展せず数日が過ぎる。

 

「マズイわね」

三々五々僕の家に訪れ作戦会議。

ナガミネは言った。

「名無し」の執拗な観察と行動の暴露からクラスの不安感が高まっているように読み取れるという。無視していた連中からも、「いい加減にしろよ」と無視にも限界がきていることを伺える発言が見られる。そして散発的に小競り合いが起きた。

「名無し」はかなりの執拗さのようで、こうした散発的な攻撃や無視にも全く臆さず、寧ろより意思を強めている気がする。ま、ムキになっているというか。

この執拗さと、論点が全くズレた感じ、こっちの言い分は全く聞いていない感じだ。不意にある人物を想起させた。

スズノだ。それと怒った時の母さんもそう。

なるほど、そういう意味では女子なんだろうか。

今更ながら自得する。

ただ男でもこういうヤツはいる。

「2号」なんてマキっぽい。

冷戦状態じゃなければマキじゃないかと思っていたところだ。

「どうする?やっぱり僕が書き込んだ方が速いんじゃない?」

作戦会議の初日、僕はそう言ったのだがそれは逆効果だと二人に拒否られた。

「それはやめよ」

ナガミネが厳しい表情で言う。

こういう時のナガミネは妙に凛々しい。

文化祭の時のオドオドした彼女はどこへやら。

「なにナガミネちゃんをじっと見てるの~ぉ」

間延びした言い方でレイさんが小悪魔的な顔を浮かべる。

「え?」

ナガミネは顔を真っ赤にさせる。

やっぱり上がり症なんだろうか?

「浮気もの~」

レイさんが凡そらしからぬ声で冷やかした。

何故に浮気もの?

「ほんとそうね、男って、女好きでイヤラしくて」

ナガミネがそう言うと妙に違和感がある。

どうして同意する。

「ねー」

「ねー」

なんだこのシンクロ率は。

「アウェーだな・・・マキ・・・助けてくれ」

「何やっぱりマキ君とはそういう仲なの?」

「そういう仲って?」

いやいやいやレイさんは興味持たなくていいから。

女子はどうして二対一になると男を虐めるんだろうか。

イジメは言い過ぎにしても急に逆風が強くなる。

真面目な会議のはずなんだけど何故こうなる。

この目線がズレた感じがあるお陰でか、僕は少なからずこの一件に大して気を煩わせなくて済んでいることに後から気づく。

少なくとも、こうして二人が話している姿を見るだけで、何かを信じられる気がした。きっと何事もいずれは上手くいくだろうという得たいの知れない安心感に覆われた。

Published in黄色いレインコート麗子

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